45:迷宮探索
「ザビーの地図によると、この先に広間があるはずだ」
魔法使いコーリーの住処へと通じる迷宮を前任者が残していった地図を片手に進んでいき、入口から数回角を曲がるとやや通路が広くなって正面に大きな扉が見えてきた。明かり取りの窓から入ってくる光に照らされた扉の両脇には悪魔の形をした石像が台座の上にしゃがみ込んでいる。
「あれは噂に聞くガーゴイルというやつでしょうか」
パーティーの回復役であるランドが警戒しながらいう。探索依頼を受けた経験は少なくとも知識はあるようだ。それを引き取ってマユが答える。
「そうね。魔法によって作られた動く石像。高い攻撃力と防御力を持っていて、時には魔法も使う非常に厄介な迷宮の番人よ……本当ならね」
そういうとマユは無造作にスタスタと石像へと近づいていく。そして台座に触れるほどに近づいたが石像はピクリとも動かない。
「このダンジョンは発見されたのがかなり昔だから何度も探索者が来たはずよ。ガーゴイルは探索者が来ると起動して、戦って、破壊され、そして時間がたつとダンジョンの魔力で再生する」
ダンジョンで再生するのは石像だけではない。魔法使いたちのいうことにはダンジョンというのは魔力的に安定した形を保とうとする性質があり、たとえば通路に目印を置いても時間がたつと同化して消えてしまい、壁や床に彫り込んでもいつの間にか元に戻ってしまう。それ故にダンジョンの地図は攻略には重要な情報となる。
「でも再生だって万能じゃない。素材も再生するたびに少しずつ劣化するし、魔力の回路ならもっと早くまともに動かなくなる。今ではもうただの石像ね」
マユは元ガーゴイルと思われる石像をツンツンと突いて見せたりしている。
「じゃあもうほとんど安全ってことだな」
そういってズカズカと扉に向かったキースが扉に手をかけたそのとき、俺は悪い予感がして急いで鎧の襟首をつかんで引き戻す。悪い予感は的中してさっきまでキースが立っていたあたりの床が崩れ落ちていた。
「魔法の仕組みは劣化するかもしれないが単純な仕掛けは形さえ戻れば同じように動くからな。警戒は怠らないように頼む」
キースは声も出さずにコクコクと頷いていた。
◆ーー◆ーー◆
「宝箱だな」
「ええ、宝箱ね」
地図を見ながら罠を回避し、途中数個の扉の錠を盗賊技能で開けて進んでいったある部屋には大きめの宝箱があった。キースとサラが期待の籠もった目で見ている。
「これ、開かないかな?」
「見た目でいうと遺跡にはよくあるタイプの宝箱だ。罠の種類も知られているから開けるのはそんなに難しいもんじゃないが」
「最初に入ってた宝物はとっくに持ち出されて、中にあるとしても魔力で再生された形だけのものでしょうね」
キースの問いに俺とマユが答えるが。
「冒険者としてダンジョンに来たからには宝箱を開けてみたい!」
キースが邪心のない笑顔で言った。
「まあそれほどの手間でもないしな。開けてみるか」
宝箱は囮で周囲に罠がある場合もあるので十分に警戒しつつ取り付き、宝箱本体の罠も無効化して解錠する。中には一振りの長剣が入っていた。刀身には何かの文字が書かれている。
「魔法文字か。 マユなら読めるだろう?」
「『炎を用いて相対するものを打ち払うべし』ね。元は炎の魔法剣だったみたい。もちろんもう魔法剣としての力は残ってないけど、元の素材が高級だったのかまだ金属質だからいい方ね。普通の剣としてなら使えると思うわよ」
その間にも戦士のキースとサラは興味深げに宝箱から剣を出して観察し、ときおり素振りなどもしている。
「握りやすいしバランスもいいわね」
「でもやっぱり素材が不安かな。鋼じゃなくてなんかよくわからない金属になってるし」
「じゃあ置いていく?」
「そうだな。これなら自分の剣の方が安心だ」
戦士二人が剣を諦めて宝箱に戻したので先へ進んでいく。次の部屋には片手で持てるほどの小ぶりな宝箱があった。
「これは開けていこうか」
俺はそう言って宝箱の解錠に向かう。開けてみると中にあったのは彫刻が施された腕輪だった。これも内側に魔法文字が書かれている。
「『汝凍える事なかれ』だって。さっきの魔法剣とセットで氷系の魔物に対抗するものだったのかしら。もちろん魔力はなくなってるし、材質も普通の石になってるわね」
「それじゃあやっぱり価値はないの?」
サラが質問してきたのに俺が答える。
「こういうのを集めてる好事家もいるんだよ。普通の石にこんな精緻な彫刻施したりはしないからな。この程度なら持ち運ぶ手間にも十分つり合う。帰ったら売れる店を紹介するよ」
「そういうのもあるのね。じゃあよろしくお願いするわ」
「ああ。こいつはとりあえずリーダーが持っておくか?」
「じゃあこれはわたしが預かっておくわね。次へ進みましょう」
ダンジョンに入ると野伏のティナは出番薄いなー。次回はちょっと活躍できるはず。




