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Legend 7. スライムのお迎え

「あ、あ、あの...ツィアさん...さっきのは...」

「わ、わ、分かってるわ!きっと変な魔法がかかったのね!」

スライムを説得した後、二人は先ほどの件について話していた。

今、スライムは一人で遊んでいる。

「そ、そうですね...そうじゃなきゃツィアさんがあんなことを...」

「そ、そうよ!私があんなことするわけないでしょ!それに...ハルだって...」

「は、はい!私、あんなエッチな子じゃありません!!」

そうは言ったものの二人はどこか残念そうだ。

それと共に戸惑ってもいた。

(なんで私、あんなことを...確かにハルは可愛いけど、べ、別に好きなわけじゃ...)

(わ、私、どうしちゃったんでしょう...ツィアさんは綺麗な方ですけど、人間ですし、私のことなんて想ってくれてるはずが...)

お互いに顔を見合わせる。

「はは...」

「へへ...」

ぎこちない笑い声が交わされた。すると、


<ピ~~~~~~~~!!>

一際、大きくスライムの声が響いた。

「「!!」」

二人がその声の意味を悟り、周りの様子を窺うと、

<ピ~~~~!>

<ピ~~~~!>

あちこちからスライムが現れる。そして、

<ピ~~~~~~!!>

一匹のスライムが現れた途端、迷子のスライムはうれしそうにそのスライムに体当たりした。

<ピ~~~~~~!!>

抱き合うようにくっついている二匹。

「良かったです!お母さんに会えたんですね!」

思わず笑顔になるハル。しかし、

「でも私たちの状況は芳しくないわよ!」

ツィアの冷静な声が聞こえた。緊張も感じさせる。

「えっ?」

ハルが改めて周りを見ると、

<ピキ~~~!!>

<ピキ~~~!!>

全てのスライムたちがこちらに敵意の視線を向け、唸っている。

「ち、違うんです!私たちはこの子を...」

ハルが説明しようとするが、

<ピキ~~~~~!!>

一際大きな声で威嚇された。こちらの言うことを聞いてくれそうにない。

「困ったわね...確かに状況的に『私があの子をさらった』と考えるのが普通かも...私、人間だしね...」

ツィアはそう推察した。

(人間は残った魔物を掃討している。この群れもそういう場面に出合ったのかも!...だとしたら人間を信用しなくても不思議はない...)

ツィアは必死に頭を働かせる。なんとかこの場を収める方法はないか?

(全部で...20匹前後ね...倒すのは簡単だわ!でも、そんなことしたくない...)

せっかく助けたスライムを倒してしまったのでは本末転倒だ。

(いっそのことやられたふりを!)

そう考えた時、一匹のスライムが酸の液をはいた。

「・・・」

「・・・」

顔を見合わせる二人。

(ここは敢えて、受けましょ!)

ツィアがアイコンタクトする。

(そうですね!)

ハルも賛成のようだ。

(私たちに敵意がないことを伝えなきゃ!...このくらいの攻撃、なんともないし...)

ツィアがハルの前に立ち、酸の液を受けようとした時、思いがけないことが起こった。


<ピ~~~~~~!!>

さっき助けた迷子のスライムが大きくジャンプすると、酸の液をその身に受ける。

<ピ~~~!!ピ~~~!!>

痛いのか、大きな声で泣き始めた。

<ピ~~~~~~!!>

お母さんスライムが駆け寄り、心配そうに様子を見ている。

<ピ~~~!>

<ピ~~~!>

他のスライムたちも戸惑い、右往左往していた。

その様子を見たツィアが、

「ヒール!」

魔法で迷子スライムを回復させる。すると、

<ピッ?...ピッ!ピ~~~~~~!!>

迷子スライムは痛みがなくなったのを感じると、みんなに向かって大きな声で叫び始めた。

「何を話してるの?」

ツィアが聞くと、

「私たちのことを説明してくれてるようです...助けてくれたって...」

「そう...」

ハルの言葉に軽くうなずくと、ツィアは周りのスライムたちの様子を窺い始めた。

<ピッ?>

<ピッ?>

スライムたちは戸惑っているようだ。

(やはりそう簡単に信じてはくれないようね...)

