38:樹上生活
「ここは鶏肉料理が多いんですねー」
空中回廊のヤドーの上の村の食堂に入り、渡されたメニューを見たネイが感想を漏らす。
「鶏なら上でも飼育可能だからな。牛や豚はまず連れてくるのも難しいんで肉の状態で運ぶからちょっとお高くなる」
こちらで少しの間だが仕事をしていた経験のあるジョウが解説する。俺もメニューを眺めていると一つ気がついた。
「蜂蜜を使ったメニューも多いな。そういえばこっちは養蜂もやってるんだったか」
「大樹本体にも一応花は咲くし樹皮や溜まった腐葉土とかにも別の植物が生えて花も咲くからな。十分な量が採れるらしい」
「なるほどな。じゃあ俺は蜂蜜照焼き鶏肉と蜂蜜酒にしよう」
「わたしは鶏肉と芋の煮込みに果実酒をー。ジョウさんは何にしますー?」
「パンケーキに果物のセットで。飲み物は樹液酒を」
「あら、案外かわいらしい選択ですねー」
「レーナに付き合ってるうちに甘味に目覚めてな。そういえば前にこっちで食べてるのを見たのが美味しそうだったなと思い出して一度食べてみたかったんだ」
「樹液酒ってのはなんなんだ?」
「名前の通り、樹液から作った酒だ。大樹に筒を打ち込むと甘い樹液が採れて、それが発酵すると酒になる。独特な風味があってなかなかいけるぞ」
「それは面白そうだ。おかわりするときはそいつにしてみよう」
店員を呼んで注文を済ませるとまず酒類が来た。一息ついたところで落ち着いて店内を見回す。
「しかし天井が無いってのは落ち着かないな」
「雨は大樹の枝葉で遮られるからな。店なら座席を壁で仕切っているだけでも上等だ」
確かにここに入るまでに見た店は大樹の幹にくっつくように屋根付きの厨房があって店の前にテーブルと椅子が置いてあるだけというのも多かった。
「雨を防ぐ必要が無いならしっかりした屋根もいらないのだろうが、やっぱりちょっと落ち着かないな。開放的だとも言えるが、建物の中にいるっていう安心感が足りない」
「こっちに慣れすぎると下に降りたときに『なんか閉じ込められるみたいで不安になる』って事もあるみたいだけどな。宿屋にはさすがに天井もあるから落ち着けるだろう。さて、料理も来たようだし食べたら宿をとろうか」
◆ーー◆ーー◆
「ほとんどの大きな建物が大樹にくっついてるのはこういうことか」
いつものように男女別で一部屋ずつ宿を取って、室内を見回すとここでも他とは違う光景が目に入ってきた。
「空中回廊の床は分厚いとはいえ板だからな。何かの魔法がかかってて頑丈だが、それでもできるだけ傷つけてはならんと決められている。だから柱を床に埋め込むことができないんだ」
「その対策がこの幹に直接埋め込まれた生きている梁なんだな」
階段を上っている途中に下から見上げた空中回廊を支える太い枝ほどではないが、長さでいうと人の身長の二倍ちょっとぐらいの枝が大樹の幹から真っ直ぐに突き出ていて根元は妙に盛り上がって一体化している。壁や屋根は枝に固定されていて、構造としては幹から横向きに建物が建っているような感じだ。
「人が運べる程度の枝ならなんとか挿し木で活かすことに成功したんだそうだ。ただ成長もしてしまって数年で調整が必要になってしまうらしい」
ジョウが説明してくれるのを聞きながら壁をよく見ると壁板の端が斜めに重ねられていて多少の伸びなら隙間が目立たないようになっている。感心しながらもふと気がつく。
「それじゃあ回廊の方も定期的な手直しが必要になるんじゃないのか?」
「それがなぜか回廊を支える枝は成長しないそうなんだ。まったく人間業とは思えない」
「伝説にある巨神の仕業じゃないかという奴らがでてくるのも無理はないか」
感心しながら室内を観察しているとジョウが荷物を降ろしながら話しかけてきた。
「ところで、明日はどうする? ここでもう下に降りて普通の街道を行くか、このまま空中回廊で次のゾーンの街まで行くか」
「そうだな、できれば空中回廊で土産も買っておきたいんだが、ヤドーとゾーンではどっちにいい店があるかな?」
「ゾーンは空中回廊の端だし、街道として整備はされていないがそこそこ大きな道が多く繋がっているからな。商売も盛んだぞ」
「じゃあこのまま空中回廊で最後まで行ってそこで土産を買いたいな。それでいいか?」
「ああ。空中回廊は入場料だけでどこまで使っても追加料金はないし、食い物などはちょっとは高いがそいつは誘ったお前のおごりだしな」
「そういえば俺が持つって言ってたな。まあいいか。それじゃあネイもそれでいいか確認してくる」
「おう、行ってこい。なんならあっちの部屋から戻ってこなくてもいいぞ」
「お前、そういう風だから女関係ではリーナに信用されないんじゃないか」
なおネイの方はいつものように「ええ、わたしも問題ないですよー」とのんびりした返事が来たし、俺はちゃんと男部屋に帰って寝た。
設定紹介、というか正直細かいところは書きながらどんどん詰め込んでいった。あとから書きたくなることと矛盾が出るかもしれないがまあしゃーない。そのとき何とかする。