22:増員決定
「ドワーフの里への同行者、依頼を受けたやつがでたぞ」
打ち合わせから7日ほど経った日に冒険者ギルドの伝令人控室へ顔を出すと伝令人代表のダンが声をかけてきた。
「少人数で伝令人の護衛ってのは難しいかと思ってたが、まだパーティーを組んでいない新人か?」
俺が疑問を口にする。やはり冒険者志望というのはパーティー組んで魔物討伐やら迷宮探索やらを好む連中が圧倒的に多い。俺自身も元は冒険者だ。
「いや、冒険者経験は4年ほどの魔法使いだそうだ。最近パーティーを解散していずれは新しいパーティーでということだが、とりあえず収入がほしいから一人でも可能な依頼を探してらしい。新人なら二人ほど欲しかったが経験者なら一人でもまあ大丈夫だろう」
「なるほど、索敵魔法が使えるんなら一人でも十分だな。こっちは逃げてもいいんだし」
「そういうことだ。まあ一人ぐらい前衛が欲しいから一応期限まで募集は続けるが、なければ二人で行ってもらいたい。それでいいか?」
「問題ないだろう。そいつとは出発前に会わせてもらえるのか?」
「明日の午前に顔合わせということになっている。チャックの方も問題ないか?」
「ああ。待機中でたまに狩りに行ってるだけだからな。問題ない」
「じゃあ明日の午前にもう一度来てくれ。打ち合わせはそのときにしよう」
◆ーー◆ーー◆
「おはようございます。チャックさん。皆さんもうおそろいですよ」
翌日ギルドのドアをくぐるといつもより笑顔が割増な受付嬢が声をかけてきた。手で示されたロビーには見知った顔がある。
「よう、来たか。それじゃあ顔合わせと行こうか。一応な」
ダンが促して同席していた女性が挨拶をしてくる。
「どうもー。ソロ活動中の魔法使いのマユでーす」
以前のパーティーで一緒だった魔法使いがそこにいた。
「同行者がお前だとは聞いてないぞ」
「うん、あたしもさっき聞いた。そもそもチャックが伝令人やってるなんて知らなかったわよ。イッシの北のダンジョンが拡張されたっていうからそっちでお宝探してるもんだと思ってたわ。盗賊技能あるんならダンジョン探索の求人には困らないでしょ」
「伝令人仕事が意外に楽しくてな。単独で長距離が可能だと結構報酬もいいんだ。マユこそなんで一人なんだ? みんなはどうした」
俺とマユが互いに疑問をぶつけていたのはボブに止められた。
「はいはい、いろいろと積もる話もあるだろうがまずは今回の仕事の話をしようじゃないか。フォージも待ってるから控え室に行くぞ」
◆ーー◆ーー◆
伝令人控え室で受付嬢が運んできたお茶を飲みつつマユに依頼の詳細を説明する。
「簡単に言うとドワーフの里まで行って鍛冶職人数人を連れてくるってことね。ドワーフの里はどこにあるのかしら」
「南周りの街道でオッタを過ぎたあたりで南に分岐して山道を四日ほど行ったところのドウチという村だ。特注の物を作りたいというやつがときどき来るが、普段は年に数回だけ村で作ったものを売りに行き、外の物を仕入れて帰るだけだな。道の途中に山小屋程度の設備はあるが村も少ない。食料は準備していけよ」
「わかったわ。ありがとう」
依頼についての話は終わったようだ。俺は気になっていたことをもう一度尋ねる。
「さて、マユ。そろそろ教えてくれるかな。なんで一人でここにいる? あいつらはどうした?」
「まあ落ち着いて。順番に話すわね。前に会ったあと、領主さまへの紹介は無事にしてもらえたわ。すぐに採用というわけじゃなくて仮採用で20日ほど様子を見てってことになったんだけど」
「それはまあ仕方ないだろうな。それでエース達は?」
「エースとボブは騎士見習いの仮採用で騎士団の下働きからはじめたわ。仮採用期間も真面目にやってたし剣術の自主練とかやってたのが先輩達に気に入られてたみたいで本採用が決まったわ。数年修行したら騎士になれるんじゃないかって」
「そいつはよかったな。リリはどうしてる?」
「リリの方はいきなり本採用よ。普段は治療院で当番こなしつつときどき騎士団の出動にも同行してたわ。ただでさえ人手不足な回復職なのに自衛もできるってのはすごい歓迎されてたわ」
「なるほど。で、マユは不採用だったのか?」
「そうじゃないわよ。だけど採用するなら魔法師団だってことだったのよね」
「魔法師団ってのはなんなんだ」
「攻撃魔法を使って騎士団を援護する部隊ね。その火力としてということなんだけど、あたしはもっと魔法の研究したかったし。だから本採用は辞退したの」
「そういえばたしかに自分で攻撃魔法を飛ばすよりもエースやボブに強化魔法かけてる方が多かったな」
「そうなのよ。でも仮採用期間って寝床と食事は保証されてたけど報酬がなくってね。こっちに来るときは隊商の護衛に混ぜてもらったんだけど無理言ったから報酬も少なくて。次のパーティーみつけるまできついかなと思ってたら一人からでもOKなこの依頼をみつけたってわけ。よろしく頼むわね」
「私はもちろんマユさんが依頼を受けたときから気付いてましたよ」
「言ってくれればよかったのに、ゼナって意外に人をからかうの好きよね」
「それは心外ですね。依頼人の素性を顔合わせまで明かさないのは規定通りですから」
「あたしとは友達でしょ。昨日も一緒に晩ご飯食べたじゃない」
「そこはそれ、その方が面白そうだったし」
文字数も多くなったのでカットしたところから一部。せっかく受付嬢さんの名前も設定したし。




