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67:冬山登山

「へえ、チャックは伝令人(メッセンジャー)なんだ」


 フィンの家で夕食を一緒に食べながら話をしているうちに自分が普段は伝令人をやっているということを口に出したら思ったよりも興味を示された。なおスープは一度に大量に作って火を入れながら数日は保たせているそうで2人分増えて大丈夫なぐらいの余裕はあるということだった。代わりにこちらの柔らかめのパンや肉類など日持ちしにくいものを提供している。


「伝令人なら目印に使ってる粘土は知ってるかい?」


「岩壁とか木の幹とかにくっつけて使うやつのことか」


 伝令人は目印として粘着性の強い赤い粘土を使うことがあるのだ。このあたりは仕事を始めたときに先輩のネイから教わっている。


「粘土のことを知っているってことはフィンも伝令人の経験があるのか」


「まあね。あたしは山の中を行けるんで割と重宝されてたけど村が大きくなって道が整備されると報酬も安くなってさ。でもなんでチャックは魔法使いの護衛なんかやってるの?」


「わたしはちょっとした隠れ家に住んでるからね。チャックは元探索者で一人でウチに来られる貴重な人材なのよ。ついでに外出するときにときどき付き合ってもらってるの。女一人だといろいろなめられるし」


「普通に伝令人の仕事もしてるぞ。今回だって普通に買い物に付き合うだけのつもりだったんだが」


「まあ伝令人だっていうなら話が楽だね。山の中を行く目印にそいつを使ってるから辿っていけば雪割草が生えてる洞窟にたどり着けるだろうよ」


 食事を終えてテーブルを片付けたフィンはそこへ取り出した資料を並べて詳しい説明を始めた。


◆ーー◆ーー◆


「この外套はすごいな。ほとんど寒さを感じないじゃないか。魔法の品(マジックアイテム)なのか?」


 コーリーの隠れ家から借り出した冬山用装備はいざ山に入るとその機能をいかんなく発揮していた。


「素材の処理に魔法的な手順を使ってるけど、物自体は単に高性能な保温と防風防水の機能を持ってるだけよ。ときどき魔法無効化能力を持ってる魔物とかもいるから生命維持に直結する装備は魔法に頼らない方が安全なのよ」


 確かに雪山の真ん中で防寒効果が切れたら大変だ。


「しかし装備がいいとはいえコーリーも結構運動能力高いんだな。結構深い雪だというのに危ない感じがない」


「これでも昔は色々やってたのよ。まあ軽めに肉体強化魔法は使ってるけど」


「パワーだけじゃ雪山は歩けないだろう。やっぱり身体の使い方が普通以上だと思うぞ」


「そう、まあ褒められると悪い気はしないわね。じゃあそろそろわたしが先に歩きましょうか」


 雪の中を歩くのは先に道をつけるほうが負担がかかりやすいのでときどき交代しようというのは打ち合わせ済みだった。


「ああ、それじゃあしばらく頼む」


 そうしてコーリーを先にして目印を探しながら雪の中を歩くことしばらく。行く手に明らかに人口の足場が打ち込まれているそれほど高くはないが切り立った崖が現れた。そして、


「と、届かない」


 おそらくこの足場を設置したのはフィンであろうが、彼女も小柄とはいえ十分に大人の体格であるのにコーリーは見た目は幼い少女である。絶対的に手足の長さが足りない。


「俺が先に登ってロープを下ろそう」


「うー、ちょっと悔しいわね。なにか魔道具でも開発しようかしら」


「考えるのは構わんがまた脱線しないようにしてくれよ」


 そんな話をしているうちにまだ昼過ぎというのに空が暗くなってきた。


「ちょっと荒れそうね。ひどくなる前に休める場所を探しましょう」


 吹雪になりそうな気配に急いで場所を探す。なんとか大きな岩陰を見つけた頃にはもうだいぶ風が強くなっていた。


「これはもう天幕(テント)を張っても飛ばされるな」


「そうね、雪を掘って穴の中で休みましょう。結界魔法で風を遮るから掘る方お願い」


「わかった」


 コーリーに言われて岩のすぐ脇に穴を掘り始める。確かに風が吹き込んでこないので作業がしやすい。この分だと2人が入れる穴を掘るのも早くできそうだ。そう思って作業しているとコーリーからストップがかかる。


「大きさはそのぐらいでいいわよ」


「まだ2人分にはちょっと小さいだろう」


「温度を逃さないようにできるだけ小さく掘ったほうがいいじゃない」


「それは魔法でなんとかするんじゃないのか」


「できないことはないけどこういうときは体力魔力は温存したいでしょ。結界魔法もそこそこ魔力使うのよ」


そう言われては仕方ないので大きさそのままでちょっと深くして穴の底に外套と同じ素材のシートを敷く。俺が先に穴に入って横になるとコーリーが隙間に潜り込むように入り込んで上にシートを掛けてくるまる。そこで結界を消したようで風がシートの上を過ぎて行く圧力を感じる。だが穴の中は不自然なほどに寒さを感じない。


「なんだか妙に温かい気がするんだが」


「うん、わたし空気を汚さず発熱する魔道具持ってるから。このぐらいの空間なら寝ても大丈夫なぐらいは温められるわよ」


「一人で使ってたのかよ。だいたい魔法に頼らないほうがいいんじゃなかったのか」


「頼っても大丈夫なときは頼ったほうがいいに決まってるじゃない」


 そんな調子で熟睡できるほどではなかったが一応身体を休めることはできて、翌朝に目覚める頃には吹雪も止んでいた。

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