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【完結】マグノリアの花の咲く頃に 第四部  作者: 海堂 岬
第十五章 王都への帰還
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17)ロバートの不安

「ロバート」

ローズの声にロバートは目を覚ました。影の位置が相当動いている。ハロルドの手当のあと、問い詰められて、喋らされた。また眠ってしまったらしい。


「少し食べましょう。いい頃合いだから」

ローズの手を借りて、身を起こす。背中の傷の痛みは、日を経てもあまり改善していなかった。ハロルドに言わせると、数箇所深い傷があり、思ったより治癒がおくれているという。御前会議まで日がないというのに、面倒なことだ。


「リック達が、冷めにくいだろうからって、鍋ごと持ってきてくれたわ」

卓上には、小さめの鍋と、食器が並んでいた。ロバートはあまり食欲がなかった。食べなければと思うが、手が進まない。食べるだけで疲れ、胸やけもした。


「全部とは言わないわ。でも、少しは鍋を軽くしておかないと、持ってきてくれたリックが、がっかりするわ」

「がっかりされる前に、一言二言文句を言われそうですね」

ロバートの言葉に、ローズが笑った。

リックはローズと同じ孤児院で育った、腕白な小姓だ。機転が利くが、人一倍腕白だ。


 ローズが鍋から装ってくれた器をロバートは受け取った。一口、二口と食べるが、手が止まる。熱のせいか味がわからない。どうにも食がすすまない。


「ロバート」

完全に止まってしまったロバートの手から、ローズは匙をとった。

「もう一口、食べましょう」

匙に料理を載せ、笑顔で差し出してくる。ロバートは仕方なく口を開けた。それでも結局、数口が限界だった。


「ロバート」

「これ以上は、吐きます」

そうとしか言えなかった。異様なまでに食べられない。今までの怪我との違いが、ロバートは不安だった。今までは、数日で食欲も戻っていた。まだ無理だというハロルドに、早く食べさせろと文句を言ってばかりいた。

「すみません」

ロバートはローズを抱きしめた。


 厨房が食べやすいようにと手を尽くしてくれているのはわかる。リックなりに考えてきてくれたのもありがたい。一口でもといってくれるローズの気持ちも、少しでも口にしないと精がつかないというバーセア伯爵の言うとおりだとも思う。それでも、食べられない。申し訳ないと思うが、本当に食べられない。普段とは違う不調がロバートは不安だった。

 

 ローズを抱きしめていた腕をロバートはゆっくりと解いた。

「もう休むなら、少しでいいから、果実水は飲みましょう」

ローズが、気遣ってくれているのはわかる。だが、果実水も数口が限界だった。ローズの手を借りて、ロバートはゆっくりと寝台に身を横たえた。


「ロバート。辛いの?」


ローズの言葉に、どう答えて良いのか、ロバートにはわからなかった。

「また少し休む?」


それの言葉なら答えはわかる。ロバートは、頷いた。

「おやすみなさい」


 微笑んだローズが、額に口づけを落としたのを感じ、ロバートも微笑んだ。そっとローズの手を握り、目を閉じた。


 背の傷が熱い。身体の奥が疼く。苦しいが、休まねばならない。御前会議では、アレキサンダーの配下でしかないロバートには、座る席などない。立ち続けねばならないのだ。身体を休めておかねばならなかった。



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