第三話 対面
「一体何なんだ!
やっぱり何かの夢を見ているんだろう?」
「落ち着いてください。
ここは現実世界ですよ!」
「はー……」
俺は辺りを改めて見回し、
大草原にいることを確認する。
飛行機は無いし、他に誰もいない。
この現実を受け入れるしかないのか。
そんなとき、ふと疑問が浮かび上がった。
「ところで君は誰なんだ?
なんで俺といるんだ?」
「忘れてしまわれたのですか?
私は翠蘭です。
私は今10歳で、7歳の頃から
沐陽様にお仕えしております。
頭でも打ったのでしょうか……。
でも、戦はしないはずですよね。
まさか、男性が戦だなんてね……」
翠蘭はなにやらけらけらと笑った。
男が戦をすることは、この世界ではそんなにも
おかしなことなのか。
「何やらわからないが、
俺は今どうすればいいんだ?」
「ご自分で風に当たりたいと言って
外出されていたのですよ。
ですがそろそろお時間です。
劉備様の所に行かねばなりません」
「劉備の所に……?」
すると、大きな人力車を牽いて
若い女性がやってきた。
20代くらいのすらりとした
美女だった。
「ほら、迎えが来ました。
さっそく乗りましょう」
沐陽は指図する。
「家偉、沐陽様をお乗せして」
「はっ!」
すると家偉と呼ばれた彼女は、
人力車を低くした。
「ご準備ができました。
沐陽様、どうぞお乗りくださいませ」
「あ……ああ」
俺は恐る恐る乗り込む。
確か三国志では諸葛孔明が人力車に
乗っていたという話を読んだ気がするけど、
こんなに一般的なものなんだっけ?
翠蘭もぴょんと乗り込んだ。
「出発だ」
翠蘭は家偉よりもずっと幼いはずなのに、
ずばっと指示を出す。
「人力車って男性のイメージが強いけど、
女性が引くんだ」
「女性……というか、
馬の子孫だから牽けるのですよ」
「馬?」
「人力車を牽くのは馬の子孫なのです。
彼女達は馬の子と呼ばれます。
もちろん家偉は身分の高い馬の子です。
沐陽様をお運びする位なのですから」
家偉は黒い髪が美しくつやつやしていた。
「美しい髪は身分の高さを表しているのです」
1時間後――
「沐陽様、もうそろそろ着きます」
「ここが劉備が住む城……」
大きくそびえたつ城は
中華時代劇そのものだった。
かなり迫力がある。
翠蘭が門の前に立つ使用人に声をかける。
彼らは甲冑のようなものを着ていた。
「沐陽様のお帰りだ」
「はっ、かしこまりました」
使用人は重い門を開ける。
「沐陽様がすっかりお忘れのようなので、
私が案内させて頂きます」
翠蘭が先導した。
廊下は長く広くどこまでも続き、
まるで迷路のようだった。
どこも高級感があり、
あの時代に作られたものとは思えない位
美しかった。
そして、
「こちらです」
翠蘭が扉を指差した。
翠蘭が声をかける。
「劉備様、沐陽様をお連れ致しました」
すると高い女性の声で、
「ああ、入って入って」
俺はごくりと唾を飲んで扉を開ける。
そこにいたのは背の高い女性だった。
ギャルのような濃い化粧をし、
きらびやかで豪華な羽織物を着ている。
「沐陽、どこ行ってたのよ。
遅かったじゃん」
「え……えーと、この人は……?」
翠蘭は口をあんぐり開けていた。
「忘れてしまったのですか?
劉備様ですよ!」
「えっ!? りゅ、りゅ、りゅ……!?」
この人が劉備!?
このギャルが?
「もう、寝ぼけてんの?
私の事忘れちゃったなんて」
着物こそ違うが、どう見てもギャル。
長いつけまつげに濃い口紅、渋谷にいてもおかしくない!
翠蘭が慌てて説明する。
「沐陽様は強く頭を打ったようで、
色々と記憶が曖昧なようです」
「へえ、戦もしていないのに
頭を打つなんて、何したの?」
「ええっと……寝相が悪かったようで……」
すると劉備は大笑いした。
「まったくあんたは昔から変わらないわねえ!」
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