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8)事件の影響

 王妃の間から出たエリックは、未だに報告できていない件の事を考えていた。

「あなた方が心配なさるほど、ローズ様は弱くはありません」


 腕組みをしてエリックを睨む侍女と目があった。王宮に仕える侍女として、有るまじき態度だ。

「ローズ様が未だにご存じないというのは、いかがなものかと心得ます」


「あなたは腕を組むべきではありません」

エリックの言葉に、侍女は組んでいた腕をほどき、姿勢を正した。


「ローズ様が未だにご存じないというのは、いかがなものかと心得ます」

侍女は同じ言葉を繰り返し、相変わらずエリックを睨んでいる。グレース孤児院でローズと一緒に育った孤児だ。ローズとともに、ライティーザに蔓延(はびこ)る悪人たちを裁くために、影となった一人だ。


「ロバート様にも、報告なさるべきではありませんか」

侍女がこだわるのは、エリックが未だに報告出来ていない一件のことだ。


「あなたの言う通りですが、今がその時とは、私は考えておりません」

「今からお伝えしても、後にお伝えしても、お二人は悲しまれるでしょう。お二人に伝えず、ごまかしていたなどと思われては、私共は大変に不本意です」

ローズをリゼとよんでいた者たちは皆、二人に隠し事をすべきではないと事ある毎に、エリックに意見をしてきていた。アレキサンダーやアルフレッドにも意見してきている。


「お二人が心身ともに疲弊している今、お伝えすべきではありません」

彼らが何といおうと、エリックは反対を続けていた。二人にとって、特にローズには、あまりに悲しい知らせだ。心を痛めることが続いたあとに、わざわざ告げるべきだとはエリックには思えなかった。

 

 ヴィクターとアレクサンドラも、隠し事をすべきではないと言っている。だが、アレキサンダーが、ロバートの代行に指名したのはエリックだ。二人はロバートの代行を務めるエリックに、逆らおうとはしなかった。

 

 幼い頃からローズを知る者達は皆、口を揃えて二人に告げるべきだと主張し続けていた。先走って勝手に言わずにいるのは、影としての教育の影響だろう。

「ですから、今なのです。今でないと、あの子は泣くことも出来ないわ」

侍女は、途中から口調を変えた。

「泣き虫のくせに、気を遣うのよ。泣ける時に、泣かせてあげないと、可哀想よ」

侍女の目に涙が浮かんだ。

「私達にとっても、大切な方でした。共に悼む機会を、私達に下さい」

侍女の心からの言葉と涙は、エリックに決断をさせた。


「お休みになったばかりの今、告げるべきではないでしょう。明日朝、私からお伝えします」

「はい。ありがとうございます」

エリックの言葉に、侍女は目に涙をためたまま、一礼した。


 エリックが引き受けたのは、気が重い役割だ。だが、いつまでも隠し続けることもできない。


 どうして今なのだと、グレース孤児院からの報告を受けたとき、アレキサンダーは言った。 


 ローズは泣くだろう。ロバートは悔やむだろう。グレース孤児院のシスター長が、亡くなった。夏、予定通りローズが慰問できていたら、二人は会うことが出来たはずだった。


 事件の思わぬ影響の一つだ。


 シスター長は、攫われたローズの身を案じていた。せめてもの慰めは、ローズが無事だという知らせを、亡くなる前にシスター長が受け取っていたことだろう。


 明日、どう告げるべきか、エリックは考えこむことになった。



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