アンモknight
「キャラクター設定」
加瀬木優也
→小学5年生で主人公。
行方不明になった父親を探している。古生物オタクで、大体のものはひと目見たら分かるほど。
加瀬木大介
→優也の祖父にして、アンモknightの開発者。古生物の研究が本業だが、趣味で開発していたアンモknightが世間で評価されたため、そちらの開発にも力を入れることにした。
いわゆる天才で、周囲の人間からは『センセイ』と呼ばれている。
加瀬木浩也
→優也の父親。アンモknightの初期からのパイロットで、とある任務で通信が途絶え行方不明になった。
浅田恵美
→研究所で働く女性研究員で、大介の助手。
「ロボット設定」
アンモknight
→加瀬木大介が作り出したロボット。アンモナイトを模した造形で、触手がパイロットの腕と連動するようになっている。リミッターを解除する仕組みがあり、解除すると人型ロボット【アモンknight】になれる。機動力が高くなるが、その分パイロットへのダメージが高くなる諸刃の剣。
ミステリーボックス
→恐竜達を操る謎の機械。任務の目的は基本的にこれを破壊すること。
カセット
→アンモknightの出力を上げるために開発されたもの。恐竜達の模様が描かれている。
「駄目なものは駄目じゃ!!」
ガラス張りの研究所。
偉大な天才学者──加瀬木大介の声が響いた。
「じいちゃん!! 僕は恐竜達の時代にどうしても行きたいんだ!!」
今度は少年の声が響いた。
彼の名は加瀬木優也。
古生物を愛する小学生である。
じいちゃんと呼ばれた天才学者は、ため息をついた。
そして、少年を諭そうとする。
「あのな優也。これは遊びじゃないんじゃ。お前はまだ子供なんじゃから……」
「でも僕、『アンモknight』の試験で合格したよ! 行けるよっ!」
「そういう問題じゃない!!」
アンモknightの試験。
それは過去の世界に行くために作られたロボットである。
名前の通り、モデルはアンモナイトからきている。
それに乗る条件は、筆記試験と実技試験で一定の点数をとり、資格をとらなくてはいけない。
その試験を優也は受けた。
何とそれを最年少で合格した。
資格自体は付与されたが、それでもまだまだ可能性のある小学生なのだ。
最悪、危険な目にあう恐竜達の時代に向かわせるわけにはいかない。
大介は優也を説得しようとするが、優也は中々どうして引き下がらないのだ。
「ぼ、僕は本気で助けたいんだ!! 恐竜達を……!」
「……気持ちだけなら誰でも持てる。仕事なんじゃこれは。お前の場合、ただ恐竜達を見たいだけじゃろ?」
「そ、それもそうだけど……」
「それしかないじゃろ。ほら、家に帰れ。ワシは忙しい──」
「僕は恐竜達を助けるだけじゃなくて、父さんも探したい……」
「……」
優也の父親──加瀬木浩也はアンモknightのパイロットだった。
恐竜達の時代へ最初に向かったパイロットだったが、とある任務で突如通信が途絶え、行方不明になった。
彼もまた、優也に劣らず古生物が好きな男だった。
そして彼の父である加瀬木大介も。
ふと、目の前の優也が浩也の姿に、加瀬木大介に映った。
そして、困ったような哀しそうな表情を大介は浮かべながら呟く。
「……ガキじゃのう……」
「……」
「……」
大介が何か言おうとする前に、警報音がいきなり鳴り出した。
突然の出来事に、周囲にいた人間は慌てた。
オペレーターが大介に報告する。
「センセイ! 白亜紀にミステリーボックスを確認しました!」
ミステリーボックス。
それは、恐竜達に括り付けられた謎の機械である。
もちろん、白亜紀の時代に人間は存在しない。
故にミステリーボックスという名前が付けられている。
「急いでアンモknightを準備せよ!」
「そ、それが出撃できるパイロットが……」
「……いないと言うのか!?」
「お、恐れながら……」
唖然、とした表情を加瀬木は作った。
それにつられて周囲の研究員も慌てた。
その瞬間、優也は口を開いた。
「ぼ、僕が出ます」
優也は静かに、しかしはっきりと言った。
オペレーターは当然驚いた表情だった。
「な、何を言ってるの!? あなたはまだ子供でしょう!?」
オペレーターが叫ぶ。
そして、続けて大声で言った。
