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41:隙間仕事

2025/07/28 依頼を受ける動機、退治しなくていい理由を追加。

「オトヤからの定期便、確かに受領しました。今回はウーゴさんたちじゃないんですね」


 エイアンの冒険者ギルド支部で書類を受付嬢に手渡すとこの経路担当だったウーゴとヴァンのことを訊かれた。


ジョウ(こいつ)は王都行きの定期便担当だったんだが、その相方の奥さんが子供ができたのがわかって急遽引退してな。かわりにウーゴたちに王都に行ってもらったんだ。それで相方のかわりに近距離担当から一人抜擢しようとしたんだが、いろいろあって今回は研修がてらに3人で来たんだ」


「そんな事情でしたか。そういえば最近は天候もよかったのにちょっと到着遅かったですね。帰りの便の出発予定は三日後の朝になりますが、大丈夫でしょうか」


 一応二人の方を振り返るがそろって頷いている。


「問題ないようだ。それまでは待機でいいのか?」


「はい、伝令人(メッセンジャー)の任務中扱いなのでギルドの仮眠施設は使えますし携帯食料でしたら支給可能ですが、出発に間に合うなら何をしていても問題ありません。他の依頼を受けてもいいですよ」


 説明を聞き終えたところで受付を離れて二人と相談する。


「俺はとりあえず街をぶらぶら回ってみる。道を覚えておくのは伝令人の基本だからな」


「わたしは事務作業の方でお手伝いできないか聞いてみますー。だいたいどこも人手不足なので-」


 ジョウとネイは普段からそうしているようだ。俺はどうしようかと依頼の木札がかけられた掲示板を眺めてみる。伝令人向けから一般冒険者向けまで見てもほとんどは三日では済まないか、定番の薬草等の素材回収というものだ。まあこんなものかと思いつつ掲示板の隅をみるとかなり古い感じで文字も掠れたような依頼があった。


『夜番募集 街の共同墓地の夜間監視。人数一人から、期間一日から可。 *幽霊の目撃談あり』


 ただの幽霊なら携帯投石紐(スリングショット)の魔力の付いた弾なら対応可能だと判断し、この依頼を受けることにして依頼主のいる教会へと向かった。依頼主の僧侶は年配の男性でここは一人で管理しているという。


「一応わたしも夜間巡回はしているんですが、寝ずに見張ることもできないので随時募集中なんですよ。地味な依頼なんであまり人気もなくて、一晩でもありがたいです」


「幽霊が出るというのは本当なのか?」


「うっすらと光る人影がときどき現れるんです。普通の霊なら退散する聖水は効かないし魔力を込めた棘棍棒(メイス)で殴っても手応えがないので幽霊じゃないかもしれないんですが。ただ襲ってきたりもしないので危険は少ないでしょう」


「では別に現れても退治とかしなくてもいいんだな」


「はい、見張りをしていただければ十分です。以前お手伝いいただいた魔法使いさんによると爆裂魔法は効いたというのですがちょっと騒ぎになってしまいましたし。この時期だと出現すること多いので出くわすかもしれませんね」


◆ーー◆ーー◆


 夜の墓地はさすがに静かで気味が悪い。たき火はしていいと言われたので小さめに火を起こして監視していたが、夜半もかなりすぎたころに墓地の外れにぼうっと光るものが現れた。最初は小さく、それがだんだんと大きくなってだいたい人間ぐらいになった。ただ形状は手足があるというわけでなく細長い筒のような感じだ。ためしに『気配感知』を使ってみるがそこに見えているのに反応がない。


「こいつは確かに不気味だな」


 独り言を言いつつゆっくり近づいてみるが別にこちらを気にするような様子はない。ほんの数歩まで近づいてみると向こう側の景色がぼんやり透けているのもわかる。同時に気配感知でもギリギリ感じられるようになった。


「これはすごく小さい『気配』が無数に集まってるのか」


 更に近づいてゆっくりと開いた手を突っ込み、ギュッと握って引き出してみる。開いた手袋の表面には数匹の羽虫が弱い光を放っていた。一匹あたりの光は非常に弱い。


「こいつが『幽霊』の正体か」


 ためしに気配感知の魔力を強めに放ってみると光がぶわっと飛散した。魔力を消してみるとまたちょっと離れた所で集まっていく。


「確かにこれは害はなさそうだ」


 俺はたき火の脇に戻って朝まで見張りを続行した。


◆ーー◆ーー◆


『幽霊』の正体を見破ったのは依頼人に大変喜ばれ、報酬もちょっと増額してもらえた。


「墓場に残留している魔力に引かれたのかもしれませんね。魔法使いに連絡したら喜んで調査に来そうです」


 依頼完了の報告を終えた俺はギルドの仮眠室で昼過ぎまで休んだ。夕食はジョウにネイと一緒にとる。特に何事もなかったが定期連絡みたいなものだ。なおこのあたりは北の街道工事の作業員が多いからか深めの器に炊いた米と惣菜をまとめて盛り付けた料理が人気であった。揚げた豚肉を使ったものが最近の流行らしい。


 帰路では空中回廊ではなく地上の街道を使った。往路では空中を通り過ぎたヤドーの村は工房を持つ職人たちが多く、息抜きとしてちょっとした競技場があるそうだ。ちょっと興味はあったが寄り道するほどではないかと立ち寄りはしなかった。 


 その後の行程も特に問題はなく、途中ヤドーの蒸し風呂(サウナ)でゆっくり身体を休めてオトヤに帰還した。


 なおギルドの給湯室に置いた土産の蜂蜜瓶は好評で十日も保たずに空になったらしい。

チョイ役に名前をどんどん使うのもなーと受付嬢さんと僧侶さんには命名せず。この先で再登場の機会があったら考えよう。

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