17)ロバートの不安
「ロバート」
ローズの声にロバートは目を覚ました。影の位置が相当動いている。ハロルドの手当のあと、問い詰められて、喋らされた。また眠ってしまったらしい。
「少し食べましょう。いい頃合いだから」
ローズの手を借りて、身を起こす。背中の傷の痛みは、日を経てもあまり改善していなかった。ハロルドに言わせると、数箇所深い傷があり、思ったより治癒がおくれているという。御前会議まで日がないというのに、面倒なことだ。
「リック達が、冷めにくいだろうからって、鍋ごと持ってきてくれたわ」
卓上には、小さめの鍋と、食器が並んでいた。ロバートはあまり食欲がなかった。食べなければと思うが、手が進まない。食べるだけで疲れ、胸やけもした。
「全部とは言わないわ。でも、少しは鍋を軽くしておかないと、持ってきてくれたリックが、がっかりするわ」
「がっかりされる前に、一言二言文句を言われそうですね」
ロバートの言葉に、ローズが笑った。
リックはローズと同じ孤児院で育った、腕白な小姓だ。機転が利くが、人一倍腕白だ。
ローズが鍋から装ってくれた器をロバートは受け取った。一口、二口と食べるが、手が止まる。熱のせいか味がわからない。どうにも食がすすまない。
「ロバート」
完全に止まってしまったロバートの手から、ローズは匙をとった。
「もう一口、食べましょう」
匙に料理を載せ、笑顔で差し出してくる。ロバートは仕方なく口を開けた。それでも結局、数口が限界だった。
「ロバート」
「これ以上は、吐きます」
そうとしか言えなかった。異様なまでに食べられない。今までの怪我との違いが、ロバートは不安だった。今までは、数日で食欲も戻っていた。まだ無理だというハロルドに、早く食べさせろと文句を言ってばかりいた。
「すみません」
ロバートはローズを抱きしめた。
厨房が食べやすいようにと手を尽くしてくれているのはわかる。リックなりに考えてきてくれたのもありがたい。一口でもといってくれるローズの気持ちも、少しでも口にしないと精がつかないというバーセア伯爵の言うとおりだとも思う。それでも、食べられない。申し訳ないと思うが、本当に食べられない。普段とは違う不調がロバートは不安だった。
ローズを抱きしめていた腕をロバートはゆっくりと解いた。
「もう休むなら、少しでいいから、果実水は飲みましょう」
ローズが、気遣ってくれているのはわかる。だが、果実水も数口が限界だった。ローズの手を借りて、ロバートはゆっくりと寝台に身を横たえた。
「ロバート。辛いの?」
ローズの言葉に、どう答えて良いのか、ロバートにはわからなかった。
「また少し休む?」
それの言葉なら答えはわかる。ロバートは、頷いた。
「おやすみなさい」
微笑んだローズが、額に口づけを落としたのを感じ、ロバートも微笑んだ。そっとローズの手を握り、目を閉じた。
背の傷が熱い。身体の奥が疼く。苦しいが、休まねばならない。御前会議では、アレキサンダーの配下でしかないロバートには、座る席などない。立ち続けねばならないのだ。身体を休めておかねばならなかった。




