6:書類対応
マイケはこのあたりの領主さまが居住しているだけあってかなり大きな街だ。宿も複数あるし貴族や役人用の宿泊所もあったりする。そういうわけでオガマ村の代官一行の護衛についた元パーティーメンバーの滞在先もわからない。なのでまずは伝令人として受けた依頼から済ませることにする。
冒険者ギルドで訊いたら商業ギルドの場所は簡単にわかった。大きな建物だが大通りから一本脇道に入った場所にある。一番いい場所を押さえたならば店を出すのが商売人の矜持だということで事務所は裏道にしたらしい。そこからさらに脇に回って教えられていた通用口をノックして声をかける。
「こんにちは! オトヤの街から臨時便です」
少し間があって鍵を外すカチャリという音がして扉が開き事務員という風体の女性が顔を出した。
「お疲れ様です。オトヤの街からの伝令人さんですね。どうぞお入りください」
身分を確認されたあと彼女の案内に従って入口から少し歩き簡素な机と椅子のある扉のない区画に案内される。
「担当者が参りますので少々お待ちください」
さすがに大きな組織だと伝令人程度にも扱いが丁寧だなと感心しているとベテランっぽい風情の男が現れた。
「おつかれさま。商業ギルドの事務局主任、エリックです。初めましてですよね」
「ええ、俺はこれが初仕事です」
「ほう、初めてで単独遠距離とは珍しいですね」
「冒険者やってたので単独行動でもなんとかなるだろうってことで、ちょうど臨時便がありましたので」
軽く雑談を交えつつ挨拶する。あちらとしては初対面である自分の見極めがしたいという面もあるのだろう。
「ではメッセージを受け取りましょう。口頭での申し送りとかはありますか?」
「いえ、とくには聞いてないですね」
「そうですか、では確認しますので少しお待ちいただけますか」
そういうとエリックは小型のナイフを取り出し慣れた手つきで紐を切り開封する。
「ふむふむ、冒険者がダンジョンで……未発見だった横穴を……鉱石が……なるほど、だいたいわかりました。対策は必要ですがすぐに返信は必要なさそうです。今回のお仕事はこれで終了で。依頼書はありますか?」
そう言われて慌てて依頼書を取り出す。エリックに渡すと確認欄にサインをして返してくれた。
「はい、これで完了です。お疲れ様でした。出口までお送りしましょう」
俺はエリックに見送られつつ商業ギルドを後にした。そのまま冒険者ギルドに帰り伝令人担当に依頼書の完了を確認してもらい、報酬を受け取る。伝令人としての初報酬だ。
「単独遠距離の臨時便だからね。普通よりちょっと多めだよ」
マイケの伝令人代表はベテランの女性でオリーという。気さくなおかあさんという感じだ。
「それでこの次はどうする? ここで仕事を受けていくかい?」
「いや、前のパーティーの関係で処理しなきゃいけない手続きがいくつかあってね。オガマ村の代官さま一行が泊まってる場所ってわかるかな。前のパーティーメンバーが護衛についてるはずなんだ」
「あー。ちょっと待ってね。えっと……ポーラ! あんた最近オガマの代官さまに伝言届けてたよね。こっちのチャックに場所を教えてやってくれるかい」
オリーは事務仕事をしていた女性の一人に声をかけた。たぶん内回り伝令人の事務バイト中なのだろう。
「はーい、いいですよ。ちょっとキリがつくまで待ってくださいね……19,20っと。オリーさん、宛名票20枚確認しましたっ」
「ありがとね、じゃあ代官さまのとこまで案内たのんだよ」
「了解ですっ、って、これお仕事ですか?」
「んー、普通の伝言なら銅貨二枚ってとこだけど、どうする?」
ポーラの疑問をオリーが俺に振ってきた。
「銅貨二枚を出そう。なんなら晩の食事ぐらいおごるぞ」
「そういうのはいいです。つきあってる人いますんで。じゃあご案内しますね」
◆ーー◆ーー◆
ポーラに導かれて到着したのは繁華街に近い場所にある役人向けの宿泊施設だった。塀のある庭付き一戸建てである。
「通用口はこちらから回り込んで横になります。っと、あそこの見張りが立っている入口ですね。わかりますか?」
「ああ、ここまでくれば大丈夫だ。ありがとう」
ポーラに銅貨二枚を握らせる。
「まいどありっ。ではわたしは帰りますね」
俺はポーラが帰っていくのを見送って通用口へと向かう。やや動揺している様子の見張りに声をかけた。
「思ったより早い再会だったな、エース」
見張りに立っていたのは元パーティーのリーダーだった。
「こっちは仕事中だ。……何かあったのか?」
「ギルドの手続きでお前らのサインがいくつか必要なんだ。詳しく説明したいんだが、マユかリリはいるか?」
魔法使いでパーティーの頭脳担当のマユと回復役で交渉担当のリリの名前を出す。正直いうとエースはこういう手続きに関しては頼りない。
「ああ。だが部外者を独断で屋敷に入れるわけには行かないからな。どちらかをギルドに行かせるから待っててくれ」
◆ーー◆ーー◆
「内容はわかったわ。報酬分配比率の承認とメンバー構成変更の確認でサインが必要なのね」
俺がギルドに帰ってからしばらくしてやってきたのは頭脳担当のマユだった。
「みんなも特に文句は無いと思うわ。あたしが持ち帰ってみんなにサインをもらってくるのでいいかしら」
「それでいい。呼んでくれれば俺が取りに行くが」
「交替で休憩もらって外出もしてるから大丈夫よ。明日には渡せると思うから届くまでは待っててくれるとありがたいんだけど」
「わかった、じゃあそれでよろしく頼む。さて、途中まで送っていこうか」
「そうね、お願いしようかしら。ところであたしも一応休憩中でチャックのお願いでこっちに来たんだけど、お茶ぐらいはおごってもらえるの?」
「おごらせていただきますとも」
なお翌日に書類を届けに来たのはリリの方で、やはりお茶をおごらされた。