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56:生態調査

2025/11/16 誤字修正、表現微調整

2025/11/30 文言微調整

「街道を通ってる限りはほとんど安全なんですね」


 小麦の産地で高品質のパンが名物なウェッドの村でサンドウィッチセットの晩飯を食べながらゼナが道中の感想を述べている。それを聞いた俺はちょっと勘違いさせたなと口を開いた。


「あー、それは俺のせいかな。パーティー組んでた魔法使いから『気配感知』での効果的な魔力の使い方を教えてもらったんで普通よりちょっと遠くても近づいてきた気配がわかるし、気付いた時点でちょっと強めに魔力飛ばしてやると大抵の野生動物は寄ってこないから」


 俺がそう言うのを聞いて「ほう」と感心したように反応したのは魔法使いでもある事務員のブライスだった。


「たしかに時々魔力が強くなるのを感じておりましたが、あれはわざとだったのですかな」


「その魔法使いによると俺はもともと無意識に気配感知に魔力を使ってたらしくてな。コツを教えてもらって飛ばす魔力が強くなって感知の範囲と制度がちょっと上がってたんだ」


「それで魔力の制御を覚えたのですな」


「いや、調整までできるようになったのは最近だ。単独行動(ソロ)で狩りをするようになったら今度は魔力が強すぎて感知した獲物が逃げてしまうのに気がついてな。また相談したら弱い魔力を飛ばして感知する練習法を教えてもらえたんだ」


「なるほど、それでわざと魔力を強くして追い払うという器用なことができるようになったのですな」


 ブライスの言葉に今度は俺が疑問を覚えた。


「本職の魔法使いならこのぐらいは普通にやるものかと思っていたが、そんな感心するようなことなのか?」


「索敵魔法は割と初歩で、魔力そのものを飛ばすよりもっと簡単に周囲の警戒ができますからな。当然魔力を威嚇に使うのもあまりやらないことです」


 魔法使いとしては「わざわざそんな面倒なことをやるやつはいない」という感じだろうか。


「そういえばチャックに出会ったのは野犬に追われてたときだけど、そのあと送ってもらったときは何もなかったわよね」


 ここまで聞いていたウーラが口を挟む。


「あのときはまだ制御は覚えてなかったが強めに飛ばすだけはできてたからな」


 このやり取りの最中なにやら考えていた様子のゼナがようやく発言した。


「それじゃあ、本来ならもっと野生動物なり魔物なりが出ていたはずだけど私が気がつく前に対応されていたということですか」


「そういうことになるかな。数は覚えていないがまあここまでに10回以上は追い払ったことがあったと思う」


 それを聞いたゼナは真面目な顔になってこう言った。


「わかりました。では申し訳ありませんが明日この村を出てからはそれはナシでお願いします。遭遇率が変わってしまうと正しい報告になりませんので」


 本当に真面目で優秀な職員さんである。


◆ーー◆ーー◆


「ゼナ、左前方から2体が様子をうかがっているようだ。多分野犬だと思う」


「了解です。見える範囲に来るまではそのままお願いします。警戒して逃げてくれるなら問題ないので」


 ウエッドからアラエへ向かう道中、魔力による気配探知を抑えていたらさっそく野生動物が向かってきた。魔法使いのブライスはともかく受付嬢のゼナと新人のウーラは護身の心得があるとはいえ乱戦になったらきついだろう。


「視界に入ったなら追い払ってもいいんだな」


「はい、普通にしていて追い払えるなら他の人達でも対応できるでしょうし」


 気配探知は継続しつつゼナと方針を確認していると相手の姿も見えてきた。やはり野犬で街道脇でこちらを伺っているが、強そうではないと見たか逃げる様子もない。


「とりあえず脅してみるか。ちょっと大きな音を出すぞ」


 俺はそう言って腰の小袋(ポーチ)から携帯投石紐(スリングショット)と表面に穴を開けて中をくり抜いた笛弾を取り出して構え、放つ。


『ピィィィーーーーーッ』


 甲高い音を出しながら野犬の間を通り抜けていった笛弾に驚いた野犬は左右に分かれて逃げていった。


「面白いですな。それは魔法道具(マジックアイテム)ですかな?」


「いや、確かに魔法的な道具ではあるが今のは魔法は関係ない。伸び縮みする紐を使って笛みたいに加工した弾を打ち出しただけだ。まあこの紐は魔物由来のシロモノだし打ち出した弾にちょっとだけ魔力が乗るようになっているんだが」


 そう言って携帯投石紐の弾受け部分の魔法円を見せる。


「ほう、これは……アシュリーさんの手によるものですな。そういえばそんな研究をしているような話もありましたな」


「アシュリーに加工してもらったのは魔法円だけで紐は偶然の産物だし道具として作ってもらったのは別の人だがな。知り合いだったのか?」


「知り合いというほどのものではないですが、魔法円に術者の名前が刻まれていましたので。あと魔法使いの中でも情報交換はしていますので近くにいる人の情報はお互い割と知られていますな」


「そういうものか。そういえばこの紐もだいぶ解析が進んだらしいから近いうちに成果が公開されるかもしれないといってたぞ」


「それは発表が楽しみですな」


 その後も数回の遭遇があったがほとんどは笛弾や魔力の威嚇で追い散らしたりブライスの魔法や俺の弓矢で遠距離から対応した。唯一の接近戦となったのは横合いから一気に突っ込んできた猪だったがこれは俺がいなしつつ短剣の突きで仕留めている。


「普通にしていたならそこそこの遭遇があるのはよくわかりました。十分注意するように報告しますのであとはもういつものように魔力で追い散らしてもらっても問題ありません」


 到着したアラエの村で名物の焼き鳥を食べながら疲れた様子のゼナが言う。大猪でもない普通の猪だったし進路はゼナからズレてはいたが眼の前で突進を見たのはちょっと印象強かったようだ。

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