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「アイセン地区、王立研究所のザカリー様宛てに面会希望のメッセージを口頭で、内容は『コーリー様からの荷物を預かってきた。直接の受け渡しを希望するので日時を連絡されたし』ということですね。確かに承りました」
ルマミから街道沿いに進みカオカで一泊しての翌日、夕刻には少し早いぐらいに王都のセイア地区に到着した俺たちはまず冒険者ギルドに出向いて内回り伝令人にザカリー宛ての伝言を託した。
「コーリーにもらった紹介状はあるんだし直接出向かないのか?」
キースが抱いた疑問にはサラが答える。
「研究所は遠いでしょ。今いるセイア地区からだとアルノ地区を挟んで反対側なのよ。今から食事して行ったら真夜中になっちゃうわ」
サラの言うとおり王都は広く、端から端までだと朝から歩いて夜になるほどだ。
「それならオレたちがもっと近い場所に宿を取って明日の早くから行けばいいじゃないか」
「アイセンは王族・貴族の住む地域だからね。普通の人が泊まれる宿なんてないかバカ高いのよ。セイアでもできるだけ西に宿を取って連絡が来たら早めにつけるようにする程度ね」
王都は王族・貴族の居住地で政治の中心である南のアゴイと北のアイセン、役人たちの住むフーシとアルノ、そして民間人の住むアカエとセイアの六地区に分かれている。特徴としては北三区は魔法に関連する施設や店が多く、これは危険物の保管場所や実験場を安全のために南三区から離れた北側に設けたのが起源といわれている。最初はわずかな管理者たちがいただけだったが研究者である魔法使いには寝食を忘れて泊まり込む連中が多すぎ、ついに街となってしまったという話だ。
「なるほど、わかった。じゃあ今日は宿を取ったらゆっくり飯でも食いに行こうか」
◆ーー◆ーー◆
「ザカリー様より返信の伝言です。『守衛には話を通しておくので夜遅くになってもいいから本日中に来てくれ。簡素だが宿舎と朝晩の食事は提供する』とのことでした」
ザカリーからの返信が到着したのはまだ午前中のことだった。指輪を持っている俺が一人で行ってもよかったんだが結局全員で宿を引き払い研究所へ向かう。普通は立ち入りもしない役人たちの居住区であるアルノを通り過ぎ、アイセンの研究所までたどり着いたのはもう夜という時間帯だった。門の番をしている二人組の守衛に用件を告げると一人が館内へ取り次ぎに行き、少ししていかにも魔法使いという雰囲気の初老の男性を伴って戻ってきた。
「君たちがコーリーの使いだね。ここで研究員をしているザカリーだ。じゃあ一応コーリーの指輪を見せてもらおうかな」
ザカリーはそう言うと小さな宝石のはまったペンダントを取り出す。俺がそれに指輪を近づけて魔力を流すとペンダントの宝石が光を放ち始め、断続的に点滅している。
「間違いないようだね。奥へ行こうか」
振り返って奥へ歩き出したザカリーに続いて俺たちも中へ進む。途中の廊下でマユが小声で話しかけてきた。
「さっきのペンダント、たぶん魔法のランプの応用で特定の波長だけに反応するようになってると思うけどそれをあの大きさに収めてるのってすごい技術力よ」
「『特定の波長だけ』じゃあないよ。強弱の信号によって光り方が変わるようになってる。でもお嬢さんなかなか筋がいいね」
小声だったがザカリーにも聞こえたようで返答があった。マユは恐縮しつつ褒められてうれしいみたいなややこしい表情をしている。
「さあ、ここだ。作業室なんで危険なものもあるからうかつに触らないようにね」
通された部屋は中央に大きめのテーブルがあり周囲にも十分余裕がある、一面の壁には工具や測定器などが多数置かれている部屋だった。心得のあるマユとランドは興味を隠せない様子で見回している。
「興味があるなら書棚の資料も見てていいよ。じゃあ荷物を受け取ろうか」
ザカリーがそう言うとマユとランドは資料を吟味し始め、サラはコーリーから受け取った折り目が付かないように巻いて筒に入れられた魔法円が描かれた紙を渡す。受け取ったザカリーは慣れた様子でその紙を木枠に貼り付けて固定し、魔力をかける。
「早めに処理をしておくと長持ちするんでね。これでインクが劣化するのも一年ぐらいは防げるはずだ。大きめの案件があって密に相談したいんだが手紙を出してると時間がかかってね。こっちに来るのはいやだって言うし」
ザカリーがそう言って魔法円のパネルをテーブルに置く。すると魔法円が発光してじわじわと紙が現れてきた。
「ああ、コーリーもこちらが起動したのに気付いたようだね」
ザカリーのみならずその場の全員が注視する中で出現したその紙には、離れていても読める大きな文字でこう書かれていた。
『久しぶり。元気だった?ハゲオヤジ』
それを見て思わず吹き出したキースも失礼だがザカリー以外は必死で笑いをこらえている。ザカリーは顔を真っ赤にしながら紙をひっくり返してペンを取ると大きくこう書いて送り返した。
『やかましいわい、この若作り』
その後数枚の応酬があったがみんなもう見ないようにしていた。少し経つとようやく落ち着いたザカリーが声をかけてきた。
「やあ、お見苦しいところを見せてしまったね。あいつとは学校で同期で共に先王様の代から使えてるんだがいわゆる腐れ縁というやつでね。突っかかってこないと気が済まないようなんだ」
そうは言われたがみんなどう声をかけたものか戸惑っている。
「……うん、動作にも問題はなかったね。じゃあ報酬を渡そう。あとは約束していた食事と宿舎だ。職員用食堂は休まず開いてるから日替わりメニューの食券を渡しておこう。それから来客用宿泊室の鍵も渡しておくよ。じゃあ案内しようか」
ザカリーに案内された食堂で出された日替わりメニューは細めの麺にこってりスープで野菜がたっぷり載った麺料理だった。宿泊室も男女それぞれに一部屋使えて清潔だった。
「俺が一人で行ってもいいんだが、どうする?」
「わたしはもちろん責任者として行くわよ」
「サラとチャックが二人で食事とお泊まりなど許さん。オレも行く」
「最高レベルの魔法技術が見られるかも知れない機会を逃す手はないわ」
「留守番はいやだしご飯もでるんでしょう。私も行きます」
「一人で残されるのもいやだから僕も行きますよ」




