11)バーナードの見舞い
扉を開けた途端、目に入ってきたものに、バーナードは動けなくなった。傷を負った裸の男の背に、信じられないものがあった。左肩に近い位置にあるそれは、一瞬でバーナードの目の前から消えた。
「アルフレッド様」
ロバートの声には、微かに非難する響きがあった。それはそうだろう。バーナードは、ロバートから、父と慕われたことは一度もない。負傷している今、近くに寄られるだけで不快だというのが、ロバートの本音だろう。
「具合はどうだ」
アルフレッドは立ち尽くすバーナードを無視し、ロバートに声をかけていた。
「お気遣いいただきありがとうございます」
鏡に、ロバートの背が映っていた。バーナードの目は、鏡に映るロバートの背にあるそれに吸い込まれたかのように、動かせなかった。侍女が手を貸して、ロバートにシャツを着せかけた。白い布で、ロバートの背は覆い隠され、ロバートの背のそれは、鏡から消えた。
ロバートの傍らには、ローズがいた。琥珀色の瞳を見開いたローズを、ロバートは背に庇うように隠した。
「バーナード侍従長殿。本日はどのようなご用件でしょうか」
ロバートの声は冷たく響く。お前に用など無い。言外に告げている。
普段なら、何か答えただろう。だが、バーナードは何も言えず、その場を後にした。自分の目で見たものが信じられなかった。
バーナードが目にしたものは、今まで自分が信じていたことが、誤解だったという証拠だ。
自室に帰り着き、ようやく声が出た。
「まさか」
自らの声では無いように聞こえた。