「あなたが資格を持っているのは知ってます! でも、危険よ! これは遊びじゃないってセンセイも言ってたでしょう!?」
「だ、だけど。資格を持っているのは僕だけで、パイロットがいないんじゃ……」
「それは……」
けたたましい警告音は続く。
気まずい一つの間があった。
それを最初に打破したのは、
「……いけるのか。優也?」
大介だった。
「セ、センセイ! 本気なんですか!?」
「本気じゃ。優也も本気なんじゃろう?」
オペレーターと大介の視線が一斉に、優也に向けられた。
思わず優也は唾を飲み込む。
そしてできるだけ、優也は皆に聞こえるように言った。
「本気です!!」
シン、と気まずい雰囲気を作った。
だがそれは一瞬で、それは大介が切り出した。
「分かった。付いて来い」
大介のその一言で、またオペレーター達は騒ぎだしたが大介は無視した。
優也は黙って大介に付いて行った。
足早に歩き、着いた先はアンモknightの倉庫だ。
色とりどりなアンモknightが、間隔を開けて居座っている。
アンモknightの大きさは2メートルぐらいだろうか。
大介はどうやらパソコンを使って、オペレーター室と連絡をとっていた。
優也は、アンモknightに乗って準備をしていた。
右手側に四角い窪みがあり、そこにスマートフォンを設置した。
オペレーターと連絡がとりあえるアプリが使用できるためだ。
真ん中には小さな四角い窪みがあった。
左手側には、緊急用のボタンが設置されている。
そして、レバーやらモニターが手元に設置されていた。
優也がコックピット内をチェックしていた時、大介が優也の方へと駆けつけた。
「準備はできたか? 優也」
大介の確認に、優也は素直に頷いた。
「よし。後はこれを渡そう」
大介がそう言って渡してきたのは、さっきの窪みに入りそうなカセットだった。
そこには、ティラノサウルスのような模様が描かれていた。
「これは?」
「それをその窪みに入れれば、アンモknightが起動する。操作についてはオペレーター室からサポートする」
一気に説明した大介は、その場を後にした。
優也は早速、カセットを窪みに入れようとした。
するとコックピット内の真ん中の窪みが、それに反応して、同じように光りだした。
「……」
優也は、軽く呼吸を整えた。
そして──。
「……えい!」
思い切りセットした。
すると、コックピット内で地震に似た振動が起きた。
「動いたな? 優也」
右手側に置いておいたスマホの画面に、オペレーター室にいた大介の顔が映し出された。
「うん! 動いた!」
「よし。レバーを倒せ!」
言われたとおりに、優也は両手でレバーを押し倒した。
『アンモknight、作動』
機械音声が流れた。
コックピット内のモニターも作動した。
「そのままレバーを離すんじゃないぞ!」
「う、うん!」
オペレーター室ではどうやら、アンモknightの出力確認をしていたらしい。
「よし! 優也、いいぞ!」
「了、解!」
優也はレバーを強く押し倒した。
「優也! さっきも言ったが、これは遊びではない! れっきとした重大な仕事だ! サポートは出来る限りするが、大丈夫か?」
「うん! 行ける!」
「よし! 任せたぞ!」
いざ、恐竜達の世界へ。
胸中に、優也は意気込むように呟いた。
アンモknightの速度が上昇しだした。
優也は反動を受けながらも、レバーを離さなかった。
目を瞑って、意識を集中させた。
数秒の時間、違和感があった。
感覚的に、浮いている気がした。
その違和感を確かめるために、優也は目を細めながらモニターを見た。そしてすぐに目を見開いた。
晴天の空に飛んでいたとある生物で、確信を得た。
そこに映っていた生物は紛れもなく、プテラノドンだった。
「白亜紀だぁぁああ!!」
ついに優也は、白亜紀にやってきたのだ。
都会では味わえない大自然の空は、気持ちいいほど広がっていた。
その空を元気良く羽ばたいているのが、翼竜の代名詞、プテラノドンだ。
優也も、アンモknightでプテラノドンと共に空を飛んでいた。
コックピット内にいるので当然、風を感じる事は出来ない。
優也は興奮と好奇心で、天井にある扉を開いて、風を感じる事にした。
当たり前だが、大介が注意した。
