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【完結】マグノリアの花の咲く頃に 第四部  作者: 海堂 岬
第十五章 王都への帰還
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2)アスティングス家への訪問

 貴族の誇りなど面倒だ。ましてや、それ以上の立場など、俺は望まない。かつて、始祖はそう語ったとロバートは、母アリアから聞いている。師匠も言っていた。


 事実面倒だ。ロバートも思う。


 ロバートは、窓の外の光景を眺めていた。王太子宮に到着したのが朝だ。火急の要件だけを片付け、今はアスティングス侯爵家に向かっている。向かいに座っているアレキサンダーは、少し落ち着かない様子だ。


 無理もない。


 何度書状を送っても、返事のなかったアスティングス侯爵、妻グレースの父にこれから会おうというのだ。書状には一切返事がなかったというのに、訪問はあっさり許可された。


 何かあるに決まっている。


 それが何であれ、使用人であるロバートには何も出来ない。アレキサンダーを守ることができればよいだけのことだ。アスティングス侯爵家の使用人達から漏れ聞く噂が、どこまで真実かはわからない。


 アレキサンダーが無茶をしなければ、おそらくある程度のところで、彼らは手を打つだろう。


「アレキサンダー様、何があっても手を出さないとお約束ください」

ロバートの言葉に、アレキサンダーが眉を顰めた。


「何が言いたい」

「あくまで噂ですので、申し上げられません。あえて言えば、アスティングス侯爵家のご子息であらせられるウィリアム様、ウィルヘルム様が、アレキサンダー様の側近ではない理由と、関係があるということでしょうか」

使用人達からの情報は、誇張されている可能性がある。だが事実無根ではない。アルフレッドは、彼らをアレキサンダーの側近に出来ないと判断した。


 貴族は本当に面倒だ。貴族でなければ、躾け直してやりたい。グレースは、乳母であったサラの影響か、令嬢として問題はなかった。


 グレースは、王太子妃としての自覚を得たのだろう。未来の王妃としてお仕えしたいと思える方になって下さっている。


 アスティングス侯爵は、嫡男次男をどう教育したのか、正直腹立たしい。妹のグレースを見ていれば、素質は十分あったはずなのだ。


 ロバートは、思考を今に戻した。考えても仕方ないことなのだ。


「アレキサンダー様。どうかお約束ください」

「わかった」

不承不承のアレキサンダーの返答に、ロバートは微笑んだ。


「今回の件、どう思う」

「どうとは」

アレキサンダーの問いは曖昧だった。

「アスティングス家だ。あの辺り一帯の町の警備隊は、アスティングス家の管轄下だ」

「はい」

「グレースの行程を、襲撃した連中は、なぜ知っていた」

「アスティングス家は、ローズの救出その他に一切支援してくださっていません」

馬車の中に沈黙が降りた。不審な点を口にすればするほど、アスティングス侯爵家の不信感が増していく。


「今日は、アスティングス侯爵の出方を見たほうがいいだろうな」

アレキサンダーの言葉に、ロバートは微笑んだ。

「はい。ですので、アレキサンダー様、何があっても手は出さないでください」

「何を企んでいる」

「人聞きの悪いことをおっしゃらないでください。そのほうが、後々こちらが有利になるはずです」

「なぜだ」

「いずれ、おわかりになります」


 人はそう簡単には変わらないはずだ。ロバートはそれ以上のことは、正義感の強いアレキサンダーには言うつもりはなかった。


 次の御前会議には、ブレンダ・バーセアの父、バーゼア辺境伯が来る。彼は、バーセア家の先祖やアーライル家の先祖について知っているはずだ。レオン・アーライルとは既に何度も打ち合わせをし、アレキサンダーとロバートが望むことを伝えている。


 レオン・アーライルを、父親のアーライル侯爵とバーセア辺境伯が支えてくれたなら、御前会議はアレキサンダーが願う議決から、大きくそれることはないだろう。


 出来る限りの手は打った。あとは、相手の出方次第だった。


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