2)アスティングス家への訪問
貴族の誇りなど面倒だ。ましてや、それ以上の立場など、俺は望まない。かつて、始祖はそう語ったとロバートは、母アリアから聞いている。師匠も言っていた。
事実面倒だ。ロバートも思う。
ロバートは、窓の外の光景を眺めていた。王太子宮に到着したのが朝だ。火急の要件だけを片付け、今はアスティングス侯爵家に向かっている。向かいに座っているアレキサンダーは、少し落ち着かない様子だ。
無理もない。
何度書状を送っても、返事のなかったアスティングス侯爵、妻グレースの父にこれから会おうというのだ。書状には一切返事がなかったというのに、訪問はあっさり許可された。
何かあるに決まっている。
それが何であれ、使用人であるロバートには何も出来ない。アレキサンダーを守ることができればよいだけのことだ。アスティングス侯爵家の使用人達から漏れ聞く噂が、どこまで真実かはわからない。
アレキサンダーが無茶をしなければ、おそらくある程度のところで、彼らは手を打つだろう。
「アレキサンダー様、何があっても手を出さないとお約束ください」
ロバートの言葉に、アレキサンダーが眉を顰めた。
「何が言いたい」
「あくまで噂ですので、申し上げられません。あえて言えば、アスティングス侯爵家のご子息であらせられるウィリアム様、ウィルヘルム様が、アレキサンダー様の側近ではない理由と、関係があるということでしょうか」
使用人達からの情報は、誇張されている可能性がある。だが事実無根ではない。アルフレッドは、彼らをアレキサンダーの側近に出来ないと判断した。
貴族は本当に面倒だ。貴族でなければ、躾け直してやりたい。グレースは、乳母であったサラの影響か、令嬢として問題はなかった。
グレースは、王太子妃としての自覚を得たのだろう。未来の王妃としてお仕えしたいと思える方になって下さっている。
アスティングス侯爵は、嫡男次男をどう教育したのか、正直腹立たしい。妹のグレースを見ていれば、素質は十分あったはずなのだ。
ロバートは、思考を今に戻した。考えても仕方ないことなのだ。
「アレキサンダー様。どうかお約束ください」
「わかった」
不承不承のアレキサンダーの返答に、ロバートは微笑んだ。
「今回の件、どう思う」
「どうとは」
アレキサンダーの問いは曖昧だった。
「アスティングス家だ。あの辺り一帯の町の警備隊は、アスティングス家の管轄下だ」
「はい」
「グレースの行程を、襲撃した連中は、なぜ知っていた」
「アスティングス家は、ローズの救出その他に一切支援してくださっていません」
馬車の中に沈黙が降りた。不審な点を口にすればするほど、アスティングス侯爵家の不信感が増していく。
「今日は、アスティングス侯爵の出方を見たほうがいいだろうな」
アレキサンダーの言葉に、ロバートは微笑んだ。
「はい。ですので、アレキサンダー様、何があっても手は出さないでください」
「何を企んでいる」
「人聞きの悪いことをおっしゃらないでください。そのほうが、後々こちらが有利になるはずです」
「なぜだ」
「いずれ、おわかりになります」
人はそう簡単には変わらないはずだ。ロバートはそれ以上のことは、正義感の強いアレキサンダーには言うつもりはなかった。
次の御前会議には、ブレンダ・バーセアの父、バーゼア辺境伯が来る。彼は、バーセア家の先祖やアーライル家の先祖について知っているはずだ。レオン・アーライルとは既に何度も打ち合わせをし、アレキサンダーとロバートが望むことを伝えている。
レオン・アーライルを、父親のアーライル侯爵とバーセア辺境伯が支えてくれたなら、御前会議はアレキサンダーが願う議決から、大きくそれることはないだろう。
出来る限りの手は打った。あとは、相手の出方次第だった。