暖かい風が優也を包み込む。
数秒、優也は大空の空気を吸い込んだ。
一通り満足した優也は天井を閉め、運転を続けた。
大介は「やれやれ」と言ってから、また注意した。
しばらく、優也は大介とコミュニケーションをとり続けた。
そしてついに、
「優也! オペレーターから連絡がはいった! 真下に反応がある!」
「うん! 分かった!」
大介の話を聞いた優也は、レバーを後ろへ押し倒した。
「あ! 馬鹿!」
「え? ……うわ!?」
しかし強く押し倒しすぎた。
急速にアンモknightと共に、優也は落下していった。
「うわぁぁぁぁあ!?」
真下へ不時着。
優也は悪運は強いようで、命に別状はなかった。
「馬鹿か! ゆっくりやれ! ゆっくり!」
「ご、ごめんなさい……」
優也はそれからモニターを見て、周りを確認する。
そこらに映っていたのは、針葉樹やイチョウが生い茂る森林が映っていた。
体制を立て直して、地上を探索することにした。
大介の説教を受けながら。
数分経つと、景色が変わった。
前方に澄んだ川が映り込んだ。
それから、そこで恐竜2体を発見した。
特徴的なトサカを持つカモノハシ竜だ。
「パラサウロロフスだ!」
人はそう名付けている。
パラサウロロフス達は、どうやら水を飲んでいて、休憩中のようだった。
どちらもトサカが特徴的だが、その内の一体は特に発達していた。
おそらくそれはオスで、もう一体はメスである。
「思っていたより大きいなぁ」
アンモknightと比べても、5倍ほどである。
優也がパラサウロロフスと背比べをしていた時、大介からまた連絡が届いた。
「優也! 近くに反応がある! 注意しろ!!」
「了解!」
音に集中する優也。
すると、何処かから管楽器のような音が聞こえた。
優也はしばらく音の正体を探ると、それがパラサウロロフスから出ていた音だと判明した。
それがどういった効果を持っていたかなんて、彼には分からなかった。
しかし、悪い前兆というのを優也は察知した。
2体のパラサウロロフスは、川から離れて、森林へと逃げるように姿を消した。
彼らが消えてから数分。
風の音だけが聞こえて、妙に不気味な時間があった。
しかしその時間も一瞬だった。
アンモknightの後方から、「ドシンドシン」という音が聞こえた。
次第にその音は拡大していって、音の正体もモニターに映り込んだ。
白亜紀の角竜が突進してきていたのだ。
「ト、トリケラトプス……!!」
「避けろ!! 優也!!」
「!!」
明らかに、トリケラトプスはアンモknightのいる方向へと突進してきた。
だが危機一髪、優也は避けることに成功した。
そして一瞬だったが、黒い円盤のようなものが一つ、トリケラトプスの背中に貼り付けられていたのが見えた。
「ミ、ミステリーボックス! じぃちゃん!!」
「よし! 追え!!」
優也は全力でレバーを前に押し倒して、トリケラトプスを追うことにした。
トリケラトプスもパラサウロロフスと同じぐらい、巨大で尚且つ速かった。
アンモknightの速度で追いつくのにも、時間がかかった。
「速い……! でも追いつけた!!」
「そのまま飛び乗れ!」
勢いよく優也は、アンモknightをトリケラトプスの背中に乗せた。
しかし走っている最中だからか、背中は振動して安定しない。
それでも食らいつくように、背中にしがみつく。
近くにミステリーボックスが貼りついているのを確認して、優也は武器を取り出すことにした。
右手レバーの先端にある赤いボタンを押した。
『ディノブレイドモード起動』
機械音声と共に、アンモknightの右手にノコギリのような剣が現れた。
優也は背中から落ちないように、ミステリーボックスに剣を向け、おもいっきり、
「くら、え!!」
ディノブレイドを振り下ろした。
見事命中した。
「でかしたぞ! よくやった優也!!」
「……あれ?」
──しかし、トリケラトプスは止まらなかった。
「そ、そんな!?」
「馬鹿な!? 今までのミステリーボックスなら壊れるはず……!?」
動揺した優也と大介、そんな彼らは御構い無しという風で、トリケラトプスは走るのはやめなかった。
安定しないそこから、とうとうアンモknightは振り降ろされてしまった。
「うわぁぁああ!!?」
