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15:海浜街道

2025/04/13 表記微調整

 ナヤマの街を出て次のビンノまでもう少しというあたり、気配感知でなにかを感じたかと思ったら前から女が全力で走ってきた。


「お願い、助けてっ」


 俺を見つけるなりそう叫んだ女はそのまま俺の後ろに隠れるように止まる。前を見ると野犬が二匹姿を現した。野犬たちはこちらが二人になったのを警戒してか少し距離を置いて様子をうかがっている。まあ野犬の二匹程度は俺一人でもあしらえるだろう、と短剣を抜きかけてふと思う。


(せっかくサビ止めに油塗ったのに野犬程度に使って汚したくないな)


 短剣を戻し、代わりに携帯投石紐(スリングショット)を取り出す。手頃な大きさの木の実を加工したものを弾にして、引き絞って野犬に向かって放つ。


『ピィィィーッ』


 それは甲高い音を発しながら野犬の間を抜けていき、おそらく初めて聞いただろう音を耳にした野犬たちは一目散に逃げていった。そして初めて聞いた音に固まっている人物が一人。


「野犬は逃げていったみたいだが?」


 俺が声をかけると女は我に返って礼を言い始めた。


「あ、ありがとう。あたしはヤコウの魚屋の娘でウーラ。ナヤマまでお使いに行って帰る途中に犬に追いかけられて困ってたの。助かったわ」


「俺はチャック。ヤコウまで仕事で行く伝令人(メッセンジャー)だ。しかし街道とはいえ女一人ってのは不用心じゃないか。見たところ野犬の相手もできないようだし」


「いやー、それがね。同じ日程だって聞いてた商隊に勝手についてくつもりだったんだけど飲み過ぎて寝坊して置いてかれちゃって。もう持ち合わせがギリギリで余分な宿代もないから帰るしかないなーって。お兄さん、ヤコウまで行くんなら一緒に行ってくれない?」


「目的地が同じなら構わんが、護衛の依頼じゃないんなら寝坊したら俺も置いてくぞ」


「あー、うん。なんとかする。大丈夫、たぶん」


 なんとも頼りない返事だったがともかくこうして同行人ができてしまった。


「ところで、さっきの『ピーッ』ってやつ、どんな魔法なの?」


「あれは木の実に穴をあけて中身をほじりだし中空にしたものだ。高速で飛ばすと風を受けて笛のように鳴る。野犬も驚いて逃げただけで別に魔法じゃないぞ」


 ちなみに弾用の木の実を拾いながら虫食いのヤツをなんとなく携帯投石紐(スリングショット)で飛ばしたら妙な音を出したのをヒントに作ってみたらうまくいったものだ。


「じゃあそれを飛ばした道具は? やっぱりダンジョンで手に入れたの?」


「まあそんなようなものだ。魔術師ギルドで解析してるはずだからそのうち量産品が出回るかもな」


 嘘は言っていない。肝心の伸びる紐を手に入れたのは確かにダンジョン探索中だし、変わった素材だからとそのときパーティー組んでた魔法使いのマユがサンプルとして半分ぐらい持っていったから解析もしてるはずだ。もっともあのときは散々な目にあったから素材になにが作用したらこうなったんだかよくわからない。覚えてる限りは何をくらったか証言してレポートに協力はしたが。


「隠すつもりもないが言いふらしたりはしないでくれよ。強力なものじゃないが珍しいものには違いないしな」


「それは大丈夫よ。お客さんの秘密を守るのは商売人の基本だから」


「よろしく頼む。さて、そろそろビンノの村が見えてきたが、うまい食事を出す店とか知ってるか?」


「ビンノの食堂は宿と一緒の一つしかないけど、名物は干物をつかったスープね。食べていくなら助けてもらったお礼におごるわよ」


「じゃあお言葉に甘えさせてもらおう。食事も楽しみだな」


 ビンノも海産物輸送の中継点として整備された村で、食堂では昼でも輸送隊らしきそれなりの人数が食事をしていた。ウーラおすすめの焼いた干物をほぐして冷製のスープに入れたものは疲れていても食べやすくライスによく合って絶品だった。


 腹も満ちたところで先へ進む。ウーラは商売人の娘だということもあってか話し好きで道中に退屈することはなかった。あんまり踏み込んだことを聞いてこないのも客相手に鍛えた話術なのか。返す言葉に困らない程度の無難な話題でつないでいくのでリラックスして話ができた。


 クバンに到着すると、まず宿を確保するべきだとウーラが主張した。安くていい宿があるのだが人気があるので部屋が埋まるのも早いのだという。


「泊まりが二人だね。二人部屋でいいかい?」


「あ、それでお願いしまーす」


 宿の女将にウーラが答える。


「ちょっと待て。一緒でいいのか?」


「ここの主人はお酒にこだわってていい銘柄が置いてあるの」


「? それが二人部屋とどう関係するんだ」


「別々に部屋を取るより安いから、お酒が余分に飲める!」


 色気のある話では全然なかった。


◆ーー◆ーー◆


 その日の夕食は酒に合う料理が中心となった。酒好きがいうだけあってうまい酒があったし、海産物中心の料理もうまかった。ウーラは酒好きではあるが格段強いわけではないようで、早々に酔い潰れてカップを持って座ったまま寝ていた。


 二人部屋だというので今晩は休めるだろうかと心配していたが、ウーラを部屋に運んだあとは一人でゆっくりと過ごせたし、夜はしっかりと熟睡できた。

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