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44:死霊襲撃

「入口が見えてから思ったよりも遠いな」


 山道をダンジョンに向かって先頭で歩いているキースが愚痴を漏らす。


「途中にあった崖を迂回したからね。見えてるんだから焦らず進みなさい」


 リーダーのサラがキースにハッパをかける。サラは基本他人に対して丁寧に接するタイプだがこの二人は幼なじみということで互いの口調もちょっと軽めになっている。キースは弟扱いから抜け出したいようだがまだまだのようだ。


「魔物が近づいてるわ。気をつけて」


 索敵魔法で警戒していたマユが警告する。途端に空気がピリッと締まるのはさすが冒険者だ。


「魔物の種類や距離はわかる?」


 リーダーのサラがマユに確認する。


「ぼんやりしてるけどたぶん死霊(ゴースト)系が5体。距離はまだ遠いけど樹とかもすり抜けてこっちに真っ直ぐ向かってる。たぶんダンジョンの魔力に引かれてるのね」


「あいつらは普通の武器が効かないから厄介ね。マユ、わたしとキースの剣に魔力付与を。チャックはなんとかできる?」


「マユなら知ってるが携帯投石紐(スリングショット)の弾に魔力乗せられるぐらいだ」


「あれは効かないことはない程度よね。でも牽制ぐらいはできると思う」


「じゃあそれでよろしく。マユとランドで遠距離攻撃して近くに来たらわたしとキースで」


 サラが指示を出して皆が接敵に備える。そういえばランドは回復役(ヒーラー)と分類される中でも神の奇跡をベースにした神官系だったから死霊系には強いはずだ。マユも当人の趣味は補助系魔法だが攻撃魔法も十分強力だ。この二人に魔力付与されたサラとキースがいれば戦力として十分足りるという計算だろう。


「こういうときは弓矢は不利よね。弓に魔力付与しても矢の方には魔力つかないし」


 俺と同じく今回の戦闘では戦力外扱いになったティナがぼやいてくる。


「俺たちが今できるのは死霊以外の魔物が寄ってきてないかの警戒だな。マユも攻撃魔法使いながら索敵はきついだろうし」


「そういえばさっき携帯投石紐で魔力の乗った弾を撃てるっていってたわよね。前はそんなこと言ってなかったでしょ」


「ああ。マユの師匠に細工してもらって、撃ち出す弾に魔力が少しの間だけ乗るようになってる。言っとくが矢みたいに大きなものに同じことするとあっという間に本人の魔力が尽きてぶっ倒れるそうだ」


「うーん、それでもいざというとき一発だけとかできないかな?」


「そういうのはあとでマユと師匠に相談したらいいだろう。二回しか会ったことないが、あの人は何かネタ出すと結構面白がりそうだぞ」


 話している間に死霊が近づいてきたのが俺の気配感知でもわかるぐらいになってきた。


「そろそろ来るわよ。射程に入ったら撃っていい?」


 マユが全員に警告を出しつつリーダーに確認する。


「できたら二人同時にお願い。狙えるようになったら声かけて」


「了解。……こっちはどれでもいけるわよ」


「こちらはあと少しで正面のやつが……いけます」


 ランドが声をかけると同時に二人から魔法が飛んで二体の死霊に当たる。ランドの光球は一発で死霊を消し飛ばし、マユの火球をくらったやつは大きくダメージを受けているようだがまだ残っている。


「ダメージくらったやつはキースに。魔法は遠くの無傷なやつ二体を狙って。あたしは近い方の無傷なやつを」


 サラが駆け出しつつ指示を飛ばしてキースもダメージをくらった死霊に向かい、魔法を使う二人は次の呪文を唱え始める。


「せいっ!」


 動きの遅くなっていた死霊はキースがあっさりと斬り飛ばした。サラの方は当たりが浅かったようであまりダメージは感じられない。ランドの光球はもう一体を消し飛ばし、マユの火球はやはり大ダメージを与えつつ倒しきれない。


『ぼすっ』


 マユの魔法でダメージを受けた死霊に俺が撃った携帯投石紐の弾が命中した。続けて数発を撃ち込むと死霊は崩れるように姿を消した。その間にキースがサラに合流して2対1となって残りの死霊も倒れている。


「それ、案外威力あったわね」


 戻ってきたサラが携帯投石紐を指しながらいう。


「マユの魔法でダメージくってたからじゃないか? 普段は鳥やウサギを狩れる程度のものだぞ」


 俺の方も動きがにぶいなら当たるかなとやってみたらトドメになってしまったという感じで結構驚いている。


「魔力をそのまま乗せるのは火球や光球に変えるのとは違うのかもね。先生に報告したら喜びそうだわ」


 マユの方は何やら研究者っぽく感心していた。


◆ーー◆ーー◆


 死霊の襲撃からダンジョンの入口まではほんの少しだった。遠くからでも見えるような大きな構造物の前に、やや小さく様式が少し違って見える入口がくっついている。


「これ、手前のはたぶんコーリーが後から付け足したものね。石の積み方が今のものだし、魔法文字で『魔力を持つもの、疾く二つの輪を通るべし』って書いてある」


 見ると扉の横に、親指と人差し指で作ったぐらいの輪が胸ぐらいの高さと腰ぐらいの上下に二つ並んでつけられている。


「『魔力を持つもの』ってのはこいつでもいいのかな」


 俺は携帯投石紐の球受け部分で小石をつまんで上の輪から落としてみる。魔力を帯びた小石はそのまま下の輪も通って下に落ち、扉がゴゴゴと音を立てて開いていった。そしてマユが扉の手前で何か呪文を唱えて中を探る。


「空気も害はないし入っても大丈夫みたい」


「じゃあ進みましょう」


 サラが号令をかけて全員が入って行き、少し経つと後ろで扉が閉まる音がした。


「あのですね、ちょっと思うんですけど」


 何やら考えていたランドが話し出した。


「もしかしたらさっきの仕掛け、本来はザビーさんが残した指輪を使うものじゃなかったんでしょうか」


「あっ」


 言われてみれば指輪の存在を今まで忘れていた。まあ開いたからヨシ。


「弓矢が主武装だからといっても戦闘で役立たずなのは面白くないわよね、チャック」

「いや、一応今回も『伝令人を護衛する探索者のみなさん』ということで俺は守られる立場なんだが」

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