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20)老夫婦2

 翌日、老夫婦への尋問が始まった。

「代々、ダミアン男爵様に家令として仕えてまいりました。私はオリヴァー、妻はバーバラと申します。おそらく、今も長男クラークが仕えております。リチャードは次男です。リチャードは、ダミアン男爵家の騎士団長でした」


 アレキサンダーに身の上を語る老人の所作は、貴族の使用人であった彼の経歴を感じさせた。

「先代様にお仕えしていたころは良うございました。当代様になってからでございます。先代様と同い年の従兄弟であるレスター様は、大変に優秀な方でございました。子爵家から血縁のリヴァルー伯爵家に、その能力を見込まれ婿養子として迎えられたのです。あれよあれよという間に出世され、宰相となられました。レスター・リヴァルー伯爵様、宰相様と、ご一族の中で尊敬を集めておられました」


 レスター・リヴァルーが宰相となったのは、アルフレッドの先代、ナサニエル王の時代だ。ロバートは、他人の身の上話を打ち切りたいという誘惑を、史実を思い出すことで抑えていた。アレキサンダーの目は、既にどこか遠くを見ている。


「先代様は、それをご覧になり、ダミアン男爵家もそれに続きたいと思われたのです。当代様を、それはそれは厳しくお育てになりました。レスター・リヴァルーのように、才覚で男爵家を発展させろと、おっしゃいました。残念ながら、当代様は、それを間違った方法でなさったのです」


 老人の話がようやく本題に差し掛かってきた。

「家令でありながら、私ではお止めすることはできませんでした。間違ったことです。民に様々な税を課し、税率を上げ、違法な通行料をとり、挙げ句には、領内の裕福な者達を冤罪で陥れ、財産を召し上げました。息子、リチャードは、それを止めようとして、謀反を問われ、妻と子を連れ、部下とともに逃亡しました」


 リチャードは、ダミアン男爵家の騎士団長でありながら、当主に謀反の濡れ衣をかけられた。家族を連れた無謀な逃亡に付き従った部下がいたということは、相当人望があったのだろう。

「私共は、息子の罪は、私共の罪であると、お叱りを受けました。長男クラークは、逃げられないようにと、足の筋を切られました。今もダミアン男爵家におりましょう」


 ダミアン男爵自身、悪行を成しているという自覚はあるのだろう。罪人でもない男の足の筋を切るなど、残虐極まりない。

 

 老夫婦はダミアン男爵家の資産を管理していた。オリヴァーの語る後ろ暗い金の動きは、多岐にわたり、金額も相当なものだった。


「帳簿の場所を、私は知っております。ただ、今もそこにあるかわかりません」

オリヴァーの言う場所は、ダミアン男爵家の最深部だった。


「写しはございます。訴え出る場があればと用意いたしました。屋敷にあります。場所は、クラークも知っております」

クラークが場所を知っているとはいえ、足の筋を切られ、歩くことが容易でないはずだ。クラークが、それらを持ち出し逃げることは、不可能に近い。


 ロバートが、ダミアン男爵家にある書類を、いかに手に入れるかと考えていたときだった。

「ダミアン男爵様は、年を取り、目が遠くなった私と、耳が遠くなった妻は、役に立たないとお考えになりました。ダミアン男爵様は、始末したい者を、奴隷商人に引き渡します。代金はお受け取りになりません。金銭の授受がなければ奴隷の売買にかかわったことにはならないとお考えです。奴隷として売れば、死体の始末が要らないと、常々おっしゃっておられました」


 オリヴァーの言葉にローズが小さく叫び、手で耳をふさぎ震えだした。ロバートがローズを抱きしめた。

「私」

「大丈夫です。ローズ。もう大丈夫」

アレキサンダーの合図で、ロバートは震えるローズを抱き上げ、別室へと下がった。


 アレキサンダーが、顔をしかめた。

「不用意に聞かせてしまったか」

「申し訳ないことを、なんということを、私は、申し訳ありません」

オリヴァーは、青ざめ、必死でわびてきた。


 ダミアン男爵は、殺す代わりに奴隷商人に引き渡すと、ダミアン男爵家の家令だったというオリヴァーは言った。奴隷として売られそうになっていたローズも、同じ目的で競りに立たされていたのだ。実際、誰かわからないが貴族らしい男に会っており、その声をローズは聞いたことがあると言っていた。


 ローズは、この国から消されそうになっていた。殺されていてもおかしくなかった。


「ローズを御前会議から下がらせたが、既に十分すぎる恨みを買っていたようだな」

アレキサンダーは、後悔していた。


 王都の口さがない貴族の間では、既にローズの良からぬ噂が広まっていると、グレースから連絡があった。王太子宮で開かれていた茶会では、ブレンダの機転で、その場は事なきを得たらしいが、噂というのは留める方法がない。明らかに誰かが、悪意を持って広めているのだろう。


 ティタイトとの国境地帯である東では、馬商人達が、ローズを、奴隷を救った聖女として噂を広めているらしい。今いる南でも、家族を取り返した者達がいるためか、ローズの慰問が功を奏してか、ローズを(おとし)めるような噂はない。


 王都では、大司祭が聖アリア教の司祭達を通じて、民に聖女ローズの功績を説いている。


 聖女ローズは、聖女の善行に嫉妬する者により、人攫いに拉致(らち)された。憂き目にあいながらも、罪深い奴隷商人達を改心させ、奴隷市場まで王太子一行を導いた。自らの身を危険に晒しながらも、奴隷として売られようとした人々を助けた聖女ローズ、ライティーザ始まって以来の大規模な奴隷市場の摘発を成し遂げた王太子アレキサンダーを司祭たちは讃えた。


 吟遊詩人達も国の各所で、奴隷商人たちからライティーザの民を救った聖女ローズと王太子アレキサンダー、聖女ローズの婚約者であるロバートを讃える歌を歌っている。


 カールからは、芝居にしたいという連絡もあった。


 ライティーザ建国時から、奴隷制度は廃止されたはずだった。制度をかいくぐり奴隷売買が続いていた。それぞれの妻を愛した建国の双子王にとって、奴隷の廃止は悲願だったはずだ。彼らの子孫として、それを成し遂げる手がかりを得た、強い感慨があった。


 今回の大規模な摘発はこの国始まって以来のことだ。


 それだけのことを成し遂げたというのに、王都にいる貴族の間でだけ、ローズを()しざまに言う噂が広まっているというのは異様だ。誰かの悪意が、それも一人や二人ではない者の悪意があると思わざるを得ない。


被害者を悪し様にいう暇があるならば、事件の全貌を明らかにすることに手を貸してはどうかと思うが、無能なものほど、無益なことに労力を使う。


 ローズをいつ、そのような者が跋扈する王都に連れ帰るかも、問題だった。



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