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26:山小屋泊

 アゴットを出てリセンを経て闘技場(コロシアム)のあるウジョウからアマバ、ウオン、オッタという田園地帯を5日ほどで進み、街道から山道に入る。


「山道に入ると久しぶりに冒険に来たって感じよね」


 マユがそんなことを話しかけてくる。たしかに街道を逸れるのは前のパーティーでの討伐任務以来だいたい三月(みつき)ぶりだ。マユも冒険はしていなかったというから同じようなものだろう。街道なら馬車が余裕ですれ違えるだけの道幅があるが、このあたりだと道からはみ出してなんとかという程度だ。もっと奥になると所々に設けられた幅の広い場所でないとすれ違いができなくなる。


「やっぱり見通しが悪いのは不安だな。気配は探りながら行くが、警戒はしておいてくれよ」


 言うまでもないとは思うがマユに声をかけておく。信頼はしていても気付いたら声に出して確認するのが重要だ。『これぐらい言わなくてわかるだろう』で失敗したという話は冒険者仲間からも何度も聞いている。


「あたしが探知魔法使った方がよくない?」


「この先は村も少ないからな。夜も交替で警戒が必要になるから魔力と体力は温存してもらいたい」


「ん、わかった。じゃあまかせるわね」


◆ーー◆ーー◆


 山道を警戒しながら進んで夕刻になった頃に山小屋が見えてきた。


「あれがオンマの山小屋ね。中になにもいないかしら」


 山小屋にもいろいろあるが、ここの山小屋は一階に入口がなく二階から出入りすることで侵入を難しくする形式のようだ。細い階段が滑車で巻き上げられ、操作する紐は外に垂れている。


「扉も閉まっているし動物はいないようだな。ここまで近づいて反応がないのなら人間もいないだろうが用心はしておこう」


 紐を使って滑車で階段を降ろして昇り、扉を叩いて反応がないのを確認してゆっくり扉を押し開ける。


「なにもいないな。来てもいいぞ」


 下で待機していたマユを呼ぶ。


「いちおうあたしが護衛なんだけどな」


 マユがぼやきながら上がってきた。


「何かいたときはまだ俺の方が対処しやすいだろう。総合的に安全率が高くなるから問題ない」


 言いながら階段を巻き上げておき、小屋の内部を確認する。二階に寝台がいくつかあり、階段を降りて一階にカマドや井戸とテーブルがある。ときどき使われているようでひどく傷んだ感じはない。


「水まであるのはありがたいな。途中で獲ってきたウサギをスープにして晩飯にするか」


「いやー、狩りができる人がいると新鮮なお肉を食べられるのはありがたいわね」


伝令人(メッセンジャー)が狩りをするのは荷物を軽くしたいからというのが大きいんだけどな。たしかに携行保存食が不味いからというのもあるが」


「あたしは伝令人じゃないから美味しけりゃいいのよ。さて、カマドの準備はできたけどそっちはどう?」


「肉は切ったから煮込んでおいてくれ。荷物から調味料と乾燥野菜出してくる」


 夕食をとったあとは早めに寝台を準備して就寝した。


◆ーー◆ーー◆


 夜半、気配を感じて目が覚める。目を開けるとマユがとろんとした目でこちらをのぞき込んでいた。


「そろそろいいかしら?」


 俺はその問いに頷きを返す。


「ああ。当直の交替だな」


 俺が寝台から起き上がるとマユはそのままそこに潜り込んであっという間に寝息を立て始めた。眠気など魔法でなんとでもなるはずだがマユは危険度が低いときは魔法に頼らない。「ギリギリまで我慢して寝るのが一番気持ちいいの」というのは分からなくもないが、毛布ぐらい自分のを使って欲しい。


 なおマユは魔法無しだと寝起きも悪い。起こしてもしばらくはぼうっとしているので当直は一番最初にしてもらうのがいつものことだった。これも魔法でなんとかなるがやはり緊急事態以外では使いたがらない。


 俺の方は寝起きは悪くないので起きたらすぐに行動できるが、今はすることもないので道具の手入れなどしながら周囲を警戒をしておく。この山小屋は侵入されにくい構造だが用心に越したことはない。


 空がうっすら明るくなり始めた頃に朝食の仕込みをはじめた。日が昇ったあたりでマユを起こすが予想通り身体を起こしたままぼうっとしている。マユはそのままにしておいて朝食の準備を始め、自分の分はさっさと食べ始める。マユが起きてきたのは食後のお茶を飲み始めたあたりだった。


「おはよー。朝ご飯なに?」


「昨日のスープの残りに米と麦を入れて粥にした。まだ熱いから気をつけろ」


 そう言って粥を木の椀に盛ってテーブルに出してやる。マユはそれを匙ですくって口に入れ


「熱ッ!」


「目が覚めたか。水飲むか?」


 マユに水のカップを差し出すと奪うように取って一気に飲み干した。


「あー熱かった。注意してくれてもいいじゃない」


「渡すときに注意しただろ?」


 そう言うとマユは視線を宙にさまよわせはじめた。どうやら記憶を辿っているようだ。


「あー、たしかに言ってたわね。ごめん」


「構わないさ。マユはゆっくり食っててくれ。食い終わったら小屋の片付けして出発するぞ」


ペースが遅いので描写を省略した街道途中の街や村の設定メモ(話の都合で変更されたり盛られたりする可能性があります)。

リセン、ウジョウは闘技場の街。闘技場で負傷したものが治療と再訓練にあたるのがリセン。

アマバ、ウオン、オッタは普通に農村。隠居した商人や貴族の居住地としても人気。


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