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15)ロバートとエリック 長と影

 扉が開く音に、ロバートは枕の下に手を差し入れた。当然あるはずの剣が手に触れず、一気に覚醒した。


「私です」

囁くようなエリックの声に、ロバートは全身の力を抜いた。傍らで眠るローズは、気持ちよさそうに寝息を立てている。

「先程、ローズ様が起きてこられたので食事を用意させました。眠ってしまわれたようですね」


 師匠に師事したエリックは、影となることを選んだ。それ以来、人目のない時は、影として振る舞うようになった。一番変わったのは言葉遣いだ。

「エリック」

「あなたは近習筆頭であり、長です。今、この会話を聞いている者は、私と、ロバート様、長であるあなたのみです」

ロバートは(たしな)めようとしたが、エリックのほうが早かった。

「時と場合を選ぶことを忘れないでください」


 ロバートは、この手の話題では連敗続きだ。どうせ、言い負かされる。眠っているローズを起こすわけにも行かない。早々に白旗を振った。


「若いお二人のようなことは、いたしません」

ヴィクターとアレクサンドラは、ロバートを、公務以外の場では、“ロバート兄様”と呼ぶようになってしまっている。


「食事を、お召し上がりになりませんか。先程ローズ様が目を覚まされました。用意をしたのですが、お休みのようですので」

そう言いながら、エリックは月明かりだけを頼りに、食事の用意を整えていく。


「夜ですね」

「はい。アレキサンダー様は、絶対に起こすなとおっしゃいました」

アレキサンダーに、気遣われていたことは知っている。眠らなければと思ったが、悪夢に(うな)され、眠れずにいた。


 眠ったと思えたのは、いつ以来だろうか。

「いえ、灯りは必要ありません。ローズが眠っていますから」

「暗いままではお食事は、難しいとは思いますが」

そう言いながらも、エリックは一度つけた灯りを消した。灯りで一瞬照らされたローズの顔を、ロバートは目に焼き付けた。


 再会した時、馬上で抱きしめたローズの細さに、ロバートは己を責めた。再会したローズは、その頃よりは、少しましになっていた。


 ローズを王都に戻らせるという案もあった。グレースから、王都でローズに関して不名誉な噂を立てている者がいるという知らせがあり、ローズは南に留まっている。


 アレキサンダー達が逗留している貴族の屋敷では、奴隷市場を摘発した後始末が行われている。


 ローズを、奴隷商人たちの裁きに関わらせては、辛い記憶を呼び起こしかねないことが懸念された。


 大司祭からの申し出もあり、ローズは教会で宿泊をすることになった。幼い頃からのローズを知るサンドラが、ローズに付きそうことを申し出てくれた。


 ローズには、心穏やかに過ごさせてやりたいと思う。少なくとも、ローズを直接知る者達は、みなそう思ってくれているはずだ。


ロバートの都合で、事後処理に追われる屋敷にローズを連れてこざるを得なかった。不甲斐ない自分が情けないが、ローズの不在が耐えられなかった。


「終わられましたら、声をかけてください。外に控えております」

エリックは一礼すると、部屋から出ていった。


「ローズ。食事ですよ」

ロバートが呼びかけても、ローズは目覚めない。

「ローズ」

パンでローズの唇をつついてみたが、眠そうに顔をそむけただけだった。

 

 サンドラから、ローズが一人では過ごせなくなっているという報告を受けていた。心細そうにしていると、騎士達からも報告があった。


 ロバートが悪夢に魘されるように、ローズも苦しんでいると知らされ、ロバートは後悔した。


「あなたを守ると誓ったのに」

 誰よりも、何よりも、ローズを守ってやりたい。それがロバートの願いだ。王家を守るべき、“王家の揺り籠”本家当主としては失格かもしれないと恐れたこともある。師匠は、それが一族だ。お前に大切な人が出来てよかったと言ってくれた。


 ロバートは、守りたいローズを守れなかった自分が、不甲斐なく、情けなかった。


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