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4)形だけの見舞い

 先触れから程なくして王太子宮を訪れたアスティングス家の子息達、ウィリアムとウィルヘルムは、形式通りに出迎えられた。


 王太子宮の主であるアレキサンダーの隣には、ロバートが立っていた。茶色だった髪は、白一色だ。他は特に変わったところなどないように見えた。


 ロバートを含めた近習達は、余所余所しい雰囲気だった。ロバートも、その態度を特に咎めることもなかった。


 ウィリアムとウィルフレッドが通されたのは、出入り口に近い応接室だ。侯爵家の子息達を招くための部屋ではない。二人は、軽んじられたという不満を隠そうともしていなかった。


「見舞いにきたが、最早必要ないようだな」

ウィリアムは、見舞いに来たとは思えない言葉を口にした。


「お気遣いいただき、ありがとうございました」

ロバートは淡々と応じた。


「もう、身体はよいのか」

ウィルヘルムの言葉に、部屋に漂っていた剣呑な雰囲気は、やや穏やかなものになった。


「差し支えはございません」

仮に差し支えがあっても、ロバートは、それを口にすることはない。ただ、気遣いを口にした弟ウィルヘルムのほうが、兄ウィリアムよりも周囲の心象を良くした。


「グレースは、どうしている」

「そろそろ、父にソフィアの顔を見せてやりたいのだが」


 ウィリアムとウィルヘルムの言葉に、アレキサンダーとロバートは顔を見合わせた。


「大変申し上げにくいことなのですが」

先に口を開いたロバートは、途中で言い淀んだ。


「ここだけの話だ。聞かなかったことにして欲しい。妻は、大変に怒っている」

続けたのはアレキサンダーだった。


「グレース様は、近くのお部屋でお二人をお待ちしておられます。今からご案内いたします。グレース様は、ウィリアム様とウィルヘルム様のお二方とだけ、お話をなさりたいとのことで、人払いを命じておられます。護衛は外に配置いたします」


 アレキサンダーとロバートの言葉に、今度はウィリアムとウィルヘルムが顔を見合わせた。末っ子の妹が怒っていると言われても戸惑うしかなかった。


「少々差し出がましいことを申し上げますと、その前に少し何か、召し上がっていかれたほうがよろしいかと存じます」

言葉通り、差し出がましいロバートの発言の真意をウィリアムとウィルヘルムは理解できなかった。


「グレースは、侍女も部屋に入れないようだ」

アレキサンダーは、理由を説明した。侍女も部屋に入れないのでは、二人に茶を用意するものはいない。


「何故」

ウィリアムは、本当に理由がわからないらしく、顔を顰め、腕を組んだ。ウィルヘルムは、心当たりでもあるのか、俯いた。


 次兄のウィルヘルムはともかく、長兄ウィリアムは、本当に思い至ることがないらしい。これでは、グレースの憤りも無理ないことだ。


 アスティングス家から、長く謝罪もなく、ようやくの謝罪は一方的な先触れの後だ。


 王都の治安改善のための会議に、アスティングス家からの出席者は無いままに過ぎていっている。アスティングス侯爵家は、王家に嫁いだグレースの実家だ。権力に貪欲すぎては問題だ。だが、数少ない侯爵家として、それなりの責任を負うべきだろう。何より、今回拉致されたのはローズだが、狙われていたのはグレースだ。


 王都に残っていたグレースは、自身と娘ソフィアが攫われそうになったというのに、何ら動かなかった父、アスティングス侯爵フィリップに怒りを覚えていた。兄二人のロバートへの暴行に、グレースは、さらに怒りを強くし、抗議の書状を送った。


 兄二人が、御前会議で自らロバートへの暴行を口にし、謝罪したと、アレキサンダーから聞かされた時は、グレースの怒りは静まった。


 だがそれ以降、アスティングス家からは何の音沙汰もなく、治安改善のための会議への参加もない。アレキサンダーを含め、会議に出席していた者達はみな、消極的なアスティングス家の態度にあきれていた。積極的に関わる気が無い者がいては、議論の邪魔だと放置していた。


 一人、グレースだけが静かに怒りを溜めていたらしい。


 この部屋の様子は、隣からわかるようになっている。先程の会話も、グレースに筒抜けだ。


 ウィリアムとウィルヘルムは、渋々ながらも茶を飲んでいる。この素直さを、発揮する場所を間違えねばよいのにと、ロバートは思った。


 アレキサンダーは、グレースが待つ部屋へ、案内されていく義兄二人を見送った。


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