柚木こはね
ひとこ「紫電ちゃん、お家に行く前にダウンロードショップ寄ってもいいかな?」
紫電「ん、いいぜ。……ところでその……ダウンロードショップってなんだっけ……?」
ひとこ「ウォーメロの曲をダウンロードする端末だよ。そろそろ新曲出る頃かなって」
紫電「うぉーめろ……?」
ひとこ「あれ? あ、そっか、紫電ちゃんはダンス枠で来たんだもんね、携帯型の音楽プレーヤーはあんまり使わないよね」
紫電「あ、あぁ……実は俺、その……なんつーか、機械とかってのはどうも苦手でさ……。で、でもひーちゃんが使ってるなら興味あるな! どんな機械なんだ?」
ひとこ「えっとね、Walk Melodysっていうダウンロード式の携帯音楽プレーヤーで、DLショップにある機械に差し込んで配信されている曲を持ち運べるんだよ。最近はCDよりこっちの方が主流で、一曲から選べるの。メーカーも色々あって、見た目も可愛いのが多いよ!」
紫電「へぇー……こんな小さいやつにたくさん入るんだ……ちょっといいかも」
ひとこ「本体はそこまで高くないし、私もう一つ使ってるんだ。紫電ちゃんの分もいれてあげよっか?」
紫電「ほんとか!? じゃ、じゃあ俺、あれ入れてほしい! transfer the love!」
ひとこ「いいよー! ……というより、私もそれが目当てだったりして……」
紫電「ありがとう~!! ……正直に言うとな、俺……烈火さんの歌、感動しちゃってさ……」
ひとこ「あはは、私も……なんだか、聴いてたら凄すぎて泣いちゃって……」
紫電「……」
ひとこ「……」
紫電「……あ、そ、そうだ! この辺に行列のできるたい焼き売ってんだ! そういや朝ごはんもまだだったからな、一緒に食べようぜ! 俺ダウンロードしてもらってる間に買ってくるよ!」
ひとこ「あっ! う、うん! じゃあ…頼んじゃおっかな! おねがい!」
紫電「おう! 任せとけ!!」
ひとこ「ありがとう! こっちも任せて!」
紫電「(俺が不安にさせてどうすんだよバカ……! あーもう! しっかりしないと!)」
ひとこ「……」
ひとこ「(あ、あのダウンロード台新しいやつだ。検索しやすいけど、ちょっと前より複雑になったんだよね)」
???「……」
ひとこ「(……あれ? あの人、検索画面いったり来たりしてる……もしかして使い方わからないのかな……?)」
???「……? ……?」
ひとこ「あのー……ここを押すと次に進めますよ」
???「……! ……いけた……!」
ひとこ「(あ、これ今月入ったばかりのドレプロのリミックスアルバム……! アイドル好きなのかな……? 帽子で隠れてたけど、良く見るとこの人とっても可愛い……)」
???「ありがとう……。いつもと違う機械でわからなかったの……」
ひとこ「いえ、困ったときはお互い様です!あの……どれも良い選曲ですよね、このリミックス……」
???「うん……。あ……あなた、アイドルでしょ……」
ひとこ「え、なんでわかったんですか? あ、でもあの、まだ入ったばかりの研究生で……」
???「わかるの……私もアイドルだから……。でも、無理してるの。何かあったんだ……」
ひとこ「え、えっと……その……その……」
???「……アイドルなら、忘れちゃ駄目なの。ファンが観てくれるのは心……。誰かと比べちゃ駄目……。あなたの心は綺麗なのだから、そのままの心で自信を持っていいの……。」
ひとこ「……は、い……(あれ……涙が……) 」
???「今の自分を否定しないでいいの……。優しくて、頑張り屋さんで、そんなあなたを好きになった人がたくさんいる筈だから……。ファンも同じなの……。お名前、聞いてもいい……?」
ひとこ「し、霜月…ひとこ……です……」
???「ひとこ……。ダウンロード手伝ってくれてありがと……。デビュー、楽しみに待ってるね……」
ひとこ「いえ、あ……あの、貴女は……」
こはね「柚木こはね。また会おうね、ひとこ……」
ひとこ「はい……あ、あの……本当に……ありがとう、ございました……」
こはね「いいの……気にしないで……。じゃあね……」
ひとこ「……」
ひとこ「……は、初めて会う人に励ましてもらっちゃった……! はわわ、つい泣いちゃったし……あうぅ……なんだか、とても恥ずかしいところを見せちゃった気がするよぅ……」
ひとこ「それにしても、ゆずきこはねさん……って名前、どこかで聞いたような……。あ、いけない、ダウンロード終わってる! 結構かかっちゃったな、何曲入ったんだろう……」
ひとこ「えっと、烈火さんの曲は何番かな……あ、あれ? この曲って……」
ひとこ「えっ? えっ!? これって、まさか、うそ、え、えぇ~っ!?」
***
こはね「プロデューサーさん……勝手にいなくならないで……」
渋谷P「ぜぇー! ぜぇー! それは、こっちの、台詞、だからぁ!! 勝手に何処か行っちゃ困るよこんな人混みで~!!」
こはね「こはねのせいにしないで……」
渋谷P「ぐうぅ……。はぁもう……なんでこう、君はステージの上ではあんなに目立つのに、普段はこんなに景色に溶け込むのが上手いんだ……。大した変装もしてないっていうのに……」
こはね「傷つくの……」
渋谷P「あ、ごめんよ、失言だったね……。でもね、君だからこそそんなに堂々と人前に出歩いてるけど、『他の七帝』はみんなサングラスとかつけたりしてるよ。アイドルが危機感捨てちゃ駄目だ。この前も、地下アイドルの娘がおかしなファンに襲われた事件があったばかりじゃないか」
こはね「ごめんなさいなの……」
渋谷P「あ、謝らなくていいんだ……。君たちアイドルは何も悪くない。けど、やっぱり僕もプロデューサーとして心配だから、今後はサイレントでいなくなるのやめてね。君は『七帝の序列二位』、次期トップアイドル候補の『柚木こはね』なんだから」
こはね「まだ早いの……烈火もセレアも、私なんて比べられないくらいすごいの……」
渋谷P「そうかい?君ならいけると僕は思うな」
こはね「そんなことないの……みんな頑張ってるから……」
渋谷P「(そう、去年もそう言って、あの『桜木烈火』を平然と越えたんだ。確かに投票制の七帝は単なる実力だけの順位じゃない。でも僕は君の成長が眩しい。ううん、僕だけじゃない、何よりも他の七帝の皆が君のことを認めている。特に、人一倍プライドの高いあの精霊の烈火ちゃんが、普通の人間に対して過度なコンプレックスを抱いてるのは、君に抜かれてからのことなんだから……)」
こはね「プロデューサーさん。たい焼き食べたい。並んで。」
渋谷P「だぁー!! またいつの間にかそんな遠くに!! 駄目っ!! 戻ってきなさい!! スケジュールつまってるの!! ただでさえ君がまたいなくなって時間ないってのに!!」
こはね「たい焼き食べなきゃ撮影しないの。たい焼き。」
渋谷P「ぐ、ぐ、駄目っ!! 撮影終わったらケーキの店連れてったげるから、辛抱して!」
こはね「プロデューサーさん……」
渋谷P「な、何!? 譲らないぞ!? いいかい、プロデューサーというのはアイドルの為に、時に厳しくしてこそ……」
こはね「……かわいい。」
渋谷P「(あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! チクショウ辛いっ!! 眩しいっ!! 死んじゃううううぅぅぅぅぅ!!)」