6)花の見える丘
昼食では、ベンの妻だという女性と、ベンの義理の娘たちに歓待された。食堂の規模には、ロバートが驚いていた。晩はまた、ごちそうだからと軽い食事を個室でいただいたあと、郊外に誘われた。
「約束だ。花の見える丘に行こう」
用意されていた馬車に、全員で乗り込んだ。
町の郊外、小高い丘には、様々な野の花が咲いていた。
「特別に植えたわけじゃないけどな。少し手入れしているくらいだ。綺麗だろう」
「えぇ、確かに」
ロバートはローズと並んで敷物に腰をおろしていた。
「どっこらせ」
アレキサンダーの敷物の隣に、ベンが敷物をひろげ、腰を降ろした。
「王太子様、ロバートを寄越してくださって、ありがとうございました。ロバートは、王太子様の腹心だって聞きました。一の部下、店で言ったら番頭です。そんな人を、こんな国境の町まで寄越してくださって本当にありがとうございました。疫病です。町ごと焼き払われてもおかしくなかった。それがほら、みんな元気で、生きています。ありがとうございました」
実直な男の感謝の言葉は、アレキサンダーの胸を打った。
「私もお前達に礼を言わねばならない。ロバートが世話になった。あれは、優秀だ。優秀な分、周囲はロバートに遠慮し、距離をとりがちだった。お前達のように遠慮なく振る舞う者は、少なかった」
ロバートは、以前に比べて人付き合いがしやすくなったと、多くの者が言う。アレキサンダーは、ローズがいるからだと思っていた。だが、イサカの町の男達は、ロバートを相手に遠慮なく振る舞っていた。
「他人に仕事を任せることも、苦手だった。イサカから戻ってきて、割り振りができるようになった。ここでの経験だろうな」
イサカの町には、様々な職種、出身の者がいた。町で何かをするには、多くの人の手を借りたとロバートは言っていた。その経験がロバートを変えたのだろう。
「私もお前達に礼を言う。ロバートが世話になった。お前達も、この町も私の民だ。私は、これからも民がよりよい生活ができるようにしていきたい。イサカの町は、私の名代であるロバートと、町の民であるお前達が救った。私やロバートだけではできなかったことだ。礼を言う」
他の町でもできないかと、王太子領や王領で模索しているところだ。
「恐れ入ります。そうおっしゃっていただけると、儂は本当に嬉しいです。あの日、ロバートをイサカの町まで乗せるまで、儂はただの御者でした。町から町への往復で、それで満足していた。でも、町のために来てくれたロバートのために、あの日、一緒にやると決めてよかった。嬉しいです。ありがとうございます」
ベンは、晴れ晴れとした笑顔を浮かべていた。




