42:緊急依頼
定期便に代打で同行してから単発の臨時便をいくつか受けて一か月ほど経ったある日。その日も臨時便を受けてマイケから帰還途中のケシタ手前の街道で馬に乗って急いでいる人間に追い越された。伝令人の目印である布を腕に巻いていたから普段はめったに使われないという早馬だったのだろう。臨時便が主体である自分もかなり実入りはいいが早馬の料金は更に上だったはずだ。
「誰だか知らないがずいぶんと景気のいい人間もいるもんだ」
少々うらやましく思いながらもその日はケシタで以前に世話になった店で食事をして一晩泊まり、翌日クオウでもう一泊して翌々日にオトヤに帰り着いた。
臨時便はあちらに届けた時点で手続きも終了しているが、女性陣に土産の菓子を渡すのと一応帰還の報告にオトヤの冒険者ギルド支部へと向かった。ふと見るとギルド裏手の馬小屋に普段はいない馬が一頭繋がれている。毛色からすると帰還途中で追い抜いていった馬のようだ。
「あいつの目的地はここだったのか」
そう思いながらギルドの扉をくぐるとオトヤ伝令人の代表であるダンがいきなり声をかけてきた。
「そろそろ帰るころだと思っていたぞ。さっそくで悪いが急ぎの仕事があるんで聞いてくれるか」
持ってきたマイケ土産はみんなに配ってくれるよう受付嬢のゼナに託して、ダンに導かれて伝令人控え室へと入る。室内には見知らぬ顔の伝令人がいたがおそらく早馬の騎手だろう。
「はじめまして。王都で早馬担当の伝令人をやっているヤンです。あなたが盗賊技能をお持ちという伝令人のチャックさんですか?」
「ああ、はじめまして。こっちで伝令人やってるチャックだ。確かに盗賊技能も持っているが、それがなにか関係あるのか?」
「ごく簡単にいうと今回の依頼先までに盗賊技能が必要になりそうなんだ。行き先が厄介な場所のようでな」
ダンが答えたのに応じてヤンが封筒から紙の書類を出して机に広げてみせる。貴重品の紙を封筒にまで使っているということはかなり上からの依頼なのだろう。机には普通に使われている薄板の書類もたくさん積まれている。
「今回の依頼先はコーリーという名前の魔法使いです。先王様の代から仕えている有能な魔法使いなんですが、後進に道を譲るといわれて王都を離れられたんです」
「どうやら人里離れた場所で研究三昧の日々を送っているらしい。その場所というのがどうもメイデと呼ばれるダンジョンの奥らしくてな」
「ダンジョンってのは人間が住めるような場所じゃないだろう。拠点を作っても時間がたつと吸収されてしまうし」
「より正確にいうならダンジョンを抜けた先だな。他の道があるかもしれないが残された資料からは見つからなかった」
「コーリー殿には今でも年に一度ぐらいは難しい案件を相談しているんですが、研究を邪魔されるのを嫌って連絡先をこちらに所属していたザビーという伝令人に限定されていたんです。それが昨年に引退されて故郷へ帰られてしまったそうで」
「ザビーは事故で膝を痛めてしまってな。ゆっくり歩くなら問題ないが走ったりするのがきつくなって伝令人としては難しいと。抱えていた案件は資料を残してもらえたんだが、そいつを調べてコーリーの居場所もつかめたというわけだ。それによると盗賊技能を持っていればダンジョンは突破できるだろうということでな」
「それで俺を待っていたというのか。しかし盗賊技能持ちの冒険者なんて他にもいるだろう」
「気がついていないのか? ウチ所属の盗賊技能持ちはチャック以外みんなイッシの北にある拡張したダンジョンに行っちまってるぞ。残ってるのは護衛や討伐をメインにした盗賊のいないパーティばかりだ」
そう言われてみると確かに最近はあいつもこいつも顔を見ていない。拡張ダンジョンではミスリルなどの稀少な鉱物も発見されたというしまだまだ探索者の注目の的なのだろう。
「盗賊技能持ちが俺しかいないらしいというのは承知した。しかし俺一人でダンジョンを突破というのはさすがにきついんじゃないか」
「それについては既に護衛という形でいけそうなパーティーに声をかけている。あとはチャックさえ承諾してくれれば動き出せるという状況だ」
どうやら俺以外の準備は万端らしい。
「わかった。この仕事を引き受けよう」
「ありがとうございます。ですが最後に一つ確認していただきたいものがあります」
ヤンはそういって机の書類の山から書類を取り出す。普通に使われる木板を二枚重ねて紐で縛って結び目を粘土で封印したままだ。それについてはダンが話し出した。
「こいつはザビーが残していった書類の一つだが『メイデのダンジョンに挑む本人が封を解くこと』と書かれていてな。これを開けたら今後もコーリー案件はチャックの専任になるかもしれない。それでも構わないか?」
「こうして引き継ぎもできるんだ。なにかあったら俺もそうするさ」
俺は封を解いて中を確認する。そこに書かれていたのはダンジョンの地図のようだった。そして板を少し彫り込んで布に包まれた何かが入れられていた。
「これも開けていいのかな?」
俺の問いにヤンとダンが頷いて答える。布を開いて出てきたのはシンプルな指輪だった。手にしてみるとわずかだが魔力を吸われた感じがある。改めて布をみると内側に注意書きがある。
『最初に触れた人間の魔力波動を記憶するので注意』
「こういうことは外側に書くべきだろう」
俺のぼやきに応えるものはいなかった。
今度のエピソードは終わりまでプロット組んで書き始めた。今のところだいたい予定通りで収まってる。




