69:原野探索
「樹が少なくなってきたわね」
コーリーが周囲を見回しながら言う。ここまではところどころが開けた林と言えるぐらいには樹木もあったが、このあたりから先は樹もまばらだ。
「道を見失わないように注意しないとな。目立つ樹とか大きめの岩には注意してくれ」
「伝令人が使っているっていう赤い粘土がくっついていないかを確認するのよね。ここまでだと大きな木の枝の下とかにくっつけてあるのをよく見たけど、岩場だとどんな感じかしら」
「粘土に油も混ざってるから水は弾きやすいが、やっぱり基本は雨がかかりにくい上が出っ張ってる箇所とかだな」
「わかったわ。あとはフィンから聞いてきた他の目印も必要になりそうね」
「そうだな。この先は地形しか頼りにならない感じだ」
ここまではまだこの冬に怪我する前のフィンがつけたであろう藪を払った道筋が見えていたが、樹が途切れた荒れ地に雪が積もると道の判別も難しい。
「ここから次の目印はあの山の頂きを目指して進んで、右に尖った岩が見える付近ね。行きましょう」
コーリーが先に立って雪原に道を作りながら進んでいく。実年齢が俺より上で身体強化の魔法を使っているとわかってはいるがやはり見た目が幼い少女に肉体労働させるというのは居心地が悪い。しばらく進んだところで交代して俺が先になると体力的にはきついが精神的には楽だ。
「お、あれじゃないか」
しばらく進むと前方に特徴的な岩が見えてきた。そのまま進んでそれが右に見えるあたりで周囲を探る。
「あったわよ。この岩の上の方」
コーリーが指差す方を見ると確かに岩に赤い粘土がこびりついている。
「間違いないようだ。そこの上に立つと川向うの街が見えるんだったな」
こういうことには慣れている俺が岩に登って周囲を見渡すと確かに遠くに街が見える。
「次は街を背にして進み崖にたどり着くまでよね。魔力を出す目印を置いておくからちょっと待って」
コーリーはそう言うと小さな魔道具を取り出して魔力を込める。
「魔法の灯りに似てるな」
「よく分かるわね。灯りを出さずに魔力を出して、代わりに長い時間使えるように改造したの。三日ぐらいは魔力を出し続けるから探知魔法で見つけられるわ。じゃあ進む方向を指さしてくれる?」
今度は進行方向に目印がないので方角を確認してコーリーが光の玉を飛ばす。弱い光だが十分に目立つし、普通の攻撃魔法と違ってかなりゆっくり進んでいる。
「ゆっくり移動するだけでしばらくすると消えるし制御もできないから普段は役に立たないんだけどこういうときには便利よね」
遅いとはいえ雪の中を歩くよりは早い光の玉を追うように進み、見失いそうになるとコーリーが次の球を飛ばして更に進む。3つ目の光の玉を見失いかけた頃に切り立った崖が見えてきた。
「これを左にたどってしばらく行くと崖に目印があるはずだ」
ここにも魔道具を置き崖沿いに進む。右側を確認しながら進んでいたが一向に目印が見つからず、かなり進んだところでとうとう崖が低くなって崖とはいえない段差になってしまった。
「目印を見落としたんじゃないの。戻ってもっと注意深く探してみましょう」
コーリーの提案に従って来た道を戻っていく。コーリーは普通の灯りの魔法を使って崖を照らしながら歩いている。一度雪に道を作っているので歩みも早く、最初に崖にたどり着いた地点が見えるほどになるまでもそれほど時間はかからなかった。
「あった。多分あれだと思うんだけど」
今度も見つけたのはコーリーだった。灯りの魔法を近づけた箇所にはわずかにこびりついた赤い粘土がみえる。
「なるほど、目印が落っこちていたのか」
試しにその下を掘ってみると雪の下に剥がれ落ちたらしい粘土が埋まっていた。
「どうやらここのようだな。ここを登るはずだが、さてどうするか」
「なにか問題があるの?」
「ああ。目印を戻しておきたいがあの高さだと手が届かない。フィンはたぶん粘土の塊を投げつけたんだと思うけど、それで落っこちたとなるとしっかり押さえつけたいんだが」
そう言って目印の残骸がついている箇所を見上げる。
「うーん、あの高さならチャックに台になってもらってわたしが乗ればなんとかなるんじゃない」
「できそうなら頼んでもいいか」
「もちろんよ。じゃあ粘土ちょうだい」
言われて粘土を渡し、目印の残骸の下へ移動する。
「ここでいいか。じゃあどうやって登る?」
「わたしを肩車して壁に手をついて。そしたら肩に足掛けて登るから」
「あー、そういうふうか」
幼い容姿とはいえ一応成人女性を肩車というのはどうかとも思うがまあ仕方ない。言われたように肩車して崖に向かって手をつく。
「いいわね。登るわよ」
コーリーが断りを入れて俺の肩に足をかけて登る。
「あー、崖の表面が脆くなってるのね。ちょっと削るわ」
そういうコーリーの声が聞こえると何やらごそごそする気配がしたあとで岩の欠片がパラパラと落ちてきた。ナイフでも取り出して脆い部分を削ったのだろう。
「よし、脆い部分は落ちたわ。じゃあ粘土を押し付けて、と。できたわよ」
コーリーはそう言うと再び肩車の体勢に戻ったのでゆっくりとしゃがんで下に降ろす。
「じゃあ登りましょうか。ここを超えれば目的地は近いはずよ」
そして崖を登って先を見ると少し離れた場所にもう一段の崖があり、その岩壁には洞窟が口を開けていた。穴の上には粘土の目印も確認できるし目的の洞窟に間違いないだろう。
「なんか主人公に対して女性陣の距離感近くない?」と感じるのではと思いますが「この世界ではこのぐらいは普通」ということで主人公が特別モテてるわけではないです。




