3:新人教育
2025/04/13 表記微調整 伝令人のルビがうるさいなと削除したら文字数減っちゃったな
2025/05/18 ルビタグの痕跡消し忘れ修正
2025/08/03 句読点修正、表記調整
「よう、あんたが新人伝令人かい?」
朝になってギルドに出向いた俺を待っていたのは見慣れないギルド職員だった。
「こちら、ギルドの伝令担当のダンさんです。伝令人について一通りレクチャーしていただくためにお呼びしました」
受付嬢が紹介してくれた。
「おっと、名乗るのが先だったな。俺がここの伝令人の代表をやってるダンだ。昨日は留守にしてたんでな。嬢ちゃんの方からだいたい説明したとはきいてるが一応説明させてもらう。奥へ行こう」
そういって案内されたのは簡素な机と椅子に棚のある部屋だった。ここが伝令人の控え室らしい。ダンは伝令人特典の仮眠施設使用方法、支給食料の受け取り方、預かり荷物の手続きなどについての詳細を説明してくれた。
「最後にこいつだ。この布は伝令人であることの目印になるから身体か荷物の見える場所に巻いておいてくれ」
「ああ、伝令人は金目のものを持っていないとわかっているから盗賊達に襲われにくいというアレの対策か」
「そういうことだ。さて、説明も終わったことだしさっそく仕事の話といこうか。まずはこれを渡しておこう。お前さんのパーティー関係の書類だ。そしてこっちが今回の仕事。マイケの街の商人ギルドへ届けてくれ。定期便よりは急ぎだが早馬をだすほどでもない臨時便というやつだ」
そういって渡されたのは数枚の木の板。高級品である羊皮紙や布、植物紙を使っていないのだから重要度はそれほどでもないのだろう。バラになっている二枚は俺に関係する報酬分配とメンバー脱退の確認書類だ。残り数枚は重ねたものを紐で縦横に縛り結び目を粘土で固めて封印を押してある。表に見えるのは宛名と差出人ぐらいだ。
「こっちの中身はなんなんだ?」
「知らん。というか、知ろうとするな。伝令人は依頼人の秘密に踏み込んじゃいけない。そうでないと信用してメッセージを預けてもらえないからな。まあ依頼人が雑談がてらに話すのを聞くぐらいはいいが踏み込んで訊いたり他所で吹聴してはダメだ」
「それはそうだ。うっかりしないよう気をつけよう。じゃあ行ってくる」
「ちょっと待て。初仕事なんだし途中の村までの依頼を受けてるやつがいるから一緒に行ってくれ。実地で伝令人のノウハウを教えてやってくれと頼んである。そろそろ来ると思うが……ああ、来たな」
扉をノックする音が聞こえたかと思うとすぐにドアが開いた。
「おはようございますー。あ、その人が今日同行してくれる人ですかー?」
入ってきたのは小柄でにこやかな女性だった。
「チャックだ。よろしく頼む。昨日伝令人登録をしたところだが冒険者としては3年ほど経験がある」
「ネイです。内回りを1年やって去年から短距離の外回りやってますー」
「内回りとか外回りって?」
それにはダンが答えた。
「街の中でメッセージを伝える仕事が内回りだ。内回りだと手紙じゃなく口頭で明日までにどこそこに来てくれとかいうメッセージを伝える方が多いな。外回りは街の外に手紙を届けるのが多くなるが、至急の場合は口頭ということもある」
「俺たちも何度か伝言受け取ったことがあるが、あれはギルドの職員じゃなくて伝令人だったのか」
「わたしも内回りでメッセージを運んでないときは事務仕事のバイトとかしてましたから、半分は職員みたいなものですねー」
「内回りにはそれほど高い報酬を出せないから事務仕事もしてもらってる。外回りを任せられるようになったらそれなりに払えるんだが」
「そうですねー。わたしも外回りになってからちょっと余裕ができました」
「俺はいきなり外回りでよかったのか?」
「お前さんはアゴット村あたりから一人で帰ってきただろうが。ソロで遠出できるやつを無駄遣いできるか。そもそもお前の書類を運ぶついでの伝令人仕事だろう」
そうだった。すっかり新人研修を受けている気分になってしまっていた。
「それじゃあそろそろ出発するか。よろしく頼むよ、ネイ先輩」
「まかせてください。しっかり伝令人のやり方を教えてあげますよ-」
「おい、ちょっと待て」
先導しようとするネイをダンが呼び止めた。
「ネイ、今回のお前の荷物はこっちだ。忘れるやつがあるか」
「あーそうでしたー。なんだかすっかり話が終わった気分になっちゃいまして-」
ネイはあわてることもなくそういってニコニコしている。……俺の指導員は本当に大丈夫だろうか。
この世界では羊皮紙や普通の紙は存在するが高級品で特別な書類などにしか使われず、普通の連絡は数ミリ厚の木の板が使われるという設定で。