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【完結】マグノリアの花の咲く頃に 第四部  作者: 海堂 岬
第十五章 王都への帰還
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10)アレキサンダーの見舞い

 ロバートが、腕の中にいる愛おしいローズのぬくもりを堪能していたときだった。アレキサンダーがやってきた。

 

「ローズがいたのか」

「アレキサンダー様、私はこれで」

「いや、ローズにも話がある」

退出しようとしたローズを、アレキサンダーが止めた。


「四日後に御前会議だ。明日から、いや、今晩から、ロバートとローズは、王宮で過ごせ。打ち合わせも王宮で行う。父上のお心遣いで、父上のお部屋に近い、空いている部屋を使うようにとのお話だ。当日の移動では、ロバート、会議中にお前の体力が持たないのではと、お気遣いだ」


「アルフレッド様が」

ローズの言葉に、アレキサンダーは頷いた。

「無理はさせたくない。だが、王都で安寧を貪っている連中に危機感がなさすぎるのも事実だ。王都の治安を預かる貴族は、その責務を果たさねばならない。ライティーザ王国が法を犯すものを許さないということも、示す好機だ」


 奴隷商人達に打撃は与えることができたはずだ。だが、今回の犯罪が成立したのは、様々な軽微な犯罪の積み重ねもあったのだ。

 

 街道沿いの違法な宿屋の取り締まりも始めている。王都の警備兵が役に立たず、城壁にある門が、明らかに怪しい馬車を素通りさせる状況も改善せねばならない。


 ローズを抱くようにして座りながらロバートは、ゆっくりとローズの長い髪を指で梳いていた。

「ローズ、あなたも参加できますか」

「はい」

「辛ければ、途中で退席も出来ます。エリックとティモシーをつけます」

「はい」

俯いてしまったローズに、ロバートが頬ずりをした。

「くすぐったい」

「今日はまだ、髭をそっていませんから」

「もう」


 目の前で何をやっているのだと、アレキサンダーは言いたい。ロバートとローズにとっては、これが普通であることはわかっている。

「ローズ、今日はありがとうございました。あなたも部屋で休んで下さい」

ロバートの言葉に、ローズは小姓達を伴って、退出していった。


「すまない。また、お前に身代わりをさせてしまった」

二人きりになった部屋で、寝台の真横の椅子に腰かけ、アレキサンダーは詫びた。


 もう、何度目かわからない。毒を盛られたり、刺客が襲ってきたり。その度にロバートが、アレキサンダーを庇い、身代わりとなってきた。瀕死となったことも、一度や二度ではないのだ。今回のような怪我など、軽症の部類だ。


「アレキサンダー様、そのような、お気遣いなく。侯爵家の、お二人のことは、判っていたことです。それに、これは、私の我儘です」

「なぜ」

「アレキサンダー様であれば、ローズを守ってくださる。仮に、アレキサンダー様の御身になにかあり、私が残ったところで、私ではあの子は守れない。ウィリアム様と、ウィルヘルム様の横暴は、使用人の間では、有名です」


 アレキサンダーを見つめるロバートの目は真剣だった。

「私に何かあっても、アレキサンダー様が、ローズを守ってくださる。それを、約束してください」

「無論だ。だが、そもそもロバート、お前は生きろ。俺は、ローズに泣かれ、グレースに非難轟々、ソフィアにも拗ねられるにきまっている。冗談じゃない」

「最善はつくします。私はローズと家族になりたい。アレキサンダー様、あなたとグレース様とソフィア様のように」


 ロバートは微笑んだ。アレキサンダーが久しぶりにみる、ロバートの穏やかな微笑みだった。

「家族が欲しいと、思えるようになりました」

「そうか。それは、よかった」

アレキサンダーの顔にも笑みが浮かんだ。


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