表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/210

18)少年

「どうしてもローズ様に会いたいといって聞かない子がいます。一度会ってやってくれませんか」

ある日、執務室に、保護された者達の対応に当たっていた男がやってきた。


「私に。わかったわ。でも、なぜかしら」

ローズは首をかしげた。

「会っていただけたら、わかると思います」

男はそう言うだけだった。


 大半の奴隷は、それぞれの土地へ送り出された後だ。残っていたのは、老夫婦と、各地の孤児院への出発を待つ子供たちだった。


 ローズはロバートに連れられて彼らの前に立った。

「おれはあの姉ちゃんの家来になる!」


 子供たちの一人、十歳にも満たないような少年が、ローズを指して叫んでいた。威勢のよい少年に、ローズは思わず微笑んだ。

「あの子、ずっとあぁだよ」

「毎日ずっと言ってる」

周りの子供たちは、騒ぐ少年に動じた様子もなかった。


「親が見つからない子や、育てられない子は、各地の孤児院に送り届けています。孤児院が預かることが出来る人数には限界がありますから。順に出発させています。この子は毎回、どうしても嫌だといって残ってしまっているのです」

担当者の言葉に少年は胸を張った。


「おれは、姉ちゃんの家来になるんだ!孤児院にはいかねぇぞ!」

自慢することではないだろうに、堂々と宣言した。


 ローズは苦笑した。ロバートは呆れているのだろう。無言だった。

「あなた、お名前は?」

「ジャック」

「そう、私はローズ」

「おれは、ローズ姉ちゃんの家来になる!」 

一生懸命そういってくれる子供はかわいいが、ローズは、誰かを配下に持つような立場ではない。


「私は、王太子様にお仕えしているの。私自身が家来だから、あなたを家来にできないわ」

「やだ!」

「申し訳ありません。毎日のように言い聞かせているのですが、頑固な子供でして」

担当者はため息をついた。


「ジャック、あなたがきちんと勉強をして、賢くなって、訓練をして強くなって、両方をがんばったら、王太子様にお仕えできるかもしれないわね」

ローズは微笑んだ。

「王太子様?」

「私がお仕えしている方よ。私は、孤児院で沢山勉強をして、王太子様にお仕えすることになったの。あなたも沢山勉強して頑張ったら、王太子様にお仕えできるかもしれないわね。」

「ローズ姉ちゃんの家来じゃなくて、別の人の家来になるの?」

少年は頬を膨らませた。


「ジャックですか。あなたが、ローズの話が分かるくらいに勉強して、私が一人前と認めるくらいの腕前になったら、ローズと同じ方にお仕えして、一緒に働く事ができますよ」

呆れていたロバートも、ジャックの熱心さに目を向けることにしたのだろう。条件を提示しはじめた。


「おう、兄ちゃん、本当だろうな。嘘じゃないよな」

ジャックがロバートに詰め寄った。


「あなたの努力次第です。ローズは孤児院で人並み以上に勉強しました。今も勉強しています。ローズが育ったグレース孤児院に行くことが出来るように手配しましょう。しっかり勉強してください。グレース孤児院では、アーライル家が若手を集めるために剣の訓練をしています。あの孤児院が良いでしょう」

ロバートの言葉に、担当者が一礼した。

「承知しました」


「あの、ローズ姉ちゃんって賢いの?」

「王太子様にお仕えして、執務のお手伝いをしています」

ジャックの質問にロバートが答えた。

「まじかよ。兄ちゃんに一人前に認めてもらうっていうけどさ、兄ちゃんって強いの?」

 

 曖昧に微笑むロバートの代わりに、ローズが答えた。

「市で飛んできた矢はあなたも見たとおもうけど、壇上に居た人を射たのはロバートよ」

「まじかよ。無理だぁそれじゃ」

ジャックはため息をついた。


「大丈夫よ。沢山勉強して、沢山練習したらいいわ」

ローズが明るく励まし、ロバートの手をとった。

「みんな沢山練習しているの。ほら」


 ロバートの手は、剣や弓の鍛錬で皮が厚くなっている。だから、触れられたら、ローズには、すぐにロバートの手とわかる。訓練を積んだ手には、安心できるものがあった。


 ジャックは自分の手を見た。畑仕事をしていたから、鍬でできたタコはある。見せられた男の手とは全く違う。沢山練習しないといけないのだ。


「頑張ってね」


 孤児に読み書きを教えていた孤児院は、近隣の子どもたちにも教えるようになった。今は、孤児院に学校が併設されている。教育を受けた子供たちの中には、貴族に小姓や侍女として雇われるものもいた。職人の見習いとなる子もいる。養子縁組されることも増えた。基本的な躾がなされ、読み書き計算が出来るということは、価値になるのだ。


 家族の縁がないということは、新しくできた縁を大切し、裏切らないはずだと、アーライル家は、見込みある少年たちを次々訓練兵に採用していた。

「五年は待ちましょう。できれば三年以内に王太子宮で使えるくらいになってください」

「おう、わかった」


 ロバートの出した条件に、ジャックは元気よく答えた。

「ジャック、そういうときの返事は、『承知しました』です」

ロバートが静かな声で訂正した。


「承知しましたぁ」

他の子供たちと一緒にジャックは部屋を出ていった。外に出ても、ジャックが、承知しました、三年だぁ等と、叫んでいるのが聞こえてくる。


「楽しみね」

ローズは楽しそうに笑った。

「いいのですか」

「なにが」

ロバートの言葉に、ローズは首をかしげただけだった。


 ロバートは自分の手を見た。今まで気にしてもいなかったが、鍛錬のため手の皮が厚くなっている個所がある。硬い手だ。ローズの柔らかい頬は、こんな手では痛かったのではないだろうかと、気になった。

「守ってくれる優しい手よ」

ローズはロバートの手を取ると、そっと頬にあてた。

「安心できるわ」

ロバートはそっとローズを抱きしめた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