10)アレキサンダーの見舞い
ロバートが、腕の中にいる愛おしいローズのぬくもりを堪能していたときだった。アレキサンダーがやってきた。
「ローズがいたのか」
「アレキサンダー様、私はこれで」
「いや、ローズにも話がある」
退出しようとしたローズを、アレキサンダーが止めた。
「四日後に御前会議だ。明日から、いや、今晩から、ロバートとローズは、王宮で過ごせ。打ち合わせも王宮で行う。父上のお心遣いで、父上のお部屋に近い、空いている部屋を使うようにとのお話だ。当日の移動では、ロバート、会議中にお前の体力が持たないのではと、お気遣いだ」
「アルフレッド様が」
ローズの言葉に、アレキサンダーは頷いた。
「無理はさせたくない。だが、王都で安寧を貪っている連中に危機感がなさすぎるのも事実だ。王都の治安を預かる貴族は、その責務を果たさねばならない。ライティーザ王国が法を犯すものを許さないということも、示す好機だ」
奴隷商人達に打撃は与えることができたはずだ。だが、今回の犯罪が成立したのは、様々な軽微な犯罪の積み重ねもあったのだ。
街道沿いの違法な宿屋の取り締まりも始めている。王都の警備兵が役に立たず、城壁にある門が、明らかに怪しい馬車を素通りさせる状況も改善せねばならない。
ローズを抱くようにして座りながらロバートは、ゆっくりとローズの長い髪を指で梳いていた。
「ローズ、あなたも参加できますか」
「はい」
「辛ければ、途中で退席も出来ます。エリックとティモシーをつけます」
「はい」
俯いてしまったローズに、ロバートが頬ずりをした。
「くすぐったい」
「今日はまだ、髭をそっていませんから」
「もう」
目の前で何をやっているのだと、アレキサンダーは言いたい。ロバートとローズにとっては、これが普通であることはわかっている。
「ローズ、今日はありがとうございました。あなたも部屋で休んで下さい」
ロバートの言葉に、ローズは小姓達を伴って、退出していった。
「すまない。また、お前に身代わりをさせてしまった」
二人きりになった部屋で、寝台の真横の椅子に腰かけ、アレキサンダーは詫びた。
もう、何度目かわからない。毒を盛られたり、刺客が襲ってきたり。その度にロバートが、アレキサンダーを庇い、身代わりとなってきた。瀕死となったことも、一度や二度ではないのだ。今回のような怪我など、軽症の部類だ。
「アレキサンダー様、そのような、お気遣いなく。侯爵家の、お二人のことは、判っていたことです。それに、これは、私の我儘です」
「なぜ」
「アレキサンダー様であれば、ローズを守ってくださる。仮に、アレキサンダー様の御身になにかあり、私が残ったところで、私ではあの子は守れない。ウィリアム様と、ウィルヘルム様の横暴は、使用人の間では、有名です」
アレキサンダーを見つめるロバートの目は真剣だった。
「私に何かあっても、アレキサンダー様が、ローズを守ってくださる。それを、約束してください」
「無論だ。だが、そもそもロバート、お前は生きろ。俺は、ローズに泣かれ、グレースに非難轟々、ソフィアにも拗ねられるにきまっている。冗談じゃない」
「最善はつくします。私はローズと家族になりたい。アレキサンダー様、あなたとグレース様とソフィア様のように」
ロバートは微笑んだ。アレキサンダーが久しぶりにみる、ロバートの穏やかな微笑みだった。
「家族が欲しいと、思えるようになりました」
「そうか。それは、よかった」
アレキサンダーの顔にも笑みが浮かんだ。




