46:大海不知
2025/09/06 出口付近に描写追加。
「地図によると出口に近づいているようだが、魔物が出てきたな。雑魚だがあいつらはめんどくさい」
ダンジョンの天井の高い通路で群れをなして向かってくるコウモリ型の魔物を携帯投石紐で狙いつつ俺がぼやく。
「あれはそんなに好戦的じゃないからちょっと痛い目に遭えば残りは襲ってこないと思うわよ。魔法を使うほどでもないからお願いね」
「矢がもったいないからわたしも遠慮しとく。がんばってね、チャック」
「わたしたちの剣じゃ届かないからここはおまかせするわ」
女性陣の声援?を受けつつ、足元から小石を拾い群れに向かって大して狙いも定めずどんどん撃ち込む。松明の明かりでは狙いもつけにくいがそんなものでも何発かは命中して落ちてきたコウモリにはサラとキースの剣士組がとどめを刺している。そうやって数匹を始末したあたりでコウモリたちは通路の奥へ消えていった。
「あきらめてくれたみたいね。先へ進みましょう」
サラが指示を出して防御の固いキースを戦闘に通路を進む。
「ここまで目立った魔物がいなかったのはここを住処にしてるような奴らがいなかったのね。コウモリたちはたぶんこの先に外に通じる穴があってそこから入り込んできたんだと思う。だから大きな魔物はいないけど小さなのはこの先にもいるみたい」
「探知の魔法でも詳しくわからないのか?」
「ダンジョン自体に魔力があるから精度が落ちてるの。大まかにはわかるんだけど」
マユの説明を聞いているうちに地図では広い部屋に繋がる扉の前に着いた。この部屋を抜けた先の通路を通ればダンジョンの外に出るはずだ。扉には簡単な鍵がかかっていたが俺が盗賊技能で解錠して後退し、キースが扉を開ける。
「ヂューッ!」
扉が開いた途端に野太い威嚇の鳴き声が響く。中には十数匹の体高が膝の高さぐらいの大きなネズミがいた。
「こいつら飢えて攻撃的になってるから気をつけて!」
動物に詳しい野伏のティナが警戒を飛ばしているその間にもネズミたちはこちらへ突進してくる。
「遠距離攻撃できる人は後ろを。前のはわたしたちが押さえる」
サラの指示が出るその前から準備していたマユの魔法とティナの長弓が攻撃をはじめる。俺も携帯投石紐ではなく短弓を構えて撃つ。飢えからかひたすらに突っ込んでくるだけのネズミたちを一掃するのにそんなに時間はかからなかったが防御の薄いマユとティナが軽傷をおいランドの治療を受けている。
「あそこの穴から落ちてきて出られなくなっていたみたいね」
マユが指さす先を見ると天井が一部崩れて穴が空いて月明かりが差し込んでいた。
「光が見えるっていうことはもう洞窟の中は抜けて建物になっているってことかしら」
「多分そうだと思うけど、もともと明かり取りで作ってあった穴の周りが崩れただけかもね。まだ再生していないってことは崩れたのも最近だし。どちらにしても出口は近いんでしょ」
「ああ、奥の扉を出たら右に向かえば出口のはずだ」
サラの問いに応じたマユがこちらに振ってきたのでそう答える。
「出口が近いと行っても油断は禁物よ。じゃあまずチャック、扉の確認をお願い」
言われて確認するが入ってきた扉と同じ形状の錠前が使われておりこちらも難なく開く。先ほどと同じくキースと交代して扉が開いた先の通路はやや広めで壁には外に通じる小窓も開いている。その通路の様子を確認していたマユが言う。
「ここ、ダンジョン本体とは時代が違うわ。入口にあったのと同じ、たぶん魔法使いコーリーが増築させた部分ね」
「じゃあもうダンジョンの外ってことか」
言われてみると通路の先の方には蔦が這っていたりもする。ダンジョンなら時間がたつと吸収されるので蔦が生えたりはしないはずだ。
「よし、それじゃあさっさと進もうぜ。外の空気を吸わなきゃ息が詰まりそうだ」
キースがそういってスタスタと先へ進んでいく。と、通路に這っていた蔦が動き出して素早くキースの手足に絡みついた。
「うわっ、なんだこりゃ。鎧の隙間にも入ってきやがる。ちょっと何とかしてくれ」
案外強い力なのかキースがもがいても蔦がちぎれたりもしない。その様子を見ながらマユが落ち着いた口調で解説する。
「毒の蔦ね。弱いけど毒の棘が生えてて獲物を弱体化してそのまま肥料になるのを待つの」
力の問題ではなく毒の問題だったようだ。
「火を嫌うから松明で炙れば逃げるわよ。ランド、毒耐性の魔法をチャックに使って松明も渡してあげて」
「俺がやるのかよ」
言ってはみるが回復役に万一があってはいけないしサラの鎧はキースとほぼ同じタイプ、ティナとマユは俺以上の軽装とこの場合は俺が最適なのは間違いない。
「仕方ないな。行ってくる」
松明を受け取ってキースに絡みついた蔦を炙っていく。最初は巻き付くところを変えたりして抵抗していたがしばらく炙り続けているとキースは解放された。ぐったりしているキースを引きずり戻してランドが解毒魔法を使う。
「済まない、油断した」
「キースは昔から油断が多いのよ。もっと気をつけなさい」
キースが弟扱いから抜け出す時期は遠いかもしれない。
◆ーー◆ーー◆
残りの松明にも火をつけて全員で周囲を守りながら蔦の通路を抜けた先を曲がると、そこは扉もない出口でもう建物の外になっていた。周囲を見回すと全体が切り立った崖に囲まれた大きな井戸の底のような地形になっている。そのほぼ中央には大きな樹があり、その根元に普通の一軒家が建っていた。周囲は塀で囲まれている。
「どうやらあれが目的のコーリーの住処のようね」
俺たちは再びキースを先頭にして中央へ向かって歩き出した。
最初は毒の蔦をダンジョン内に出そうかと思ったけど『吸収されるじゃん』とギリギリ外に変更。
◆ーー◆ーー◆
「結局なんでダンジョンの中には魔物が少なかったんだ? 魔力に引かれて集まるもんじゃなかったか?」
「入口も出口も閉まってたからね。穴から出入りできる飛行型や隙間を抜けられる小さい魔物以外は入れなかったんでしょ」




