13)詰問されるロバート
翌朝だった。
「端的に聞く。ロバート、何を企んでいる。答えなさい」
アルフレッドの言葉に、長椅子に身を横たえたままのロバートは気まずそうに目をそらした。
錚々たる面々が、ロバートとローズのいる王妃の部屋に集っていた。国王アルフレッド、王太子アレキサンダー、西の守りの要バーセア辺境伯爵、ライティーザ王国の武力を束ねるアーライル侯爵とその後継者であるレオン・アーライルだ。
王家、王家に次ぐ歴史を持つ一族の血をひくロバート、ロバートの一族と縁のあるバーセア伯爵、アーライル侯爵という組み合わせは、ライティーザ王国の建国の頃から続く、古参中の古参の集まりでもあった。
その一人、ロバートが、ローズに膝枕をされているというのは珍妙な光景だ。なんのことはない。予告なく全員で、王妃の部屋にいたロバートのところに押しかけたのである。
ロバートに口を割らせるのであれば、不意打ちすべきだという、レオン・アーライルの提案が採択されてのことだ。
ロバートは、起き上がろうとしたが、傷の痛みで一瞬おくれた。直後にローズに、駄目といわれて、大人しく横たわったままになっている。
「ロバート、何を企んでいる」
本来は、午後から次の御前会議での議題について、話し合うはずだった。奴隷市場に踏み込むことはできたが、完全に叩き潰すに至っていないことは明らかだ。他にも、王太子妃グレースの拉致未遂であり、聖女ローズの拉致に関しても話し合わねばならないのだ。
巷には、聖女ローズの導きで、アレキサンダー王太子が奴隷市場の場所を突き止め、取り締まったと、吟遊詩人たちに流布させている。
それは事実の一面を、都合よく切り取っただけの話だ。
御前会議では、責任追及の議論が空転し、責任のなすりつけ合い、他者への非難の応酬が続いていた。
事件の問題点を洗い出し、黒幕を捕らえ、次を防ぐためにはどうするかという、御前会議の本来の役割は失われていた。
王都に戻ってきたアレキサンダーの報告を機に、御前会議をあるべき姿に戻さねばならない。丁度、西の防衛の要であるバーセア伯が、次の御前会議では参加予定であり良い機会だった。
そのための打ち合わせが、予定されていたのは、今日の午後だった。それを朝からに繰り上げ、王妃の部屋に乗り込んで、現在にいたる。
部屋は沈黙に満たされていた。動いているのは、ロバートの髪を撫でてやっているローズの手だけだ。
「ロバート。お前が何を企んでいるか知らなくては、協力も難しい」
アルフレッドの言葉に、ロバートが渋々口を開いた。
「企んだわけではございません」
「そうか。では、何をしようとしている」
ロバートの言い訳めいた言葉を、アルフレッドは笑顔で容赦なく切り捨てた。部屋はまた静かになった。誰も口を開かない。
長い沈黙が続く。ロバートに口を割らせるには、沈黙に耐えなければならない。アルフレッドとアレキサンダーから聞かされた言葉を胸に、バーセア伯爵、アーライル侯爵、レオンは、沈黙に耐えていた。
アルフレッドが追求を止めないことを悟ったのだろう。ロバートが諦めたように口を開いた。
「アスティングス侯爵のご令息方が、素行に関して問題があるということは存じ上げておりました。それ故、お二方とも、アレキサンダー様の側近の候補にならなかったことも、知っております」
ロバートの言葉に、アルフレッドは頷いた。
「御前会議に、出席されるようになり、何度かお見かけしましたが、お噂ほどの振る舞いを、お見かけすることもありませんでした。それどころか、思慮深いご意見をお持ちでした。それこそ、蛮行がなければ、側近候補となったのではないでしょうか」
ロバートの言葉通り、アスティングス家のウィリアムとウィルヘルムは、その才覚を御前会議で時に示していた。
「使用人への暴行は事実です。徐々に手口も悪質となっているようでした。当主も知りながら放置、黙認しておられるとしか思えません」