ツィアがそう思っていると、

「ん?」

目の前に一匹のスライムがやってきた。見ると後ろに迷子スライムもいる。

どうやらお母さんスライムのようだった。

<ピ~~~~~~!>

お母さんスライムは一声、鳴くと、体を前に倒す。お辞儀をしているようにも見えた。

「ふふ。『この子を助けてくれてありがとうございました』ですって!」

ハルが笑いながら通訳してくれる。

「べ、別にいいわよ!大したことしてないし...それより、もうその子から目を離しちゃダメよ!」

ツィアが照れくさそうに言うと、

<ピ~~~~~~!>

お母さんスライムが声を上げる。

「ならいいわ!その子をよろしくね!」

ツィアは通訳してもらわなくても、なんとなく言いたいことが分かったようだ。

そんな会話?をしていると、

<ピ~~~~~~~~!>

気が付くと、この群れで一番大きなスライムがやってきていて、話しかけてきた。

「なんて言ってるの?」

ツィアがハルに聞く。

「えっと、『この度は仲間を助けていただき、かたじけない!また先ほどの無礼、なんとお詫びしてよいのか...』と言ってます!」

ハルが通訳すると、

「...本当にそう言ってるんでしょうね?...スライムにも侍言葉があるの?」

ツィアは疑いの眼差しでハルを見る。

「でも他に訳しようが...それより、返事をしないと!」

ハルに言われたツィアは、

「ま、まあ、意味は分かるし細かいことはいいわ!」

そう応えると、侍スライムに向かって言う。

「分かってくれたのならいいわ!...私たちはあなたたちに危害を加えるつもりはないわ!もういいから、その子を連れて魔界に戻って!」

すると、

<ピ~~~~~~~~!>

『そういうわけにはいかぬ...我らに差し出せるものは...』

ハルが同時通訳している。

「・・・」

ツィアは少し思うところがあったが細かいことは気にしないことにする。

(この子、やっぱり天然よね...真面目な顔してるからツッコミづらいし...)

そんなことを考えていると、侍スライムが声を上げた。

<ピ~~~~~~~~!!>

すると、周りにいたスライムの一匹が、小さな家の形をしたものをツィアの目の前に置いた。

「これは!」

ハルが驚いた顔をする。

「なに?」

よく分からないツィアが尋ねると、

「モンスターハウスです!大きくすると分かります!」

ハルが説明してくれる。そして、

「大きくなれ!」

そうモンスターハウスに命令すると、

<ポンッ!>

目の前に一軒の家が現れた。


「えっ?!ホントにモンスターハウス?!」

ツィアは身構えるが、ハルはにっこり笑って言う。

「大丈夫です!中に魔物はいませんし、入っても閉じ込められることはありません!」


モンスターハウスというのは魔物が仕掛けるトラップの一種で、家の形をしている。

美味しそうなにおいなどで、旅に疲れた冒険者たちを巧みにおびき寄せ、中に誘う。

一度、入ってしまうと閉じ込められ、中にいる大量の魔物を倒さないと出られないというトラップだった。


「なんでこんなものを?」

ツィアが聞くと、

「魔物のいないモンスターハウスは普通の人間の家と同じで、生活することができるんですよ!それにさっきみたいに小さくなるので持ち運びも便利です!」

ハルがまた解説してくれる。

「えっ?!めちゃくちゃ便利じゃない!!...これをくれるの?」

ツィアが侍スライムに聞く。すると、

<ピ~~~~~~~~!>

『我らにできる最大限の感謝とお詫びの気持ちじゃ!もう我らには必要ないもの故、遠慮なく受け取られよ!そなたの旅の助けとなるであろう!』

侍スライム(訳・ハル)はそう言った。

「ありがとう!大事に使うわ!そっちのちびっこスライムも元気でね!」

<ピ~~~~~~!!>

迷子スライムが大きな声で最後の挨拶をする。

ツィアたちは、スライムたちの群れを見えなくなるまで見送るのだった。


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