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48:裏口案内

2025/09/16 誤字修正

「おまたせ。返事が書けたわよ」


 魔法使いコーリーが返事を持ってきたのは翌日の午前中だった。徹夜で仕上げていたようで妙にハイテンションだ。


「昼過ぎぐらいまでかかるかと思っていたから待ったというほどでもないさ。それはいいんだが、返事を書くのに特殊なインクを作ったっていうけど運ぶのに危険はないだろうな?」


 俺の質問にコーリーは笑みを浮かべながら答える。


「魔力を通しやすいインクで描いたけどただの転送用魔法円だし、魔力を通さないなら普通の紙と変わらないわよ。まあこれを作れるのはこの国でもわたしぐらいだけどね。これを王都まで届けてほしいんだけど」


 それを聞いた俺は深いため息をついた。


「その仕事には問題点があるな。俺は伝令人(メッセンジャー)として今回の仕事を請けている。書類ぐらいまでなら運ぶが、魔道具の運搬となると返信の範疇を超えている」


 それを聞いたコーリーから笑みが消える。


「えーっ、運べないっていうの? 紙一枚なんて手紙みたいなもんじゃない」


 そう言いながらペンを取り魔法円の紙を裏返しちょいちょいと書き込みをする。


「ほらほら、ここに『よろしく』ってメッセージが。これはもうお手紙よね」


 俺は首を横に振る。


「『伝令人は高価なものを運ばないから道中を襲ってもうまみが少ない』となってるから比較的安全なんだ。『優秀な魔法使いが自ら制作した貴重な魔道具』といったものは伝令人の手に余る」


「うーん、紙一枚を転送できる程度の割と簡単な連絡用なんだけどそういうことなら仕方ないわね。じゃあどうすればいいのかしら」


 コーリーの機嫌がちょっと直ったようだ。


「ちょうどここには普通の冒険者もいるからな。彼女らを指名で運搬の依頼を出したらいい。直接ギルドに行かなくても委任状を書けば大丈夫だ。依頼料さえ先払いならな」


「うーん、買い出しではちょっとした魔道具持っていって売った代金で買い物するからお金の手持ちは少ないのよね。受取人払いにできる?」


「俺としてはオトヤで待ってる王都からの伝令人に託して終了したかったんだがな。たぶん彼の一存じゃ出金できないだろう」


「裏口の方はルマミの近くに出るから、オトヤより王都の方が近いわよ。連絡送ってきたザカリーなら払えるはず。その指輪見せればわたしの依頼って証明になるから」


「いや、オトヤで待ってるヤンを待ちぼうけさせるのもどうかと思ってるんだが。それじゃあそっちにも依頼完了として一筆書いてくれるか。ルマミから別の伝令人を頼んでオトヤに行ってもらい、俺たちで王都に向かうのが早そうだ」


 そこまで言ってから後ろに声をかける。


「すまん、勝手に決めてしまったがサラたちもそれでよかったか?」


「追加の依頼が発生ってことよね。わたしたちは構わないわよ」


 見回すと他のメンバーもコクコクと頷いている。


「それじゃあ依頼の委任状とオトヤへの一筆書いてもらったら出発しよう。基本の書式(テンプレート)は俺も持ってるから」


◆ーー◆ーー◆


 それから少し経って、コーリーと俺たちは大穴の底の西側の壁に開いた洞窟の中にいた。壁のところどころがうっすらと光っていて歩く分には問題ない。そこをしばらく進むと明らかに人の手が入った空間に出た。人の身長ほどの円形で不自然に上が見通せない。


「ここが抜け道よ。ちょっと待ってね」


 コーリーはそう言うとやや出っ張った壁面の石に手を置いて何やら呪文を唱える。


「じゃあチャック、ちょっと指輪はめてここに手を置いて」


 言われた通りに手を置くとちょっと魔力の移動を感じた。


「登録できたわね。じゃあもう一回、指輪に魔力流しながら手を当てて」


 言われた通りにすると床面に光る魔法円が現れた。よく見ると魔法円の模様が床材の石に少し彫り込んである。


「これで500数えるぐらいの間は落ちる速度が遅くなるから。壁を斜めに蹴って飛び上がれば上まで着けるわよ。途中に視界を遮る魔法がかかってるけど驚かないでね」


 コーリーはそう言うと自ら飛び上がり、壁を蹴って更に上昇するとふっと見えなくなった。


「じゃあまず俺が行こう。危なそうなら引き返すから、声かけたら続いてくれ」


 俺はそう言うとコーリーがやったように斜めに飛んで、壁を蹴る。一瞬視界が暗転したかと思うとすぐに戻り、見上げると身長の10倍ほどの高さに出口が見えた。数回壁を蹴って上昇してそこを出ると昇り階段のある半地下室のような空間になっていた。待っていたコーリーが軽く手を振っている。


「大丈夫だ。上がってこい」


 下に向かって声をかけると最初にキースが、続いてマユ、サラ、ランドが上がってきて、最後にサラが上がってきた。


「みんな来たわよね。じゃあ一応説明するけど、ここから入るときはこのちょっと色の違う石にさっきみたいに指輪を使えばこの石がぼんやり光って同じ仕掛けが発動したのわかるから飛び降りればいいわ。ゆっくり着地できるから」


「そんなに何度も来るつもりはないんだがな」


「なにいってんのよ。その指輪を受け取ったからには時々来てもらうわよ。指名で依頼かけるからよろしくね」


「ああ、やっぱりそうなるのか。まあ仕方ないな」


 いいながら階段を昇るとそこは猟師小屋といった感じの構造になっていた。そこから扉を開けて外に出ると南西方向へ道が延びている。


「ここを少し歩くと街道に出るわ。そこから右に曲がって西へ向かうとルマミまではすぐよ。じゃあわたしは帰るからよろしくね」


 小屋の中に帰って行くコーリーを見送って出発した俺たちはその通り夜になる前にルマミにたどり着いた。


「時々来てもらうって一体何をさせるつもりなんだ」

「日用品を買ってるルマミの村はわたしを知ってるからいいんだけど、ちょっと遠出するとこのナリだと舐められるのよね。ザビーとは親子ってテイで買い物に付き合ってもらってたんだけど、チャックなら旦那様かしら?」

「……兄妹でいいだろう」

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