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20:拠点帰還

 ちょっと長いだけのお使いのつもりだったヤコウ行きの仕事だったがいろいろあった。


 いや、トラブルとしては狼の襲撃や野犬との遭遇といった程度であったがなんだか妙に疲れることに関係してしまった。だがそれもとりあえず区切りはつけた。あとは王都のギルドに預けた夜営用の荷物を引き取ってからオトヤに注文書控えを持ち帰れば任務終了だ。


 出発前にヤコウのギルドに顔を出し伝令人(メッセンジャー)代表のジーナについでの仕事がないか訊いてみたが、すぐに臨時便を出すような依頼はないというのでそのまま出発することにした。ついでにウーラについてじっくり育ててくれないかと頼んでおく。できれば時間を稼ぎたい。


 帰り道では気になっていたことを一つ解消したかった。海鳥の味である。こちらの方では仕事として狩人やるぐらいなら漁師になるということで家畜化されていない鳥はほとんど出てこない。


 こちらの街道沿いに整備された広場にも伝令人にだけ教えられる食料調達の目印はある。それに従って狩り場がありそうな方角に向かってみたが、想定した距離で現れたのは海岸だった。ちょっと離れた位置に伝令人の目印のバンダナをつけた男が釣りをしていたので声をかけてみる。


「やあ、このへんの伝令人(メッセンジャー)かい?」


「ああ。ヤコウを拠点に臨時便をメインでやってる。君も食料調達に?」


「俺も臨時便でヤコウからの帰りだ。鳥でも狩ろうかと思ったんだが、狩り場はこのへんじゃないのか?」


「君はこのへんははじめてか。このあたりだと動物の狩り場だけじゃなくて魚を釣れる場所も石三つの目印になってるんだ。釣り竿とか持ってないよな」


「残念ながら。海鳥がどんな味だか試してみたかったんだが」


「ふむ、たしかに自分も海鳥は食ったことがないな。この上にもたくさん飛んでるが狩るやつなんていないしな。そうだな、ちょっと試してみるか」


 男はそう言うと釣った獲物から小魚を一匹取り出す。


「こいつを投げ上げたらそれを狙って寄ってくるかもしれん。海に落ちない位置で落とせるか?」


「やってみよう」


 短弓に矢をつがえて構えて合図を出すと男が小魚を投げ上げた。飛んでいた海鳥の一匹がそれに気付いて降下してくる。俺が放った矢は幸運にも一発で命中し海岸に落ちた。


「やるじゃないか。俺はもう少し釣ってるからその間に解体とかも頼めるかい。一緒に食べてみよう」


 男は釣りを再開し、俺は海鳥を解体する。途中、男に言われて抜いた内臓を海に撒いてみたら魚が寄ってきてよく釣れたそうだ。解体の終わった海鳥と男の釣った魚を手に広場まで戻り、調理して食べてみる。


「うむ、こいつは」


 海鳥の肉を一口食べた男がうなる。


「なるほど、こいつは」


 俺もうなる。


「パサパサしててほとんどうまみがないな」


「ああ。それになんだか臭みも強い」


「「はっきり言って、不味い」」


 男と俺の意見は完全一致だった。うまい魚を分けてもらっただけでは申し訳ないので別れ際にウーラの店で買っていた干物をちょっと提供した。


◆ーー◆ーー◆


 ナヤマ経由で王都のギルドに寄って荷物を引き取り、オトヤへの帰路は順調だった。途中で何回か狩りもしたが、それで気付いたこともある。野生動物のかなりは『気配探知』で俺の飛ばした魔力に気付き、逃げてしまうのだ。冒険者としての探索途中なら弱い相手が逃げていくのはむしろ歓迎なのだが、狩りをするには問題になる。中には魔力に鈍い動物もいるのでなんとか獲物をとることはできているが効率は悪そうだ。このへんは何か対策が必要かもしれない。


 オトヤに到着し、まずは酒場へ向かう。もちろん飲むのが目的ではなく依頼完了の報告だ。まだ夕刻にも早くさほど混んでいない店内に入ると店主のグーンから声をかけてきた。


「よう、お前さんか。王都からの定期便には間に合わなかったそうだが、注文は大丈夫だったか?」


「追加注文もしっかりやってきたさ。こっちが注文控えで、こいつは見本にもらった追加分の燻製だ。蒸留酒(スピリッツ)に合うやつというので選んでもらった。あとこっちは個人的に買ってきた土産の干物だ。よかったら使ってくれ」


「おう、そいつは助かるな。で、今飲んでいくかい?」


「まだギルドへの報告があるからな。食事と、酒は一杯だけ。弱めのやつを頼む」


「メニューは今日のおすすめでいいな。あと依頼書も出しといてくれ。食ってる間に確認のサインしとくよ」

 

◆ーー◆ーー◆


「依頼の終了を確認、っと遠いところご苦労だったな。なにか面白いことはあったか」


「グーンの店に追加注文の見本と土産の干物を置いてきたから注文すれば出してくれると思うぞ。あっちの酒に詳しい店員のお勧めの品だ」


「そいつは楽しみだな。仕事が終わったら行ってみるよ」


「あと一つ。こいつは確定じゃないんだがこっちで伝令人(メッセンジャー)をやりたいっていう女が一人来るかもしれない」


「なんだそりゃ。お前が引っかけたのか?」


「そういうんじゃないが、実家に居づらく独立して地元を離れたいっていうんであっちのギルドに紹介しといた。今頃は新人研修してもらってると思うが知り合いがいたら安心だからこちらに来たいと言ってた」


「なるほどね。研修済みなら歓迎だ。気に留めておこう」


「それでだな、俺を頼ってくるんなら一応考えとかなきゃいかんと思ってな。女一人で安心して拠点にできる物件とかあるかな」


「そうだな。安価な宿を長期間借りるか家を借りるか。どこかに下宿するという手もあるな。まあそれも本人の希望もあるだろう。候補はいくつか考えておくよ」

ヤコウへのお使い編ひとまず終了。口調で区別しやすいからと同行人を女性に設定したら思わぬ方向に回ってしまった。そのうち再登場させるつもりはある。

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