9)聖女ローズの慰問再開
ローズの慰問は王都周辺の町から再開された。早朝に出立し、夜には必ず王太子宮に戻ってくることができる町に限っての再開だった。泊りがけでの慰問は、見合わされた。
昼夜を問わず、ローズは一人では過ごせなくなっていた。婚約者であるロバート、幼い頃から親しいサンドラ、侍女頭のサラとその娘のミリア、侍女のアレクサンドラが、王太子宮ではローズと過ごした。
レオンとアランのアーライル侯爵家の兄弟は慰問の時の警護で、大司祭やグレース孤児院のシスター達は、慰問先の教会や修道院や孤児院に先回りして、ローズを出迎えてくれた。ローズの慰問は、以前にもまして多くの人に支えられることになった。
「少しくらい甘えておけ」
周囲の人に恐縮するローズに、アレキサンダーは言った。
「大司祭様も、ロバート兄様で火遊びをしておられるだけですから」
アレクサンドラが囁いた。素知らぬふりをするロバートに、ローズは笑った。
王太子宮は、暗い話題ばかりではなかった。グレースが懐妊した。まだ、表沙汰にはなっていないが、第二子の妊娠は確実だった。
「ソフィアが姉になるのか」
アレキサンダーは感慨深く呟いた。
あの時、ローズでなく、グレースかソフィアが狙われていたはずだ。ローズを売ろうとしていた奴隷商人達を捕らえたことで、貴族も含め人の耳目は奴隷売買の取り締まりに集中している。
ローズが声を聞いた、貴族らしい男の声が誰のものか、未だにわかっていない。
声の主が攫おうとしていたのは、ローズではない。グレースのはずだ。
「早く、片付けておきたい」
ライティーザ王国王太子アレキサンダーを追い落とそうとしているものたちは、リラツの王子達の誰かを代わりに王位につけることを狙っていた。傀儡の王にするつもりだったのだろう。アレキサンダーが立太子する前に、第三王子ハミルトンに打診したが、ハミルトンにも当時の国王にも断られていた。
今の王家を滅ぼし、なり代わる気はないらしい。王位の簒奪など、武に優れる者の多い古参貴族たちが認めるわけがない。内乱で国土が焦土と化すだろう。傀儡であれば、権力を握ることが可能と考える根拠はどこにあるのだろうか。リラツ王家の王子であれば、おとなしく傀儡になると、何故思うのだろうか。アレキサンダーには、理解ができなかった。
今回、表敬訪問に来るのは現第二王子のロレンスだ。海軍を束ねる、やや型破りな人物だということはわかっていた。
「王弟となられる御方がいらっしゃるわけですから、先方の御意向をまずは確認しましょう」
「お前には面倒をかけるが、今の状況は都合が良い」
アレキサンダーの言葉に、ロバートの眉間が険しくなった。
「顔も見たくないのもわかるが。お前も歓迎式典の準備をするから、予定の把握が出来る」
「はい」
歓迎式典の準備のため、ロバートは連日のようにバーナードと打ち合わせをしている。不機嫌になったロバートの声は低かった。




