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60:温泉旅館

2025/12/15 予定して所まで行ってなかったのでタイトル修正


2025/12/16 編集ミス修正

「お風呂に行きましょう、チャック」


 温泉宿で男女部屋の仕切りを開けながら館内着に着替えたウーラが呼びかけてきた。その後ろではゼナも館内着に着替えて待っている。『職員旅行の下見』と言ったら大部屋を仕切り(ふすま)で区切って使える部屋を用意されたので仕切りを開ければ繋がっているのだ。


「ああ。大浴場は部屋を出てから左の奥だったな」


 同じく館内着に着替えていた俺も答える。館内地図(マップ)を記憶しておくのは冒険者として染み付いた習性だ。


「個室の小さなお風呂もあるけど、そっちのほうがいいかしら。防音がしっかりしてて静かに入れるらしいわよ」


「職員旅行の下見に個室は必要ないだろうが。さっさと大浴場に行くぞ」


 防音がしっかりしてるのは静かに入るためではないと思うがそれは口には出さずさっさと歩き出す。


「あーん、待ってよー」


 パタパタと足音を立てて追いかけてくるウーラに続いてゼナとブライスもついてくる気配がしてきた。


◆ーー◆ーー◆


「じゃあまたあとでね」


 ひらひらと手を降るウーラに軽く手を上げて返し男子用の脱衣所に入って服を脱ぐ。


「いや、積極的なお嬢さんですな」


 隣で服を脱ぎながらブライスが話しかけてくる。


「一度結婚に失敗してるそうだからな。もう結婚までつなげなくてもいいから気軽に声かけられるんじゃないかって気がしてる」


「ふむ、チャックさんからはそう見えるのですな」


 ブライスは何やら含み有りげなことを言ってくる。


「なんだよ、なにか言いたそうな口ぶりだな」


「まあ事務室でお仕事してると同僚のお嬢さんがたの噂話も結構耳に入ってきますからな。ですがあとが怖いので乙女の内緒話をむやみに伝えるわけには行きませんな」


「そうか、まあもう少し考えてはみるよ」


 そう答えて浴室に入ると露天の浴槽には先客がなく湯気だけが流れていた。晩秋となると夜は結構冷えていて湯気も多い。軽く湯を浴びて汚れを落としてから広い浴槽に浸かる。


「あー、こういうのは滅多にないですがやはり気持ちがいいものですな」


 ブライスがかなり顔を緩ませて感慨を述べる。


「普段は体を拭くか夏場なら川とかで行水するかだからな。湯に浸かれるなんてめったにないし」


 普通の街で風呂を備えてるのは金持ちの屋敷かお姉さんと遊べるお店ぐらいだ。ヤガサの村には共同で使える蒸し風呂があったが、あれも熱した岩に水をかけて蒸気を出しているので湯に入れたわけではない。温泉以外で大量の湯を適温に保つのは大変なのだろう。


「あ、ここにいたのね。ここのお風呂けっこう広いわね」


 声がした方を向くとウーラとゼナが浴槽内を移動してきたところだった。ふたりとも男性用とは違う上下が繋がった湯浴み着である。裸ではないとはいえゼナの方はちょっと恥ずかしいのかウーラに隠れるような位置にいる。


「俺はこんな広い風呂ははじめてだよ。ウーラは他でも経験あるのか?」


ヤコウ(じもと)は船に乗ってる人が多いから。早朝から漁をすると冷えるし港の近くに身体を温めるための公衆浴場があるのよ。一応女湯もあるんだけど、やっぱり船に乗ってる男の人優先で作られてるから男湯が広くて女湯が狭いのよね」


 なるほど、特に贅沢というわけではなく積極的に湯に浸かりたい実用的な理由があれば公衆浴場も成立するようだ。そこからみんなの知っている風呂事情などを話していると結構な時間が経ってしまった。


「そろそろあがって酒場に行くか。ここは酒に合うツマミも豊富らしいぞ」


「晩御飯では一杯で我慢したからね。今度はしっかり飲むわよ」


 酒場には寝室と同じく床に植物で作られたマット(たたみ)が敷き詰められていて靴を脱いで使うようになっている席があった。せっかくなので俺達もそこを使ってみる。部屋の方にお食事とお酒をお持ちすることもできますよなどとも言われたが、ウーラが一杯ずつ選んで注文したいというのでそのままだ。職員旅行の本番で酒の銘柄などにこだわりがないならそれもいいかもしれない。


「このハムとチーズを重ねて揚げたのいいわね。お酒が進むわ」


 ウーラが選ぶ酒とつまみの組み合わせにはほとんどハズレがないのは流石である。ここのメニューは牧畜が盛んなためかチーズを使ったメニューが多い。ただ宿の客がそれほど多くないためか新鮮な肉類よりも保存が効く野菜やハム等の加工肉とを組み合わせた料理が多いようだ。俺は潰したじゃがいもにチーズを混ぜて焼いたものが気に入った。ゼナはベーコンとチーズを小麦粉の皮で包んだものが好みに合ったようだし、ブライスはチーズを燻製にしたものをつまみに強めの酒をチビチビやっていた。


 なおウーラはいつものように早々に潰れた。あいかわらず酒好きではあるが強くはないのである。例によって俺が肩を貸して部屋まで運び、寝床に放り込んだあとはゼナに任せて男部屋に戻った。


「酔っぱらいのお世話も随分と手慣れてますな」


「まあ何度もこういう事はあったからな」


 ブライスの言葉に返事をしつつ俺も布団に潜り込んだ。

服を脱いだとは書いたが裸で浴槽につかっていたとは書いていない。

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