70:植物採集
2026/02/28 脱字修正
「チャックがやってるそれ、押さえぎみにしといてくれる?」
洞窟の入口に到着したところでコーリーが注文してきた。
「それ、っていうのはこれか?」
そう答えて強めに出していた気配感知を押さえてみる。俺の気配感知は魔力を併用しているせいで強く出せば弱い相手への威嚇として使えるようになっている。パーティーの仲間だった魔法使いから助言を受けた結果だが、便利なのでほぼ常時発動していて弱めにするのは狩りをするときぐらいだ。まあ雪熊みたいな強い魔物は気にせず襲ってくるが。
「そうそう、こういう特殊な環境には珍しい生き物が生息していたりするからね。いいのがいたらついでに捕獲もしたいし」
俺の気配感知について話した覚えはなかったが、さすがにこの国でもトップクラスの魔法使いであるコーリーは自力でコントロール可能というところまで気がついていたようだ。
「一応確認しておくが、襲われたときは安全第一で倒していいんだよな」
「わたしの方で索敵魔法を使うから突然襲われることはないと思うけど、もちろん自分が優先でいいわよ。捕らえたいときは魔法で拘束するし」
「了解だ。他になにか注意はあるか」
「あとはこれね。皮膚が出てるところに塗っといて。それと飲み薬も」
コーリーがそう言って小瓶を二つ取り出す。
「ああ、雪割草の近くには毒草が生えてる事が多いって言ってたな。その対策か」
「時間がなかったから専用じゃなくて全般的に耐性を高めるものだけど無いよりはマシなはずよ」
言いながらコーリーも顔などに薬を塗ってこちらに渡し、もう一つの小瓶から薬を飲んでいる。冬山装備なので露出している部分は少ないが。俺も顔に薬を塗り終わるとコーリーから飲み薬の小瓶を受け取る。
「これ、どのくらい飲むんだ。一口でいいのか」
「もう瓶に口つけちゃったし、残り全部飲んじゃって。空き瓶は返してね」
返答を受けて瓶に口をつけ中身を飲み干し瓶を返す。
「もういいかしら。じゃあ行くわよ」
コーリーが魔法を使って光球を生み出しスタスタと洞窟の中に入っていくのを慌てて追いかける。しばらくは普通に歩いていたコーリーも入口からの光が届かないぐらいになると周囲を確認しはじめた。
「やっぱりこういう環境だと生態系も普通じゃないわね。あそこの苔なんかなかなか他では見られないわよ」
コーリーが指差す方を見るが俺には普通の苔とどう違うのかもわからない。
「そんなに珍しいならあれも採集していくか?」
「いいえ、あれは珍しいだけで特に使い道ないから。まあわたしが知らないだけかもしれないけど」
「王都研究所のトップクラスでも知らないなんて事があるんだな」
「魔法使いは自分の業績を誇りたいってのが普通だからたいてい情報は共有されるんだけど、肝心なところを秘密にしてる人もちょいちょいいるのよね」
「武道家が奥義を秘密にするようなものなのかな」
「そっちのほうはちょっとわからないわ。あ、そっちの壁に生えてる草が例の毒草ね」
コーリーにそう言われて慌てて下がる。
「花粉を直接たくさん吸ったりしなかったら大丈夫よ。それは結構使い道あるから採って行きましょう」
そう言ってコーリーはその草を摘み始める。
「花粉って言っても花はないようだが」
「小さいし緑色だからわかりにくいけど花は咲いてるわよ。あ、チャックも目印用の粘土持ってたわよね。フィンのために目印しときましょう」
「ああ、注意するようには必要か」
荷物から赤い粘土を取り出して適量をまるめて岩壁に貼り付ける。その間にもコーリーは草を摘み終わったようだ。
「これはこのぐらいでいいわ。先へ進みましょう」
引き続き洞窟を奥へと向かっていくとたまに小動物とも遭遇する。普段は魔力で散らしていてほとんど遭遇しないからこれもまた久々の体験だ。
「珍しい動物や魔物もいるんだけどめったに見ないというほどじゃないし」
コーリーも興味を示さないので捕獲することもなく放置して進む。ときに凍りついた滑りやすい地面があるので進行速度は早くない。さらにときどき植物採集が交じる。
「やっぱり素材としては逃げ出さない植物のほうが入手しやすくて使い方も研究されてるのよね。こんな雪山の洞窟でも生えてるのは珍しいし」
そうやってしばらく進むと地面に変化が現れてきた。凍りついた地面ではなく湿った土になっている。
「あったわ。あれが雪割草よ」
コーリーが示した先には全体に緑色も薄く白っぽい植物が群生していた。よく見ると天井から壁を伝って下に潜っているなにかの植物の根を土台として生えているようだ。
「このあたりはちょっとだけ地面の熱が高いみたいね。それで凍りつかずゆるくなっているところに地上からの樹の根が降りてきてるのよ。雪割草はそこに寄生する植物だったのね」
「それは今まで知られていなかったのか?」
「地上で発見されたときは地面から生えていたんだけど、あれは地面の下の樹の根まで繋がっていたのかもね。ここはよほど条件が良かったのかしら」
そう言いながらコーリーは雪割草の採集をはじめた。
「俺も手伝おう。どう採ればいい」
「葉っぱだけむしってちょうだい。あと全部とらなくてもいいから。ここの四分の一ぐらいでいいわ。それでわたしの分とフィンに渡す分ぐらいは足りるから」
「了解した。次の人の分も残さないとな」




