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61:温泉土産

「団体様でしたら海賊風(バイキング)の朝食がおすすめなのですが、本日は四名様ということなので小鉢の盛り合わせで提供させていただきます」


 温泉宿で一夜明けての朝食はそんな言葉とともに提供された。掌に収まるほどの小鉢が各自に六つにライスと汁物がついていて、小鉢は各自の好みで少し組み合わせが違う。共通して卵焼き、茹でた葉物、煮た豆、濃い味の煮た芋の四品。各自の選択はゼナが焼いた魚の切り身に果物、ウーラが焼いた魚の開きに一口サイズの菓子。ブライスは豚肉の角煮に魚の練り物、俺は肉団子と焼いた角切り肉だ。


「その肉団子も美味しそうね。干物一口あげるから一個ちょうだい」


「ああ、勝手にとっていいぞ」


 俺が許可を出すとウーラは器用に箸を使って干物から一口分を取ってこちらの皿に移して肉団子を持っていく。


「大きな商家のお嬢様だと聞いていますけどそういうのに抵抗ないんですね。家族でもなければ嫌がる人多いんですけど」


「あたしが子供の頃はお店も小さかったし猟師さんたちとも一緒に食べてたからね。お嬢様って柄じゃないわよ。あ、ゼナも果物一切れとお菓子一口交換しない?」


「はあ、まあいいですけど」


 普通は抵抗があると言われた相手に遠慮なく交換を持ちかけるのはさすがの人懐っこさである。なおブライスは『若い子は賑やかでいいですな』というような顔でゆっくりと食べていた。


◆ーー◆ーー◆


「お土産ということでしたらこちらの温泉饅頭が名物ですね。生地を練るのに温泉水を使って蒸し上げにも温泉を使ったものですよ。どうぞご試食ください」


 朝食を終えて土産物を買いに売店へ出向いたら店員から試食を勧められた。四つに切られたまんじゅうのひとかけらを口に入れるとたしかにちょっと変わった風味がある。


「うん、美味いな。だけど相手が多いからこれだと人数分買うとちょっと重くなるな」


「それでしたらこちらの焼き菓子はいかがですか。こちらも生地に温泉水を使っていますが水分が飛んでいますので軽くなっていますし薄いのでかさばりませんよ」


 ちょっと不満を出したらそれに応じた次の案を出してくるのは商売のうまさを感じさせる。差し出された試食品をパリパリとかじってみるとこれも美味い。


「これも良さそうだな。こいつと、やっぱり饅頭も一箱だけ買っていこう。あとウーラとゼナはなにか欲しいものあるか?」


 振り返って二人に聞いてみるとちょっと怪訝な顔をされた。


「今ここにいる私たちにお土産ってのはいらないんじゃないかと思いますが?」


「そうなのか? でもマユと一緒のときはいつもなにかねだられてたし遠慮しなくてもいいぞ。事務の女の子たちへのお土産の参考にもなるし」


 俺がそう言うとゼナはちょっと呆れたような顔をしていた。


「女の子たちへのお土産はさっきのお菓子で十分だと思いますよ。私も帰ったら一緒にいただきますから大丈夫です」


 一方でウーラの方はちょっと不機嫌なような悪い顔をしていた。


「マユちゃんにも買ってたって言うならあたしも遠慮せずにお願いしちゃおうかなー。昨日の晩にここのお風呂で使った石鹸、使ったあとのお肌がいい感じだったのよね。さっき見てたらあっちのコーナーで売られてたから一つ買ってもらっていいかしら。あとここに来る前に下のお店で見たんだけど革製のアクセサリーでいい感じのがあったのよね。あれも一つ欲しいな」


「お、おう。本当に遠慮がないな。まあ一度いいって言ったんだしとりあえず石鹸の方は買っておこう。あとアクセサリーの方はすごく高いのは流石に無理だからな。それなりの値段のもので頼む」


 そう言うとウーラがニィっと笑う。


「決まりね。じゃあケンジョーに戻ったらチャックの奢りで買い物に付き合ってもらうわよ」


 そうして買い物が終わると俺達は温泉宿を出発し、昼過ぎにはケンジョーに到着した。そのまま定期乗合馬車に乗れば今日中に街道筋のラバーの街まで戻れないこともない時間帯であったが、


「じゃあ、約束通り買い物(デート)に付き合ってもらうわよ」


とウーラに引っ張り出されたのでここでもう一泊していくしかないだろう。


 ウーラとの買い物(デート)は結局色々な店に連れ回された。欲しい品物があったはずではなかったかとは思ったがそれを口にすると機嫌を損ねそうであったので大人しく付き合ったし、『明日は馬車で下るからいいでしょ』と食事と酒も潰れるまでつきあわされた。ゼナとブライスに連絡しなくていいかと聞いたらあらかじめゼナには伝えていたらしい。計画的か。


 なお例によって早々に潰れたウーラは翌日に二日酔いを持ち越すこともなくきっちり復活してラバーまでの乗合馬車も問題なかったし、そこからの帰路でも途特に問題は起きずゼナなどはオトヤまでにきっちり報告書を書き上げて提出していた。ただ上り坂ではちょっと嫌そうな顔を見せていたが。


 俺の方はオトヤに到着後に温泉饅頭は酒場のグーンと鍛冶屋のフォージたちと伝令人代表のダンに分配して、焼き菓子の方は冒険者ギルドの事務室へと託しておいた。今回の任務も終了である。

朝食の共通メニューは要するに出汁巻きにおひたし、煮豆と芋煮っころがし。まあ和定食ですね。日本の料理名を使っちゃってもいいかなーとも思うけどここまでなんとか言い換えてきたので続ける。

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