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14)ローズとエリック

温かい息遣いを感じ、ローズは目を覚ました。ロバートの腕に包まれ暖かい。ローズは、間近にあるロバートの顔を眺めた。


 会いたかった。ローズの記憶にあるよりも、ロバートは、窶れてはいるが、今は目を閉じ、穏やかな表情で眠っている。窓の外は明るい。まだ日中なのだろう。


「ロバート」

眠っているロバートからの返事はない。

「助けてくれてありがとう」

精一杯背を伸ばしても、ローズではロバートの唇には届かない。かろうじて届いた首筋に口づけた。ロバートの胸がゆっくりと上下している。ローズは、ロバートを起こさないよう、もう一度目を閉じて、眠ることにした。


次にローズが目を覚ました時、日は落ちていた。暗い部屋に、ローズのものではない寝息が聞こえる。ローズはそっと、自分を包む腕の中から抜け出した。


「起きましたか」

廊下にエリックがいた。

「エリック、あなたもしかしてずっと」

ローズの言葉にエリックは首を振った。

「いいえ。交代制です。偶然私の順番でした。仮眠をとっていましたし、お気遣いなく」 

エリックは微笑んだ。


「夕食の時間は過ぎてしまいましたが、召し上がりますよね。食事を用意してもらいましょう」

エリックの合図で、小姓が走っていった。


「ローズ、部屋にいてやってください。ロバートが目覚めた時、あなたがいなくては、彼が心配します」

エリックの言葉に、ローズはフレデリックから聞いた話を思い出した。

「エリック、あなたも一緒だったと聞いたわ。ありがとう」


 ローズの言葉にエリックは頭を下げた。

「あなたをずっと追っていました。事情が事情です。途中であなたを救出するわけにもいかなかった。申し訳なかったと思っています」

エリックの言葉にローズは首を振った。

「あなたのせいではないわ。奴隷市の場所を突き止める必要があることくらい、私でもわかるもの」


 ローズの言葉に、エリックは苦笑した。

「あなたはそう言うでしょうね。ロバートにも言ってやってください。ロバートはずっと自分を責めています。何日も、まともに休んでいない」

「ロバートが」

「責任感が強すぎるのも、考えものです」


 ローズは笑った。

「あら、自己紹介ね」

エリックも、ロバートに負けず劣らず責任感が強く真面目だ。時にロバートよりも、融通が利かないこともある。

「言いますね」

エリックがそう言いながら差し出した果実水を、ローズは受け取った。


 物静かなエリックは、アレキサンダーに仕える近習の中でも古株だ。王太子となってからのアレキサンダーしか知らないというが、当時のアレキサンダーを知り、生き残っているのはロバート以外ではエリックしか居ない。


 次に古株のエドガーは、少し落ち着いた頃に、エリックを頼って王太子宮に現れた。メアリと一緒に雇って欲しいというエドガーの願いは、当時人手が足りなかった王太子宮で歓迎されたとローズは聞いている。


 アレキサンダーの腹心はロバートだが、ロバートの腹心はエリックだ。エドガーがそれに続いている。


 ロバートが、アレキサンダーの視察で同行する時、大抵はエリックが王太子宮に残り、近習筆頭代行を務める。エリックがロバートの師匠のところで修行するため不在だった間は、エドガーが代行だった。貴族の客人相手は疲れると、妻のメアリを相手に愚痴をいいながら、きちんと礼儀正しく接するエドガーは面白かった。


 ロバートとエリックの二人が、同時にアレキサンダーのもとを離れることは、殆どない。二人がローズを追ってきてくれたというのは異例だ。アレキサンダーは、限られた中から、最もローズのためになる選択肢を選んでくれた。


「ローズ、部屋に戻ってあげてください。ロバートが目を覚ます前に。あなたが居ないと、心配します。食事が届くにはまだ、間があるでしょうから。届いたら、部屋に運びます」

「はい。ありがとう。エリック」

 エリックの言葉に、ローズは部屋に戻った。


 寝台ではロバートが眠っていた。ロバートの腕の中に、ローズはもう一度潜り込んだ。暖かい。帰ってきたのだ。ロバートの腕に包まれ、ローズは目を閉じた。


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