また、地上へと落下。
それでも悪運は健在だった。
「大丈夫か! 優也!」
「う、うん。でも……」
トリケラトプスは、真っ直ぐに走り、優也達を置いていった。
トリケラトプスの声は、どこか苦しげに聞こえ、森林のあちこちにそれは響き渡っていった。
落下した衝撃で、地上に埋まってしまった。
そこから抜け出すのに、数分かかった。
そんな作業をしていた時、再び祖父から連絡が届いた。
「優也……オペレーターから緊急告知だ」
「な、何?」
「ミステリーボックスの破壊をやめ、直ちに撤退だ……」
「……え!?」
何で、と優也が口を開く前に大介は説明しだした。
「まず、今回のミステリーボックスの硬さは異常だ。お前のアンモknightじゃ歯がたたない。それから次が問題じゃ……」
静かに前置きして、静かに祖父はこう言った。
「……ヤツの向かっている先は、海だ」
「!!?」
それは、どう考えても自殺行為だ。
「な、何で……」
「それは、ワシにも分からん。だがおそらくは、ミステリーボックスが……」
「違う!! それなら、尚更助けなくちゃいけないじゃないか!!」
優也は普段出さない怒鳴り声を上げ、大介に反発した。
大介も彼と同じように声を荒げた。
「聞いていたのか!? 上手くいかなきゃ、お前が死ぬ危険性があるんじゃぞ!?」
「分かってるよ!! でも……」
さっき聞いたトリケラトプスの悲痛な叫びを思い出した。
きっと、はるばる遠くから無理やり走らされたせいで、疲労が溜まっていたはずだ。
優也は研究所で言ったように、正直な気持ちを吐き出した。
「僕は見捨てたくないんだ! アイツを……助けたいんだ!!」
「優也……」
「だから僕は行くよ!!」
「……お前の覚悟は分かった。ならば優也、アンモknightのリミッターを解除しろ」
「うん! ……え。リミッター?」
「あぁ。さっきも言ったが、今のアンモknightの性能じゃミステリーボックスは破壊できない。優也、カセットを奥に押し込んでみろ」
優也は大介の言う通りに手を動かし、カセットを押し込んだ。
すると、アンモknightの内部で振動が起こる。
「……ぐっ!?」
それと同時に、優也の身体に衝撃がきた。
『リミッター解除、【アモンknight】』
それから機械音声がそう言うと、アンモknightが人型ロボットへと変形した。
「じ、じいちゃん……!? これって!?」
「アンモknightの奥の手、【アモンknight】じゃ。機動力が上がるが、その分パイロットへの負荷がかかる諸刃の剣じゃ」
「な、なるほど……短期決戦ってやつだね」
「そういうことじゃ。正直お前に使わせたくなかったが……」
「大丈夫。アイツはもっと苦しんでるんだ。どうってことない!」
「優也……よし、任務を続行せよ!」
「了解!!」
アンモknight──もといアモンknightを、トリケラトプスのいる方向へ発進させた。
トリケラトプスの足跡が地面に、大きく窪みを作っていた。
それは右に曲がることなく、左に曲がることなく、つまりずっと真っ直ぐに存在していた。
足跡を頼りに優也は、ひたすらアモンknightを走らせた。
するとどうだろうか。すぐにトリケラトプスが発見できた。
アモンknightになったため、確実に速くなっていた。
「ハァハァ……お、追いついた!」
勢いそのままに、アモンknightがトリケラトプスの背中に飛び乗る。
トリケラトプスは「グゥゥ……」と唸るように、しかし苦しんでいるようにも聞こえた。
「今助けるから!」
「急げ! 海がもう見えてきているぞ!」
大介の言っていたとおり、海が前方に見えていた。
このままでは崖から海へドボンだ。
優也は安定しない背中で助走をつけ、ミステリーボックスに向かっていった。
そしておもいっきり飛び、
「間に合えぇええっ!!!!」
叫びながら斬りかかった。
火花が飛び散り、重い反動が優也に襲いかかった。
仰け反りそうになるも、ミステリーボックスの状態を優也は見逃さなかった。
どうやら、先ほど与えた攻撃は無意味ではなかったようだ。
窪みがほんの僅かだができていた。
「そこかっ!!!」
優也はそこを重点的に狙った。
瞬間、手ごたえを優也は感じ取った。
思惑通り、ミステリーボックスに切れ込みが入り、欠片が次々と出た。
