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【完結】マグノリアの花の咲く頃に 第四部  作者: 海堂 岬
第十五章 王都への帰還
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11)王妃の間

 王宮の奥、王族が住まう区画は広く、アルフレッドの居室も複数の間に分かれている。その隣、王妃の居室も同じだ。その王妃の居室に案内され、ロバートは愕然としていた。

「王妃様のお部屋は、たしかに、どなたも使っておられませんが、せめて、隣室の、侍女の控えの間などが、あるではありませんか」

アレキサンダーは無駄な抵抗を試みているロバートを眺めていた。


 普段のロバートならそれくらい予め確認したはずだ。打撲と裂傷が痛むだけだというが、よほど不調なのだろう。


 ロバートの抗議は、肝の座った若い侍女達に一刀両断されていた。

「王妃様のお部屋のみ、お掃除致しております」

「アルフレッド様のご命令でございます」

「控えの間はございますが、寝台も狭く、お二人を泊めることなど出来ません」

頭を下げて礼をしているのだが、三人とも相当に気が強そうだ。堂々と宣言していた。


 うち一人が、顔をあげ、パチリと片目をつぶってみせた。


「あの、もしかして」

ローズが、おそるおそるというように問いかけた。

「そうよ、リゼ。じゃなかった、ローズ」

「久しぶり、どう。私達、なかなかいい感じでしょ」

「会いたかったわ」

若い侍女達は、ローズと抱き合って、飛び跳ねながら喜んでいた。孤児院に居た頃のローズの名を知るということは、当時の知り合いだったらしい。アレキサンダーは、幌馬車で連れてきた孤児たちのことを思い出した。


 子供のようにはしゃぐローズを、長椅子に身をまかせたロバートが、見守っていた。


「ロバート、大丈夫」

くるりと振り返ったローズが、慌ててロバートの額に手を添えた。

「少し疲れただけですから」

その様子に、侍女たちは手際よく、茶の用意を始めた。


「ご公務でお疲れと、お伺いしております。どうぞ、おくつろぎくださいませ」

子供のようにはしゃいでいた侍女達が、立派な王宮侍女の仮面を一瞬で纏っていた。


「ありがとう。もう下がってくれて良いですよ」

ロバートの言葉に、三人は一礼すると下がっていった。

 

 とたんに、長椅子に座っていたロバートの体が崩れた。隣に座っていたローズは驚くこともなく、ロバートの体を横たえ、膝枕をしてやっていた。

「馬車の振動かしら」

「おそらくは」


 ローズはロバートの体調を察していたらしい。

「少し食べたら」

「いえ」

「お茶は」

「少し、いただきましょうか」

ロバートが、一度横たえた身をゆっくりと起こす。それにローズが手をかしていた。

 

 アレキサンダーはその光景を黙ってみていた。


 家族が欲しいという、ロバートの願いは、ほぼ叶っているだろう。あとは書類上の問題だけだ。次の春が婚礼だ。無事に挙げさせてやりたい。


 民の目は、奴隷市場に踏み込んだ件に引き付けられている。貴族は、誰に責任をとらせるかで必死だ。この件は、そもそもは、王太子妃グレースの拉致未遂であり、聖女ローズの拉致だ。未だにアレキサンダーの王位継承を望まない者たちが、動いた可能性が高い。根源を絶たねばならない。


「ロバート、お前は休んでいろ。私は戻る」

「アレキサンダー様」

「休んでいろといったはずだ」

見送りのために立ち上がろうとしたロバートを、アレキサンダーは制した。

「明日は打ち合わせだ。しっかり休んでおけ」

「はい」

「アレキサンダー様もご無理なさいませんように」

二人は仲良く並んで座っていた。


 一つ間違えば、この光景が永遠に失われていたのだと思うと、今更ながらアレキサンダーの背筋に冷たいものが走った。


 ロバートは、今朝まで、丸一日眠り続けた。アレキサンダーも、流石に眠りすぎだと感じた。どういう薬湯を飲ませたのだとハロルドに軽く文句を言ったところ、思いがけない答えが返ってきた。


「ここまで眠るほどの、薬湯はありませんよ」

ハロルドは肩をすくめた。

「傷がそんなに酷いのか」

アレキサンダーの言葉に、ハロルドは顔をしかめた。

「傷も軽くはありません。心労ですよ。髪の毛、見ればわかるでしょうに。ロバートは言葉が少ない分、他が分かりやすい」

ハロルドの指摘通り、ロバートの濃い茶色だった髪は、ほぼ白くなっていた。


「無事に王都に帰ってきて、医者の仕事は一段落した。番狂わせのおかけで、そうでもなくなりましたけどね。あなた方はこれからが正念場です。事態が事態だけに、ロバートが大切にしているローズを、また政治の場に立たせる必要があります。ロバートが、巷の噂を知らないとでも、お思いですか。ローズを(おとし)めようとするものがいるでしょう。御前会議じゃぁ、ロバートは許可なく意見も言えない。ロバートも辛いでしょうね」

ハロルドは遠慮のない言葉を並べた。


「お気づきではなかったですか。最近、ロバートは手を握りしめてばかりいます。なにかあるとしか思えない。一度、話をしたほうが良いとは思いますよ。ロバートが、口を割るかは別ですけどね」


 ハロルドの言葉を、アレキサンダーは思い出していた。言うつもりのないロバートに真正面からアレキサンダーが尋ねても無駄だ。


 こういうときは、年長者のほうが上手だ。アレキサンダーは、アレキサンダーのこともロバートのことも、よく知っている年長者の手を借りることにした。


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