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55:分岐選択

「あの、ずっとゆるい下りですけど帰りってこれが上りになるんですよね」


 トニッセからもまだ続くアゴットまでの下り坂の途中、オトヤからの最初の長い上りでバテていたゼナは楽だと喜んでいたがここまで来てようやく坂道の罠に気がついたようだ。


「大丈夫よ。オトヤに来るときもこの道を通ったけど新人のあたしでもそんなにきつくなかったから」


 ウーラが励ます言葉にゼナの表情がちょっと明るくなるが、そのウーラは別に最初の坂道でバテていなかったというのに気付かない程度にはまだ冷静ではないようだ。


「アゴットから先は起伏もわりと緩やかだったはずですな。目立つ難所はここまででしょう」


 元冒険者の一般職員ブライスも励ましの言葉をかける。


「街道が交差する地点だから旅人向けの安くて美味い店も多いぞ。まだ行ったことはないが目をつけてる店があるんだが、俺のおごりで行ってみないか」


 俺は単純に食欲で釣っていく。


「お酒も出てくれるとありがたいんですが」


「仕事中は酔うほど呑まないでくれよ」


 それで多少は余裕が出たかゼナがジョークで応えてきたのに俺も軽口で返す。……冗談だよな?


◆ーー◆ーー◆


 アゴットで俺が案内したのは麺料理の店だ。前に来たときも麺料理の店だったがそことは違う店でこちらは短めの太麺を濃厚スープ仕立てにしたものだ。アゴットは麺料理が人気でいろいろなスタイルの麺料理の店がある。


「旅人が多いからか麺を茹でてスープと合わせて出すという手早さが人気らしいですな」


 食事をしながらブライスが年長者らしく蘊蓄(うんちく)を披露してくるのをゼナが頷きながら聞いている。なおゼナは卓上に備えられたすりおろしニンニクをたっぷり投入していた。やはりスタミナ不足が気になるのであろうか。刺激が強いから摂り過ぎると腹具合がおかしくなりやすいのだが。なおこの店は落ち着いて酒を飲むような店ではなかったので酒好きのウーラでも一杯だけに押さえていた。


◆ーー◆ーー◆


「ここからは東の街道ですね。次の村はオガマですか」


 アゴットで一泊した翌朝、出発の準備をしながらゼナが道標(みちしるべ)と地図を見比べて確認している。


「オガマと言えばチャックさんはちょっと因縁のある村でしたね。あそこの代官のおかげでパーティーから追い出されて」


「え、なにそれ。あたし聞いたことない」


 ゼナの言葉にウーラが反応する。


「因縁ってほどのもんじゃないだろ。ただ前のパーティーが代官さまと契約するときに俺だけ嫌がられただけだし、双方合意の上だ」


「ああ、あの件ですな。事務の方でもいろいろと想定外(イレギュラー)な処理があって手間がかかりました」


 確かにあの件は事務方にもいろいろ面倒をかけたから知っている人間も多いのだろう。


「ブライスさんも知ってるの。一体何があったのよ」


「そんな難しい話じゃない。ただ代官という立場では『盗賊(シーフ)』を雇うのが外聞悪いって断られたってことだ」


「扉や宝箱の解錠、罠の発見と解除などはダンジョン探索にも有功ですが確かに普通の人にはただの泥棒と誤解されやすいですからな。立場のある人間が嫌うのも珍しくはありません」


「まあそれがきっかけで伝令人(メッセンジャー)としての登録をして気楽な単独(ソロ)活動を始めたんだし悪いことばかりじゃないな。俺が伝令人になっていなかったらウーラもここにはいなかったんだろうし」


 ウーラはヤコウの大手水産加工業者のお嬢さんである。実家でも働いていたし生活に困ることもなかったはずだ。


「あたしはほら、出戻りだし跡継ぎは弟だし、父ちゃん母ちゃんも生暖かく見守ってはくれるんだけどちょっと居づらかったのよ。伝令人でなくてもそのうち実家は出てたと思う」


「それでもこうして一緒に仕事はしてなかっただろう」


「まあそれはそうだけど。ところで、ウチの近くには代官っていなかったんだけどどういう役目の人なの? 村長さんとはちがうのよね」


 話が自分の方に向いてきたウーラが方向性をそらしてきた。


「基本的には領主さまに代わって住人から税金を徴収するお役目ですな。多くの街や村では村長や市長と言う代表者がその役目を担っていることが多いのですが、事情があってその役目を別の人が行うことがあります。そういう時に任命される役割を持った人間が『代官』と呼ばれますな」


 やはり魔法使いというのは基本的に頭がいいだけあってそういう事情にも詳しい人間が多い。


「事情っていうのは一体どんなことがあるの? たとえばオガマだと何があったのかしら」


 ウーラが更に踏み込んで質問する。


「オガマの場合ですとたしか4代ほど前の村長が亡くなったあとにまだ若い弟と幼い息子の跡目争いが起きたのが元でしたな。後継者が決まらないのに業を煮やした当時の領主さまが代官を派遣して税を徴収することになったと聞いております。その後村長が決まっても代官は廃止されず村長の権限はかなり制限されているとか」


「先祖のやらかしで子孫が迷惑かけられるんじゃたまらないわね」


「まあもう数十年その体制でやっていますからな。代官は任期制で世襲でもないし、今ですとちょっと面倒な役人に押しつけられてるという噂もありますし。任期を問題なく終えるため実作業は村長に委任されているような状況だそうですな」



第一話でうっかり代官と書いてしまったあと他の村や町で代官を描写し忘れてたのにちょっと理屈をつけた。それで話が埋まるんなら適当な設定もまあ良し。

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