14:王都滞在
2025/03/31 位置関係の誤記載があったのを修正
王都アカエ地区の冒険者ギルド、伝令人カウンターで告げられたヤコウ行き定期便の日程は依頼にあった日付を超えるものだった。これにて俺に対する条件付き依頼であるヤコウ行き臨時便が有効となる。
ここから折り返してオトヤへの定期便となるジョウとレーナにその依頼書を確認してもらい、控えを持ち帰ってもらうよう託す。ここまで同行してきた行商人達と護衛の冒険者パーティーであるサラの一団とも別れ、単独でヤコウへ向かう準備をする。
王都は6つの地区に別れているが、大きくは2地区がセットで3つに区分できる。今いるアカエ地区は北のセイアとともに商業地区で規模こそ大きいが一般的な街という雰囲気だ。ここから西のフーシとその北アルノは役人達が主に住む地域になる。さらに西のアゴイとその北アイセンが王族と貴族達がいる政治の中心だ。役人も王族貴族も生活はあるから店が皆無というわけではないが、あのあたりでは御用聞きが屋敷を回って注文をとるのが一般的で店頭に品を並べて客を呼ぶ形は少ないという。
そんなわけでここからヤコウへ向かう準備をするのなら他の地区まで行く必要はない。だいたいここだけでも大抵の街よりは大きいのだ。まずはギルドから紹介してもらった武器屋に行き、ナイフを物色する。先日の狼たちの襲撃ではとっさに手持ちのナイフを左手の防御に使ったが、そういう用途に有効そうなものが欲しくなったのだ。小型の盾も考えたが重量が気になるので候補からは外れた。武器屋店頭のものをいろいろ試して店員とも相談し、最終的に簡易だが護拳付きの大型ナイフを選択した。
ヤコウに向かうにあたってその他になにかそろえた方がいいものはないかとギルドで相談すると、海風対策を勧められた。風に塩気が混じって金属製のものは錆びやすくなるので、油を塗っておくなどの手入れが重要になるという。また、井戸を掘っても塩気が混じるので飲み水が入手しにくくなるから水袋複数に弱い酒を入れておくというのも推奨された。アドバイスに従って道具屋で諸々を入手する。
また、この先ヤコウまでは次の村や町までの間隔が普通の半分ほどになっているという。普通は『日が出ている間に行って帰ってこられる範囲』が村や町の勢力範囲ということになっていて必然的に間隔がおよそ徒歩一日になるのだが、海産物をできるだけ新鮮なまま入手したい王侯貴族がリレー式で輸送するために拠点を増やしたのだそうだ。本気で保存したいのならば氷魔法も使うが王侯貴族でもさすがに普段使うのは贅沢すぎるのだろう。
ともかくそのためにヤコウへ向かう街道では途中で夜営をすることはほぼ考慮しなくてもよくなっているらしい。それならばと夜営用の荷物を伝令人特典の荷物預かり優遇を使って預けて身軽になっておく。帰りに別ルートを通らずこのギルドに寄らないといけなくなるが。
王都ともなると宿も安宿から高級店までさまざまである。これもギルドから紹介してもらい、武器や防具の手入れができる程度に広い部屋が確保できる宿を取った。まだ明るい時間から部屋に入り、海風対策に金属部分に油を塗っていく。これが結構面倒な作業で一通り塗り終えた頃には日暮れ時だった。
晩飯を食べに外に出たが、もちろん食べ物を出す店も屋台から高級レストランまでさまざまだ。今日は外に席を用意している程度の屋台にする。鳥肉に強めにスパイスを効かせて揚げたものとエールの組合せが名物のようだ。辛めのスープに浸かった麺料理もいける。じっくり呑みたいところではあるが出発を控えているのでほどほどで切り上げる。ちょっと奥まで行けば遊べるお店もあるが今晩はパスだ。
翌朝は早めに起きて出発の準備を整え宿を引き払う。まだ早い時間帯であるが夜勤明けや早朝から働く人間を相手にする店もあるのは国境の街ジガオと同様だ。軽食を出す店で焼いたパンと卵料理に飲み物のセットで朝食をとる。
守衛に挨拶してアカエ地区の門を出てもまだ人が住む地域だ。街道から少し外れて畑が広がっていて、その世話をする人々の住居がポツポツと見られる。街道の横すぐから畑にしていないのは治安上の問題だということで、見通せる程度の草木しか生えていない。
昼前ぐらいにはもう次のバチョウの村が見えてきた。海産物の中継拠点として整備されたというだけあって普通の農業中心の村とは雰囲気も違っている。住むだけの家というのがほとんど無くほとんどがそこで働く者が寝泊まりもできるという作りになっている。また馬小屋も立派なものが建っていて共同で使われているようだ。ここでも軽く食事をして先へ進む。
次のイマエは有名な寺院がある門前町だ。ここで一泊して翌日通過したアシベ村までは大小の宗教施設が点在する地域になっている。そして次のナヤマの街は交通の要所であり、王国の南側を廻る街道と港町ヤコウへと向かう街道への分岐点だ。分かれ道を右に進路をとってヤコウ方面へと足を進める。
お気づきの方もおられるでしょうが地名と位置関係は名古屋市営地下鉄の路線図が元ネタになっています。一駅分がだいたい一日の距離と設定してやってきたけど今回ちょっと早めに展開したかったので理屈つけて半分に。