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30:新人出発

「三人とも、村から出るのははじめてだって?」


 ドワーフの里であるドウチ村からオトヤへ派遣されるドワーフの道案内が帰路の任務であるが、その対象者三名は旅の経験が無いという。これはどうも単純に道案内というだけでなく旅をすることのノウハウも案内しなくてはならないかもしれない。そんなことを考えつつ山道を歩き、次のオーエの山小屋には夕刻に到着する。


「入口がないぞ。どうやって入るんだ?」


「そこの紐で階段を降ろすんだ。やり方はわかるか?」


「ああ、あれッすね。だいたい見れば仕組みはわかるッす」


 ドワーフの男性陣は階段の仕組みに興味津々で降ろしたあともあれやこれやと機構を見ている。その間に女性陣が階段を上って中に入る。


「二階が寝室で一階が台所と食堂ね。トイレは一階の奥から離れにあるわ」


 マユがイーヴェットに内部を説明している。


「寝室は一つなんですね。ちょっと落ち着かないです」


「気になるなら毛布垂らして奥を女性用にしましょうか。男性陣は入ってくるんじゃないわよ」


「わかった。ドワーフの男たちにも伝えておこう」


 話しているうちにクアンとライマーも上がってきたのでざっと説明してから食事の準備を始める。力の強いドワーフ達が食材も結構な量を運んでくれているので量の心配はないが、日持ちしにくい食材から消費していく。今日は鶏と茸がメインのスープだ。


 晩飯を済ませると女性陣に最初の当直をまかせて男性陣が先に休む。夜半ぐらいに起こされて次の当直は俺と若手のライマー。明け方よりも少し早いあたりでベテランのクアンを起こしてライマーと交替。俺はそのまま当直を続ける。不慣れな人間だけに任せるのは不安なのでドワーフたちだけの当番は避けた。まあちょいと負担だが連日でなければなんとかなるだろう。


◆ーー◆ーー◆


 朝になって朝食をとり山小屋を片付けて出発する。日もかなり傾いてウトクの村の手前に来たぐらいで『気配感知』に反応があった。より正確にいうなら俺の飛ばした魔力から逃げずに突っ込んでくるものがいた。逃げていく動物らしいものは何度も感知している。


「後ろから結構大きなものが迫ってきているようだ。みんな注意してくれ。マユ、探知魔法を頼む」


「こっちも見つけたわ。大きな猪みたいね。大牙猪って奴かしら。なんだかひどく興奮しているみたい」


「あいつか。村でも狩ったことはあるが速くて力も強く、牙も鋭くて難敵だったな」


 ドワーフの男達は遭遇したことがあるようだ。山道の脇に大きな荷物を降ろしてイーヴェットを見張りに残し、ドワーフたちは斧に盾、俺はナイフと短剣を持って大牙猪の来る方へやや距離を取る。少しおいて山道を駆けてくる姿が見えるようになった。


「矢が刺さっているッすね。手負いみたいッす」


 視力がいいらしいライマーがいう。


「興奮しているなら見逃してはくれないかもな。マユ、強化魔法を頼む」


「加速と防御に攻撃力強化でいいかしら。攻撃魔法の援護はいる?」


「このあたりはエルフの領域だからな。周囲に被害が出ないようできるだけ物理で仕留めよう。逃げてくれるんならそれでいい」


 強化魔法をかけたマユが少し下がったときには大牙猪がはっきり見える距離に迫ってきていた。


「直線的に突進してくるが牙を振り回してくる。躱しても注意しろ」


 経験者のクアンが忠告してくれる。その間にも突進してきた大牙猪が目標にしていたのはライマーだった。背が低く一番弱そうに見えたのかもしれない。


「うぉっとぉ!」


 ライマーが叫びつつ大きく躱したところに俺とクアンが踏み込んで狙うが浅い。通り過ぎた大牙猪は反転して再び突進してくる。それを数回繰り返すとパターンが読めてきた。


「次の突進、二人は一歩下がってくれ。俺がギリギリねらって躱し急所を狙う」


 そう言って一歩前に出て突進に備える。狙った通り俺を標的にして突っ込んできた大牙猪をギリギリで躱し、牙の振り回しをナイフで防ぎつつ脇腹から心臓を狙い短剣で突く。


「ぐわっ!」


 俺は右腕を押さえてしゃがみ込んでしまった。大牙猪はそのまま走り抜け、数歩いったところでどうっと倒れた。


「大丈夫、チャック」


 マユが駆け寄ってくる。


「ああ。短剣が抜けなくて腕を引っ張られただけだ」


 さすがにパウルが気合いを入れただけあって予想外に深く刺さって抜くタイミングが遅れて腕を痛めてしまった。イーヴェットに回復魔法をかけてもらっていると森の中から数人のエルフが現れた。


「やあ、このあいだ村長のところにいたお客さんだね。君たちが仕留めてくれたのかい。そいつは僕たちが追っていたんだけど仕留め損ねて崖から落ちてしまってね。降りられる場所から回るのに時間がかかってしまったんだ」


「君らの得物を横取りするつもりはなかったんだが向かってきたんでな。肉だけ半分ぐらいもらえれば毛皮や牙などは渡そう。解体も任せていいかな?」


「倒したのは俺らなのに渡しすぎじゃないッすか?」


 ライマーが少し不満そうに口を出す。


「大物の狩りは猟師組合の管轄なんだよ。今回は狩猟の許可をもらっていないからこのぐらいが相場なんだ」


 俺の説明でライマーも不満顔ながらも納得したようだ。


「僕たちの方は問題ないよ。じゃあ一緒に村まで行こうか」


 その日の晩飯はこの大牙猪の内臓を使った煮込み料理だった。

「まったく出たことがないということはないぞ。当番制で村の外へ狩りにでるからな。武器の使いどころは対人戦闘だけではないからそういう経験を積むには外に出ないと」

「鍛冶屋にならないドワーフもいるッすけど、それでも男女全員参加ッすからね。もちろん自分も一通りは扱えるッす」

「つまり三人とも『村から出たことがある』というのは『塀の外で狩りをした』というだけで他の村や街に行ったことはないんだな」

「うむ、そうなるな」

「そうッすね」

「そういうことです」



**

人数増やして帰還は一話分で足りなかった。次の話でなんとか。


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