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23:学園都市

2025/05/05 表記調整

 出発予定日の朝、早めにギルドに行くとボブと今回の依頼人のフォージが既に話をしていた。


「よう、頼まれていたナイフはできているぞ。注文通り防御を重視で護拳を大きめにして切れ味より耐久性重視の仕上げだ。柄に俺の刻印も入れてあるから師匠に見せれば俺の作品とわかるはずだ。多少気難しいが俺が認めた相手なら多少は歓迎してくれるだろう」


 ナイフと今回もっていく注文書を受け取り背嚢(バックパック)に詰めているとマユもやってきた。


「おはよー。あたしが最後だった?」


「ああ。持っていくものは受け取ったからいつでも出発できるぞ」


「チャックも朝ご飯は済ませてきたのよね。じゃあもう出発しましょうか」


◆ーー◆ーー◆


「こっちに来るのも久しぶりね。だいたい三月(みつき)ほどかしら」


 オトヤを出て南周り街道の最初の街、ヤダイに到着したのはその日の夕方だった。


「前のパーティーで最後になった魔物討伐か。あの時にマユの師匠のところに寄ったんだったな」


 ここヤダイの街は国の魔術学校がある学園都市である。王都からかなり離れた場所にあるのは土地の魔力の流れがよくて研究しやすいのと大規模魔術の実験がやりやすいからだという。


「あの魔物素材の伸びる紐を提出に行ったときね。師匠は面白がってたけど、アレ何か使えるようになった?」


「ああ。狩猟用に小石を飛ばす道具を作った。攻撃力は半端だが鳥ぐらいなら狩れるから食料の現地調達にはいいぞ。道中のどこかで使ってみようか」


「何か面白そうなものができたわね。じゃあ明日は報告に寄っていかない? 何かに使えるとなったら研究費も出やすいのよ」


「特急の仕事じゃないしちょっとの寄り道ならいいだろう。だがまずは今日の晩飯と宿だな。ここで学んでたんならいい店も知ってるだろう?」


「お金があれば研究に使っちゃうような学生が多いから安くて大盛りで味はそこそこのお店が多いけど、それでいい?」


「騒がしくなくてそれなりにうまい店がいいんだがな」


「それだとカップルがよくつかうお店になるわね。鶏がおいしいお店があるのよ」


 連れて行かれた店は確かに男女二人が多く、鶏の煮込みはうまかった。


◆ーー◆ーー◆


「やあ、久しぶり。マユ君と、同じパーティーの盗賊君だったかな。二人で来たってことはあの触手の件かい。あれはなかなか面白いよ」


 翌朝、魔術学校内にあるマユの師匠の研究室を訪ねるとあちらも俺のことも覚えてはいたようだ。まあ報告のときにさんざん状況を聞かれたのでこちらも忘れがたいが。


「お久しぶりですアシュリー先生。それを使って何か面白いもの作ったというので近くを通った機会にご報告に。小型の投石機だそうです」


「投石機というか、投石紐だな。携帯投石紐(スリングショット)と呼んでいる」


 そういいながら腰の小袋(ポーチ)を探り携帯投石紐を取り出して机に置く。


「ほう、構造は単純だな。なるほどこういう使い方があったか。で、威力の方は?」


「鳥を狩るのに使える程度だ。大物や戦闘用には心許ないな」


「ふむ、実際に見てみたいな。演習場に来てもらってもいいかな」


 アシュリーに促されて校内の演習場に移動する。


「じゃあこの板を撃ってもらえるかな。ギリギリ当たると思えるぐらいの距離でお願いするよ」


 標的として示されたのは台上に立てられた普通の書類用ぐらいの木の薄板だった。というか、書類を書き損じて削って修正を重ねて薄くなりすぎたものを再利用しているようだ。そこから30歩ほど離れ、小石を弾にして引き絞る。放たれた弾は標的を見事に粉砕した。


「おみごと。私も撃たせてもらっていいかな」


 アシュリーに請われて小石をいくつかと携帯投石紐を渡す。俺と同じ位置から撃った一発目は的に届かず。半分ほどの距離まで近づいて撃った弾は的を外れ、そこから10発目ほどでようやく的に当たった。


「やあ、なかなか難しいね。ありがとう。あとちょっと試してみたい事があるんだけど、これに書き込みしていいかな」


 俺が許可を出すとアシュリーは携帯投石紐の弾受け部分に何やら描き込み、描き終わると何やら魔法をかけている。


「よし、ではこれで今度はこいつを撃ってもらえるか」


 アシュリーがそういって短く呪文を唱えると先ほど的のあった位置に炎の球が出現した。返された携帯投石紐を見ると弾受けに魔法陣が描かれている。それに小石を挟み、炎の球に向かって引き絞り、撃つ。


バシュン!


 弾が当たったと思ったら軽い音を立てて炎の球が霧散した。


「先生、今の魔法、撃ち出してないけど爆裂火球ですよね。何かに触れたら爆発するはずじゃ?」


 マユがアシュリーに質問する。


「いい質問だね。実はアレは別の魔法や魔法の武器なら迎撃できるんだ」


「じゃあこいつは魔法の武器になったっていうのか?」


 携帯投石紐を見ながら俺が訊く。


「そんなたいしたもんじゃないよ。さっき描き込んだ魔法陣は、近くにいるものの魔力を魔法陣に触れている物にほんの数秒だけまとわせるだけなんだ。魔法しか効かない相手にも当たるようになるけど攻撃力は元のままだからね」


「でもこんなに簡単にできるんだったら弓矢で同じことやったら凄い武器になるんじゃないか?」


「今使った小石に比べると矢はかなり大きいからね。全体に魔力まとわせてたらあっという間に使用者の魔力が尽きてしまうよ」


「なるほど、そんなにうまくはいかないものだな」


「何に役に立つかわからないものでもそのうち誰かが使い道を思いつくかもしれない。それが研究ってものさ。その魔法陣には保護魔法もかけておいたから消える心配もないと思うよ。多少は使いやすくなるだろう」


 アシュリー的には満足のいく面会になったようだ。俺とマユはアシュリーに礼を言って魔術学校をあとにした。


「この植物系魔物の触手は外皮が網目状になっていてその目を広げたり狭くしたりで伸び縮みする。それは数本束ねられていてそれぞれをコントロールすることで自在に動くというわけだ。通常は切り離すと制御を失い伸びたままになるのだが別の魔物の体液の作用で網目が縮んだ状態になっており、更に別の魔法により柔軟性を保っているようなんだ。今は体液の何が作用しどの魔法が影響したかを検証中だが目処は立っている。量産できるようになるのはもう少し先かな」


「うわぁ、すごい早口」


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