数秒経ってようやく、ミステリボックスが派手に割れた。
同時にトリケラトプスの足が止まった。
ギリギリ、だった。
あと1秒遅かったら、落ちてしまっていたかもしれない。
まさに崖っぷちである。
それ故に、優也はガッツポーズを決めた。
「やったぁぁあ!!」
勝利の雄叫びは、海の先まで届いてそうだった。
スマートフォンの画面に映っていた大介も同じく。
「よくやった優也!」
ハイタッチをしそうな勢いで、大介は優也を褒めた。
その後、優也はトリケラトプスから降りて、周囲の安全確認をした。
安全と判断した優也は、トリケラトプスを見送ることにした。
さっきまでの凶暴さは嘘のようで、穏やかな様子で、トリケラトプスは歩いていった。
「つ、疲れた……」
「お疲れさん。転送の準備をするから待っておれ」
「……じぃちゃんもお疲れ」
優也はそう言ってから、空を眺めた。
やはり快晴で、天気が良かった。
転送の準備が終わったのだろう。
あたりが光に包まれた。
優也の初任務が終了した。
──深夜にも関わらず、研究室の一室には未だに灯りが点いていた。
「センセイ」
その一室で、女性の澄んだ声が響いた。恐竜に関する資料が乱雑にばら撒かれた部屋で、加瀬木大介──センセイが応答する。
「浅田クンか。どうしたんじゃこんな夜中に?」
「その言葉。貴方にまんま返しますよ」
浅田は床にばら撒かれた資料を器用に避け、加瀬木に近づく。
「もう0時を過ぎましたよ」
「あぁ。分かっておる」
「もう若くないんですから、寝てください」
「……」
「一体何を調べて……」
無言で資料を見つめている加瀬木を尻目に、浅田は足場にあった資料を手に取った。
「これは……図鑑のコピーですか?」
彼女が手にした資料には、トリケラトプスの詳細が書かれていた。大きさ、分布、時代……基本的なことが書かれていた。
浅田は、苦笑混じりに加瀬木に問いかけた。
「原点回帰っていうやつですかね? センセイ」
「ある意味では、そうだ」
「ある意味?」
「これを見たまえ」
加瀬木は資料ではなく、数枚の写真を浅田に手渡した。
そこには、アンモknightのカメラ機能で撮った恐竜がいた。
「よく撮れてますね」
「その写真をよく見ろ」
真剣な表情で加瀬木はそう言う。
浅田は素直に写真を凝視する。
すると、加瀬木の言った意味を理解した。
「えっ……?」
「気付いたか」
「これ合成じゃないですよね……?」
「当然じゃ」
「な、何で『ティラノサウルスがステゴサウルスの死骸を食べているんですか』!?
ジュラ紀の恐竜と白亜紀の恐竜。
交わることかないはずの恐竜達が、一枚の写真に収まっていたのだ。
「せ、センセイ!? これは一体!?」
「ワシにも分からん。パイロットが偶然撮ったものなんじゃ」
「とんでもない発見ですよ! 世間に発表すべきでは──」
「落ち着け」
興奮する浅田を静止し、加瀬木はまた静かに口を開き問いかけた。
「浅田クン。あの時代には他には何がある?」
「他って……ミステリーボックスのことですか?」
「そうじゃな。じゃあ、あれはどこからやってきたと思う?」
「どこって……それがわからないからミステリーボックスなんじゃないですか」
「ふむ……」
顎髭に左手を添え、加瀬木は思考する素振りを見せる。
浅田も同じようなポーズをとりながら、疑問を彼に投げた。
「あのうセンセイ。言ってる意味が分からないんですけど……」
「……あの物体はな。我々の、今の技術では作れないものなんじゃ」
「……?」
「つまり……あの時代に、『我々以上に賢い者が存在する』かもしれないんじゃ」
「……え!?」
浅田は思わず資料を床に落とした。
それはつまり古代の世界に、人間かもしくは別の生命体が存在するということだ。
加瀬木は続けて問いかける。
「もう一つ気がかりなのじゃが……。あの物体が現代で見つからない」
「見つからない……?」
「壊れた破片すらも見つからないんじゃよ。どういう意味か君には分かるか?」
「い、いいえ……」
「もしかしたら馬鹿げてると君は思うかもしれないが、ワシは一つ考えた」
一呼吸置いて、加瀬木は現実的にあり得ないような仮説を唱えた。
「あそこは過去の世界ではなく……『異世界』である可能性がある」