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5:単独行動

 朝になって村長の屋敷の食堂でパンとスープの質素な食事を頂いた。この食堂はギルド専用ではなく屋敷の使用人と兼用だ。ネイは顔なじみらしい女中と談笑しながらのんびり食事をしている。俺はここから先へ進むので手早く食事を済ませ、ここからオトヤへ引き返すネイに挨拶をして食堂を出た。


 一人になって、クオウの村までに教わった細々とした伝令人(メッセンジャー)のノウハウを思い返しながら歩く。とはいっても教本とかがあったわけではなく歩きながら目についたものを説明していくといった感じだったが。あの木の枝にくっついてる赤っぽい粘土は油分が多くて水をはじくので目印に使われてるとか、あっちの木の実は食えるとか、キノコは食用にそっくりな毒キノコもあるので手を出すなとか。野にあるもので生き残る知識がやたら多かったのは伝令人(メッセンジャー)の基本というのが荷物を減らし身軽になって移動速度を上げるという思想になっているのが大きい。


 夕刻近くになって次の目的地のケシタの村が見えてきた。クオウよりは少し大きな村だ。ギルドの出張所も村長の屋敷の一室ではなく単独の一軒家だ。


「こんにちはー。移動途中の伝令人(メッセンジャー)です。今晩の宿と食事が欲しいんですが」


 あいていた戸口から声をかけつつ入った俺を迎えたのはカウンターに置かれた看板だった。


『裏の畑で作業をしているので建物の右手からお回りください』

 読み書きが苦手なもののためか略図も添えてある。それに沿って裏に回るとそこそこの広さの畑で作業している青年が一人いた。


「あー、お客さんかい。もう少しで雑草取りが終わるから中でちょっと待っててもらってもいいかな?」


 ギルド出張所は村長の屋敷から独立しているのでなく民家と一緒になっているだけかもしれない。


 ◆ーー◆ーー◆


「やー、おまたせしたね。で、なんの用事だったかな? 伝令人(メッセンジャー)ってことは食料の支給かな?」


 手ぬぐいで汗を拭きつつ入ってきた先ほどの青年は出張所の所長でだた一人の所員でもあるという。俺の左腕のバンダナで伝令人(メッセンジャー)と察して訊いてきた。


「ああ。この先マイケまで行くから食事と今晩の寝るところが欲しい」


「うん、ここの奥の部屋に寝台があるし、保存食も出せるけど裏庭の井戸とカマドに薪は使っていいから自炊してもいいよ。野菜とお肉一人分なら提供するし。でもおいしいもの食べて気持ちよく寝たいんなら村の宿もおすすめだよ。そっちにするなら一部だけど現金で出すからね」


「宿の名物料理とかはあるのか?」


「鳥肉と根菜のスパイス煮込みだね。刺激が強くてエールに合うんだ。多めに出てくるから少し包んでもらって朝食にするのが定番だよ」


「それはいいな。そっちにしよう」


「じゃあこれが支給金ね。宿代と合わせてこれで三分の一ぐらいになるけど残りの持ち合わせは大丈夫かい?」


 出された袋の中身を確認する。これの倍が必要だというなら余裕だ。


「大丈夫そうだ。宿屋ってのはここに来る途中に見えた大きめの建物でいいのかな」


「そうだね。この村で一番大きいのは村長の屋敷だけどもっと奥だから、途中にあった大きい建物なら宿屋だよ」


「ありがとう。じゃあ明日の朝もそのまま出発するつもりだけどいいかな」


「うん、こちらは至急の用事とかないから追加の依頼はないよ」


「了解した。それじゃあまた機会があったらよろしく頼む」


「ああ、あとちょっと、仕事以外だけどいいかな」


 挨拶をして席を立った俺に所長が声をかけてきた。


「大人な遊びができるお姉さんの紹介とかもできるけど、興味はある?」


「その話、詳しく聞かせてもらおう」


 俺は席に座り直した。


 ◆ーー◆ーー◆


 翌朝、俺はすっきりした気分でケシタの村を後にした。結構お金も使ってしまったが十分なリフレッシュになったと言えよう。手持ちはやや不安になったがマイケで手続きを済ませれば先の冒険報酬も受け取って余裕ができるはずだ。そんな算段をしつつまだ朝早い街道を朝食をかじりながらのんびりと歩く。朝食はパンに挟んだ昨晩の鳥肉煮込みだ。


 午後を過ぎたあたりでポツポツと雨が降りだした。このあたりだと激しく降るのは年に数回だけで、あとは月に一回程度そこそこの雨が降る程度だ。今回も激しい降りではなかったので木陰で雨宿りとかはせずフード付きマントをかぶって先へ進んだ。


 マイケの街に到着したのは日が暮れてからになった。滑りやすい道を歩くのは思ったよりも時間がかかったし体力の消耗も予想以上だった。そういえばパーティーでは女性陣が雨の行軍を嫌がったのでテントを立てて休むことが多かったなと思い返す。雨中行動の経験は自分でも意外なほどに少なかったようだ。


 そういうわけで手持ちの現金が心許ない上に疲れが限界に来ていた俺はその晩は支給食料をかじってギルドの簡易寝台のお世話になることにしたのだった。諸々の用事は朝になってから手をつけることにしよう。


「これまでも何度かこの村に立ち寄ったが、お姉さんを紹介してもらったのははじめてだよな?」

「トラブル防止のために女性の入ったパーティーには声かけないようにしているからな。あとこの村だと女の子の人数少ないから男ばかりでも人数多いときは誘わないよ」

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