43:人員集結
「久しぶりね。王都行きの定期便護衛以来だからだいたい5ヵ月ぶりになるかしら」
ダンジョンを抜けた先に住むという魔法使いコーリー宛の仕事を請けた翌日の午前、道中の護衛として引き合わされたのは以前にも仕事をしたことのあるサラのパーティーだった。拠点を同じにしている冒険者同士でもタイミングが合わないと結構長いこと合わなくなってしまうことも多い。
「久しぶりだな。そっちのみんなも相変わらずか。今も護衛中心の仕事をやってるのか?」
サラと幼なじみという戦士のキースに野伏のティナ、回復役のランドも元気そうだ。
「一月ちょっと前にフリーだった魔法使いが見つかったのよ。今は護衛だけじゃなくて討伐系の依頼もちょいちょいこなしてるわ。やっぱり索敵魔法が使えると便利よね。あとは罠とかに詳しい人がいると今回みたいにダンジョン探索もできるんだけど、チャックはウチに入るつもりはない?」
「お誘いはありがたいが俺はまだ伝令人でやってくつもりだよ。あと今回はダンジョン探索でなくて通過が目的だからな。ところでその魔法使いはまだ来ていないようだが?」
「彼女は『友達と会うから先に行ってる』って言ってたんだけど」
そんな話をしているとちょうど扉が開いて魔法使いの女が入ってきた。外に繋がる扉ではなく事務室の奥へ繋がる扉から。
「あー、もうみんなそろってるわね。今回もよろしくね。チャック」
「フリーの魔法使いというからそうじゃないかと思っていたがやっぱりマユか。しかしなんで事務室から出てくる?」
「チャックが帰ったならお土産があると思って、先に来て受付嬢たちとお茶してたの。クッキー美味しかったわよ」
「気に入ってもらえたなら何よりだ。それはいいとして、もうみんな依頼内容はわかってるんだよな」
「あとはチャックを待つだけだったからね。そういえば封印されてた書類は見てないけどなんだったの?」
「ダンジョンの地図らしいものと何かの魔法の指輪だ。最初に触ってしまった俺しか使えないらしい。ギルドの鑑定では呪いとかはないってことだが、魔法使いならなにかわかるか?」
そう言って指輪を取り出して見せてみる。マユはちょっといじり回したあとで返事をしてきた。
「んー、魔法がかかってるのはわかるけどやっぱりあたしの魔力だと反応しないわね。チャックがやってみてくれる?」
「一応盗賊技能持ちとしては手に何かわからないものつけたくないんだがな」
少し不安はあったが指輪を左手親指にはめて魔力を込めてみる。なんでも前に魔法使い宛ての担当だったザビーは体格のいい男だったらしく俺では親指以外だと緩すぎた。マユは指輪に手を添えて何やら集中している。
「えーっと、これは受けた魔力を波長変えて強弱つけて再度放出してるわね。たぶん強弱の信号が何かの鍵になってるんだと思う」
「そういうことならダンジョンのどこかを開けるためかな」
「その可能性が高いと思うわ。とりあえず害はないはずよ」
「わかった。ありがとう」
礼を言って指輪を外して小袋に入れ鞄に戻す。その様子を見ていたサラが全員に向かって言った。
「他に何か聞いておきたいことはなかったかしら。何もなければそろそろ出発しましょう」
◆ーー◆ーー◆
オトヤを出発して街道を西へ向かい、クオウで一泊してケシタの村までは順調に進んだ。ここでも一泊してから街道を外れてメイデのダンジョンに向かうことになる。なおほんの数日前にも一人でこの村に泊まっているが、今日は男女混成パーティーであるので余計なトラブルを避けるため大人なお店の客引きは来ない。
翌朝になって山道を北に向かう。資料によると一日ちょっとの行程らしい。比較的近くながら探索者の主要な目標になっていないが、発見されてからかなりの年月が経っているので高価なお宝も見つかったりしなくなり、討伐して儲かるような魔物も出なくなって雑魚ばかりいるからであるという。
「携帯食料を節約するために狩りに行きたいんだが、ティナを借りていいか?」
街道のような整備された広場はないが、昼過ぎに休憩に入ったところでサラにお伺いを立ててみる。
「構わないけどあんまり遠くまでは行かないでね」
「チャックと狩りをするのも久しぶりですね。今日の目標はどんな感じです?」
「この人数の1食分ぐらいを捕れたらいいな。鳥かウサギを3匹ぐらいかな」
「なるほど、では行きましょうか」
その猟はだいたい目標通りになった。俺が気配感知で獲物を探り、ティナが地形を読んで位置取りをするというので以前一緒に狩りをしたときよりもかなり効率が上がった。
捕れた獲物はウサギが一羽に鳥が二羽。それをその日の晩の食料にしてから野営して、翌日の午前中にはメイデのダンジョン近くまで行き着いた。
「あれは……古代の遺跡なのか?」
先頭で警戒しつつ進んでいたキースが一番に見つけて口に出す。そこには切り出した石で組まれた建物らしいものがあり、岩壁にめり込むようになっていた。
「遺跡型ダンジョンというやつね。たまたまなのか狙ったのか魔力溜まりに作られたものが長い時間をかけて魔力の影響を受けてダンジョン化したのよ。魔物も寄ってきやすいから気をつけてね」
マユの忠告を聞いた俺たちは警戒しながらダンジョンの入口に向かって進んだ。
「チャックがティナと二人で狩りに行くの? あたしも行きたい」
「マユは周囲の索敵のため残ってくださいね。ここは街道じゃないんですから」