ロバートは気怠げな口調で続けた。
「グレース様の御一行が襲撃された場所は、アスティングス家が警備を担っている一帯です。アスティングス家では、代々令息達の責務だったはずです」
ロバートが述べたことは、事実だ。
「つまり、何がいいたい」
アレキサンダーは続きを促した。
「お二人が、アレキサンダー様に責任を転嫁なさろうとされるのではと思いました」
「ロバート、お前は」
アレキサンダー苦々しい思いで続けようとして、止めた。
ローズが、ロバートの頬を軽くつねっていた。
「わざとなの」
「いえ、まさか」
「予想していたのでしょう」
「ここまでとは、思っておりませんでした」
二人の会話にバーセア伯爵が微笑む。
「アスティングス家の若造共が、万が一アレキサンダー様相手に怪我でもさせたとなると大事です。アレキサンダー様の身代わりとなり、アレキサンダー様をお守りし、若造共の所業が問題となることを防ごうとなさったのでしょうが、正直、あまり上手い手ではありませんな」
やや明け透けなバーセア伯の言葉に、ロバートは軽く肩をすくめた。
「おっしゃるとおりです。この事態は予想外です」
動けなくなるほどの怪我か、詰問されている今か、ロバートの発言はどちらにもとれる。
「何を企んでおられたかはお話しいただきましたが、この先は何を企んでおられますか」
レオンの言葉に、ロバートが片手で顔を覆った。
「お話しいただかなくては、我々も協力できません」
アーライル侯爵が続けた。アレキサンダーは、全員に静かにするようにと合図した。
「ウィリアム様、ウィルヘルム様は、私の御前会議への出席を阻み、その間にアレキサンダー様や私に、グレース様の馬車が襲撃された件の責任を負わせようとなさっているのかもしれません」
ロバートは、アスティングス家の子息達の企みを推測し、口にしているだけだ。ロバート自身の企みに就いては、口にする気がないらしい。
ロバートからは死角になっているアレキサンダーに、ローズが微笑んでみせた。
「皆様、お茶にしませんか。ロバートも、少し何か口にしたほうが良いわ」
「それはいいね。そうしよう」
ロバートの扱いはローズが最も長けている。アルフレッドの言葉で、控えていた侍女たちが一斉に動いた。
バーセア伯爵の眉間に皺がよった。
「召し上がっておられないのですか」
「食べてはいます。あまりすすまないだけです」
ローズの手をかりながら、ロバートがゆっくりと身を起こした。
「食べなくては、精もつきませんぞ」
そう言いながら、バーセア伯爵は、ロバートと並ぶように長椅子に腰をおろした。バーセア伯爵は、驚くロバートの肩を捕まえ、自分にもたれさせた。
「ローズ様は華奢でいらっしゃる。はるばる西から来たのです。突支棒くらいには、なっておきませんと、来た甲斐がない」
バーセア伯は豪快に笑うと、ローズが手にしていた果実水を手にとった。
「杯くらいは持たせていただきますぞ。領地に帰ったとき、少しは役に立ったと妻や子、孫に報告せねばなりませんからな」
杯を持つロバートの手を、そっと支えるバーセア伯爵の手付きは慣れたものだ。
「懐かしいですな。今、王太子宮でお世話になっておりますブレンダは幼い頃、身体が弱くて、よく熱を出していました。その度に、こうして飲ませてやったものです」
無骨なバーセア伯爵の子煩悩な一面だろう。実際、王太子宮では、久しぶりにあった孫のミランダに、完全に忘れられていて、嘆いていた。自分の肖像画を置いていく、ブレンダとミランダの肖像画も欲しいと言うバーセア伯爵にアレキサンダーは画家を紹介してやった。
「失礼します」
ハロルドの声に、ロバートが顔を顰めた。
「傷の手当をいたします。皆様のお目汚しでしょうから」
言葉遣いだけは丁重なハロルドに、ローズ以外は部屋から追い出されてしまった。




