72:既視現象
2026/03/08 話数番号表記追加
「はい、これで今回の依頼は終了です。お疲れさまでした」
その日も俺は王都のセイア地区の冒険者ギルドのカウンターで依頼達成の報酬を受け取っていた。いつものごとくコーリーへの臨時便の返信で連絡用魔法円を使わなくて良い程度の急がない仕事であって気が楽だった。
一仕事終えたのでその帰りにオトヤ方面で受けられるような依頼がないかと掲示板を眺めていたが都合の良い依頼は見つからなかった。しかしオトヤ方面ではないがある依頼書がなにか眼に引っかかってくる。妙に既視感を覚えるその依頼書の内容を見ると、以前にも確かに「へー、こんな貴族がお抱えじゃなくてギルドに依頼出してるんだ」と感じた記憶が蘇ってきた。だが日付を見ると依頼があったのはここ数日のことだ。これもなにかの縁ではないかと直感を信じてその依頼書の木の板を手にとってカウンターへ向かい受付嬢に話しかける。
「この依頼が気になるんで詳しく聞いてみたいんだが」
受付嬢はその依頼書を見て内容を確認する。
「えーっと、カールトン家からの依頼で内容はオクシまでの臨時便ですね。なにか問題でもありましたでしょうか」
「いや、俺の記憶が確かなら最近同じ依頼を何度も見たような気がしてな。もしかしたらなにか問題があって依頼の失敗が多いような難易度の高い仕事なのかと思ったんだが」
「そういう事ですか。記録を調べますのであちらで少々お待ち下さい」
受付嬢はそう言って待合を示すと奥の事務室へ声をかけて依頼書を渡すと問い合わせ内容を引き継いだ。俺は待合で少し待っているとややあって事務室から何枚かの板を抱えた事務員が現れた。
「チャックさん、お待たせしました。こちらの依頼についてご説明しますのでカウンターへどうぞ」
案内された空いていたカウンター席で向かい側に座った事務員と対峙する。
「まずこちらの依頼ですが、たしかにほぼ同じ内容でこの数か月に何度も依頼がありました。月に一回以上の頻度ですね」
そう言って先程の依頼書と、事務所から持ってきた何枚かの依頼書を示す。たしかにそれらはほぼ同じ内容であったが、最新のものを除きすべて完了済の署名もされており依頼失敗という表記はない。
「おわかりかと思いますが依頼はすべて達成済みとなっています。完了確認での聞き取りで問題があったならばその旨も追記されているはずですが、それもありませんのでトラブルがあったわけでもないでしょう。頻度が上がったのはこの数か月ですのでおそらく依頼主の方でなにか頻繁な連絡を要する事情が発生したのでしょうね。こちらでわかるのはそれぐらいですが、他になにか訊きたいことはありますでしょうか」
そう言われて俺は改めて依頼書をじっくりと見直す。依頼人はカールトン家の当主ダーネル・カールトン名義で届け先はオクシの村のカールトン家別邸で宛名はカルム・カールトン。その他の追加事項としては返信を受け取ってくることというのがあって、報酬は臨時便としては結構高めだ。
「オクシの村っていうのはここからだとどのぐらいだったかな」
伝令人になって以来いろいろと各地を回っているがまだオクシの村には行ったことがない。報酬が高額なのも考えるとおそらくはかなり外れの方になるのだろう。
「そうですね。ここからだと街道を逸れずに一本でずっと通っていけますが、普通に一日で次の街や村までのペースで歩いていくと片道で半月ぐらいですね。要返信ですので往復していただくと一か月ぐらいはかかるということになるでしょう」
一月ぐらいでのこの報酬となるとまあ妥当な線よりちょい上ぐらいで悪くない案件だ。そのあたりも考えにいれてちょっと頭の中で都合がつくかを検討する。
俺しかできない仕事というと専任になっているコーリーからの依頼があるが、先程それが終了したばかりであってまだまだしばらくは大丈夫だろう。そもそもコーリーに急ぎで連絡するなら薄い紙の限定だが転送魔法円で連絡を取っているはずだ。多少は遅れても問題ない。
また俺が拠点にしているオトヤでは単独行で長距離の臨時便を引き受けられるのは他にはいないが、複数人で組めば長距離の臨時便に対応できる人間は十分にいるはずだ。一か月や二か月は俺が臨時便を受けられなくても問題はない。
「うん、問題ない。この依頼を受けさせてもらおう」
「ありがとうございます。ではこちらの依頼について受付の手続きをいたしますのでこちらの方へ署名をお願いします。事務質の方へ書類を回して担当の者から詳細内容についての打ち合わせをいたします。そのあとで荷物を引き渡しますので、あちらの伝令人控室でお待ち下さい」
こうして俺はまた長期間にわたるような案件を請け負った。しばらくオトヤにも帰れなくなりそうだから不在になるという連絡もしておこう。ギルド内での連絡なら定期便へ便乗させれば料金も不要だったはずだ。
新章の開幕。今まで行っていなかったあたりまで行かせたいなと遠くへ。




