13)二人の距離
ローズは、湯浴みをして、サンドラの手をかりて寝間着に着替えた。まだ日は高いが、既に眠気を感じていた。
サンドラと入れ替わるように、ロバートは部屋に入ってきた。ローズは寝台に腰掛けた。
「飲みますか。果実水です」
受け取った水は、微かに甘酸っぱい味がした。
「このあたりの果実です」
「おいしいわ。ありがとう」
ロバートは寝台の側にあった椅子に座っていた。
ローズは横になり、ロバートの手を握った。
貴方をシーツごと抱きしめて幸せそうに寝ておられたからという、サンドラの言葉を思い出し、ローズは赤面し、ロバートの手を強く握ってしまった。
「どうしました。ローズ」
ロバートが、心配そうに顔を覗き込んできた。
「大丈夫、ちょっと」
ちょっと何だろうか。言いかけてローズは止まってしまった。言葉が思いつかない。ロバートの手がゆっくりとローズの頭を撫でてくれる。気遣わしげにローズを見つめながら、ロバートは、言いよどんだローズの言葉を待ってくれている。
もうちょっと、近くにいて欲しい。添い寝をしてほしい。一人が怖い。サンドラが相手ならば素直に言える。だが、相手がロバートとなると、ローズは素直になれなかった。
「あの、一人が嫌だから、そばに、いてくれる」
ローズは、そういうのが精一杯だった。
「えぇ、勿論」
ロバートは微笑む。
添い寝してほしい。小さい子にするように。手を繋いで一緒に横になって欲しい。素直に言ったらロバートは、ローズの言うとおりにしてくれるだろう。
「ねぇ、ロバート、もうちょっと」
ローズはロバートの手を引き、頬を寄せた。椅子に座っているロバートでは、遠いのだ。もっと近くにいて欲しい。
訝しげだったロバートが微笑んだ。
「眠るまで、添い寝しましょうか」
「はい」
嬉しくてローズの声が弾んでしまう。小さな子供みたいで恥ずかしくなり、シーツを顔まで引っ張り上げた。
「どうしました、ローズ」
ロバートが身を横たえて、寝台にできた傾斜のままに、ローズはロバートの腕の中に収まった。
「おや」
おかしそうに笑うロバートだが、寝台に身を横たえただけだ。ローズのようにシーツに包まってはいない。
貴方をシーツごと抱きしめて幸せそうに寝ておられたから。ローズの耳に、サンドラの言葉が、また蘇ってきた。おそらく、今、ローズは、サンドラが見た光景のようになっているのだろう。
「お休みなさい。ローズ」
「お休みなさい」
慣れた匂いと声に、ローズは目を閉じた。
横になれば、少しはロバートも休む事ができるだろう。ローズに添い寝してくれている以上、ローズが眠るまで、ロバートは起き上がることはないだろう。それで少しは休めたら良い。
間近でみたロバートの顔は窶れていた。ロバートは他人に弱みを見せるのは嫌いだ。だから、黙っていたが、目の下にはっきりと刻まれた隈が、記憶にあるより痩けた頬が、ほとんど白くなった髪が、ローズは心配だった。
少しでいいから休んで欲しい。
執務室にあった書類は、一日二日無理したところで、片付くような量ではなかった。だったら、体調を整えて毎日少しずつ片付けていったほうが、効率良いはずだ。
ローズは、眠気に身を任せながらも、ロバートに手をのばし、肩に手を回した。ロバートが少しでも起き上がりにくくなり、少しでも休めると良いと願った。




