4)王太子宮
王太子宮につくや、出迎えて馬車の扉を開けた者が、そのまま腰を抜かして倒れてしまった。
「何をしている、担架を用意してあるはずだ。ハロルドにも連絡しただろう」
アレキサンダーの声に、我に返ったのだろう。担架でロバートが運び出された。
部屋に運び込まれたロバートは、服を脱がされ、その傷を見たハロルドは顔をしかめた。
「これは」
上半身は痣だらけで、何箇所も筋状に皮膚が裂けている。首には絞められた跡があり、絞めた指の痕まではっきり残っている。そっとハロルドが傷に触れ、ロバートがうめいた。
「折れている。息を吸うと痛むな」
ロバートが頷く。
「裂けている。鞭か。深いな」
ハロルドの眉間の皺が深くなった。
「手当するが、当面は、安静だ」
「御前、会議が、近々」
ロバートの掠れた声に、ハロルドが顔を顰めた。
「やめろと言いたいが。俺の立場では、どうしようもない」
ハロルドは、ロバートの口元に布を差し出した。
「噛んでおけ」
傷の処置は痛みを伴う。叫ぶならばまだよい。ロバートは堪えてくいしばる。歯が砕け、唇や舌を噛んで怪我をする可能性がある。素直に口を開けたロバートに、ハロルドは猿轡を噛ませた。
ノックと共に扉が開かれ、軽い足音がした。
「ロバート!」
ローズの声だった。
「止めろ、部屋に入れるな」
アレキサンダーの命令は間に合わず、ローズが寝台にうつ伏せに寝かされたロバートに駆け寄った。近習の一人が慌てて、ロバートの身体に布をかけたが、間に合わなかった。
「どうして、こんな、ひどい」
ローズの手が、ロバートの首の痣に触れた。猿轡を噛まされたままのロバートが、ローズの手をとった。
「酷い」
ローズの目から涙がこぼれ、そのまま倒れてしまった。近習の一人が支えた。
「誰だ。連れてきた者は」
「申し訳ありません。先程からローズがロバートを探していたので、馬車が見えた時に、帰ってきたと伝えてしまいました」
アレキサンダーに答えたのは、ティモシーだった。
事情を知らなかったとはいえ、ローズをつれてきた間が悪過ぎた。
「ローズは部屋で休ませてやれ。侍女の誰かをつけろ、ローズを一人にするな」
「はい」
ローズは、ティモシーに背負われて部屋を出ていった。ロバートの目が、ローズを追う。
「ロバート。動くな。手当をしたら、ローズに会いに行っていいから、今はおとなしくしろ」
ハロルドは、弟子とともにロバートの手当を始めた。
「くうっ」
ロバートが呻き、手がシーツを掴む。
「ほら、全員出ていけ! 見世物じゃない」
ハロルドが怒鳴った。




