米国陸軍へ入隊
それから1年半が経過した時の事であった。春彦はハーバード大学の3年生になるのを前にして中途退学を決め、米国陸軍に入隊する事を決意し両親に報告した。
この時春彦はまだ20歳で、徴兵年齢の対象者ではなかったが、18歳以上から入隊出来る志願兵として、米国陸軍に入隊した。身体検査も筆記試験も楽々パスした。流石はハーバード大学にいただけの事はある。
時は1942年3月末の事である。この2ヶ月後に米国陸軍は、スコフィールド兵営にて、日系二世だけの部隊「ハワイ臨時大隊」を編成する事になり、春彦はその部隊に徴兵の兵に混じって入る事になった。日系人が大学を中退して志願兵になると言う事は当時の米国人には、信じられない事であった。
春彦も、思うところがあったのだろう。しかし、一度入隊を決め、米国陸軍に入隊したと言う事は、主君(米国大統領)に全力を尽くすのが侍である。春彦はれっきとした米国人だ。日系二世とは言え、その命あらば兄弟と殺し合う事になっても、戦争が始まっている以上、それは避けられない。だが、戦争はまだ序盤であり、米国の力が発揮されるのは、これからである。
二世を中心とする日系人はその背格好から、対日戦争の切り札となって行く。皮肉にも日本人のDNAが入っている事で生まれた兵士であった。陸軍の兵隊としての訓練は、それなりに厳しかったが、春彦は耐えていた。これくらいの事で根をあげては、せっかく辞めた大学の意味がない。手柄を立てれば少しでも、日系米国人の地位向上に役に立てる。そうでもしなければ、死ぬに死ねない。その為に訓練を受けていたのだから。




