12)アルフレッドとアレキサンダー
夜、王宮にある国王の居室の一つでアレキサンダーは、父アルフレッドと酒を酌み交わしていた。
「ロバートは、アスティングス侯爵家の子息達の噂を知っていました」
アレキサンダーの言葉にも、アルフレッドは驚いた様子もなかった。
「そうだな。あのロバートが知らないはずがない」
アルフレッドのいうとおり、ロバートは、王太子宮で、様々な家から使用人や、子女を預かり礼儀作法から何から教育をしている。ロバートは、様々な家の事情に詳しかった。
「今回の暴挙も予想していたようでした」
アレキサンダーは歯噛みした。
「手を出すなと、約束をさせられました」
あの時、理由を問い詰めておけば良かったと思う。
「そうだろうな」
「なぜ、そんなことを、ロバートは私に約束させたのか」
「なぜだと思う」
質問に、質問で返されたアレキサンダーは、逡巡した。
「ロバートは、自分の我儘だといいました。私の身を守るためと。ですが、それだけとは思えません」
アレキサンダーは王太子だ。アスティングス侯爵家が妻の実家であり、ウィルフレッドとウィリアムが義理の兄とはいえ、暴行を止めることは出来たはずだ。暴行をやめさせたところで、アレキサンダーが危害を加えられることはなかっただろう。あの時、己がそれに思い至らなかったことが、悔やまれた。
「他の理由があるだろうね。何か言っていなかったか」
「自分の我が儘の他は、特には何も」
アレキサンダーの言葉に、アルフレッドは首を傾げた。
「我儘か。ロバートには、縁遠い言葉のような気がするが」
「はい」
ロバートは、自分の要求を口に出すことは少ない。ほぼ日課になっている、昼の軽食の時間をローズと過ごせないときにだけ、機嫌が悪くなる程度だ。
「ロバートは、御前会議の日程を知っている。自分の出席が必要なことも知っている。アスティングス家相手に、なにか企んでいるような気がしてね。特に今回は、バーセア辺境伯が来る」
ソフィアの乳母、ブレンダ・バーセアの父親だ。
「娘が同じ馬車に乗っていたから、というのが表向きの理由だ。アーライル家に、騎士団を貸し出し、他にも何かと協力していた。もっと早く来てもよかったはずだ」
アルフレッドが差し出した盃に、控えていた男が酒を注いだ。明らかに影とわかる黒い布で顔を隠した男だった。顔を隠しながらも、堂々と人前に立つ、影は珍しい。アレキサンダーは、長身の男を見つめてしまった。
「明日の話し合いには、アーライル侯爵とレオンの他に、バーセア伯にも同席させる」
アルフレッドの声に、アレキサンダーは視線を戻した。
「はい」
「どうにも秘密主義で、困った子だ」
「はい」
アルフレッドの言葉に、アレキサンダーは深く頷いた。
アルフレッドは、王妃の部屋へと続く扉を見ていた。
「未婚の婚約者同士なのに、同室で休ませても、問題がないというのも問題だ」
もう夜も過ぎている。王妃の部屋では、一つの寝台で、ロバートとローズが仲良く眠っているだろう。
「次の春には結婚だが。その後も、添い寝をしていたらどうする」
アルフレッドの言葉に、アレキサンダーはため息をついた。
もう、この話題は何度目かわからない。
さっさと押し倒せと叫ぶエドガーと、そのエドガーを叱りつけるエリックの幻影が目の前に見えてくるようだ。ヴィクターとアレクサンドラも、赤ちゃんが欲しいと、舅や姑のように騒いでいる。ロバート同様に子供好きなのだろう。ロバートとローズに黙って、子供の名前の候補まで考えているほどだ。
「春になればわかることですからよいではありませんか」
二人の子供はきっと可愛らしいだろう。アレキサンダーの頬は自然と緩んだ。
「名前はどうする」
目を輝かせる父に、アレキサンダーは呆れた。
「ソフィアのときのように、本人たちに決めさせてやってください」
アレキサンダーの言葉に、椅子から身を乗り出していたアルフレッドが、姿勢を戻した。
「親はそうしたいだろうが、私が少し考えてみたところで、問題はあるまい」
ヴィクターとアレクサンドラと、アルフレッドの三人は話が合うだろう。アレキサンダーは、ロバートの親族とは思えないほどよく喋る二人のことを思った。
本日10時から幕間一挙投稿予定です。
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本編第一部第一章 イサカの町にいた頃のロバートのお話です。
お楽しみいただけましたら幸いです。




