52:住宅情報
「ねえ、あたしの拠点を探してくれるって話はどうなったの?」
冒険者ギルドの伝令人控え室でウーラが尋ねてきた。オトヤで再会してからは一月ほどがたっている。
「あー、忘れてたわけじゃないんだがウーラも研修で隣村まで行ったり、俺も臨時便が入ったりで時間がとれなかっただろ。一応候補はいろいろ考えてある」
「ふーん、あたしは別にチャックと一緒に住んでもいいんだけど」
「却下だ却下。だいたい俺も持てる荷物以外はギルドの伝令人特典の預かり制度を使って常宿は持ってないからな。遠征も多いし、ここにいるときだけ宿を使ってる」
なおウーラはこれまで安宿を使ったり仲良くなった冒険者ギルド所属の女の子たちの家に泊まったりといった感じで凌いでいたようだ。さすが商売人の娘だけあって人と仲良くなるのが上手い。そのおかげで数日間同道して同じ部屋に泊まったのに手を出していないというのは知れ渡ったが同時にヘタレという評価が出てきたのは理不尽だと思う。
「じゃあ他にはどんなところを考えてたの?」
「まあ定番でいうなら俺がやってるみたいに荷物を最小限にして安宿を借りるという手段だな。ある程度を前払いして長期間借りれば留守にしている間の荷物とかも結構配慮してもらえるぞ」
実際冒険者にはこのパターンも多い。探索をメインとする連中はいつ帰還できるかも不安定なのでいない期間の代金がもったいないと短期で、比較的近場で行動する伝令人などは長期で借りるのが多い。
「それも悪くないんだけど、できれば自分の住処は好きに使いたいのよね。候補に入れておくけど保留ということで」
「そうなると次の候補はどこかで下宿かな。俺が知ってる範囲だとフォージの道具屋……今はドワーフの鍛冶屋といった方がいいか。あそこは今は女手がイーヴェット一人で休みもないから手伝える者がいたらいいなと言ってた。毎日でなくても負担が減るとありがたいってことだから伝令人の仕事も一緒にできるだろう」
イーヴェットはドワーフの魔法使いで、鍛冶場に備え付けられた魔法炉の扱いにも長けているし家事もできる優秀な助手だという。
「噂は聞いてるわ。ドワーフが四人でそのうち女の子が一人だけなのよね。人手がいるって言うなら手伝ってあげたいところなんだけど」
「何か含みのある言い方だな。なにかあるのか」
「あそこの若い子……ライマー君だっけ。彼はイーヴェットちゃんにアプローチしてるけど彼女の方はどっちかというと頼れるおじさま好みで結構面白……じゃなくて大変らしいのよね。イーヴェットちゃんの方が歳上らしいし」
「……どこでそう言う話が広まってるのか知らないがそういうことなら他人が入るのは面倒かもな」
ここは一つ保留としておこう。
「じゃあ酒場のグーンさんのところはどうだ。ウーラの実家から買い付けた干物を出してる店だ」
「もちろんあそこは知ってるわよ。品数は少なめだけどいいお酒そろえてるのよね」
「知ってるなら話が早い。夫婦でやってるからどちらかでも体調崩したときが大変でな。やっぱりたまには休めるようにしないとキツいらしい」
「うーん、お酒に囲まれて働くってのは魅力的なんだけど……仕事中にお酒は?」
「当然飲めないぞ。女の子がそういうサービスをする店じゃないからな」
「そうよねえ。みんなが美味しそうに飲んでるのを見てるだけってのは辛そうで」
これもいったん保留としておくか。
「あとは家を借り上げるというのもあるが。仲のいい友達と何人かで共同なら一人あたりの負担はそれほどでもないだろう」
「この街であたしが一番仲いいのはチャックなんだけど」
「最初に戻るな。今でも泊めてもらってる女友達がいるだろう」
「何人かはいるけど、まだちょっと同居を持ちかけるほどじゃないのよね」
一長一短で決め手がなく二人でうなっているところに伝令人代表のダンが入ってきた。
「お、チャックも来てたのか。ちょうど頼みたい仕事が来てるんだ。というか、ちょっと義理があるんでこいつは受けてもらいたいんだが」
「なんだそりゃ。一体何があったっていうんだ」
「コーリーのところから返事をもらってくるはずだったのがお前ら直接王都に返信を届けただろう。こっちで待ってた早馬のヤンがちょっと拍子抜けしててな」
そうだった。張り切って待っていたところにもう仕事は終わったよというのはちょっとキツかったかもしれない。ちゃんと報酬は出たはずであるが。
「あんまり愚痴こぼしてたんで『なにかやってほしいことがあったら優先で受けるぞ』って話してたんだが注文書が回ってきてな。馬の産地として有名なケンジョーの馬房用品が欲しいってことなんだ」
「なるほど、つまりその注文書にある品を買って来いってことだな」
「そういうことだ。近くに温泉地もあるというから骨休めがてらに行ってきてくれ。いい感じだったら職員旅行にも使いたいからしっかり様子を見てきてくれ」




